上 下
56 / 123

23-01 両手に※(両刀発言注意)

しおりを挟む

 尿意に耐えていたおかげか、ノイナは二人が目覚めるより前に起きることができた。しかし時間を置いたせいで股にかかった白濁は微妙な乾き具合になって、なかなかに気持ちが悪かった。
 それもあって先に一人で入浴を済ませた彼女は、寝室を覗き見て起き上がっている二人の姿を見つけた。


「おはようございます、二人とも」
「…………」


 なぜか同じベッドで寝ていたお互いを見つめて、二人は沈痛な面持ちを浮かべている。
 ちょっとだけ面白くなってしまったノイナは、笑みを堪えながら尋ねる。昨夜のことは覚えているか、と。


「嘘だと言ってよ、ねぇノイナ! 俺は男となんて寝ないから!」
「昨日の記憶があまりない……まさか、酔った勢いで……?」
「言っておきますけど、二人ともばっちり酔っ払ってましたからね」


 飲む前の酔わない体質発言はなんだったのか。厳密には、ゲブラーは死なないと言っていただけで酔わないとは言っていないので、嘘ではなかったりする。


「まぁ、ネタバラシしておくと、別に昨晩は男同士の絡みがあったわけじゃないですよ。三人仲良く並んで寝てたんです」


 それを聞いたケブラーは安心したように大きく息を吐く。彼としても、酔った勢いでスタールと一線を超えていたなんて、悪い夢を通り越して地獄のようなものだ。
 だがスタールは難しそうな顔をしている。なにか考え事をしているようだ。


「とにかく、二人とも身体を洗ってきたほうがいいと思いますよ。そしたら朝ごはんにしましょう」
「そうだね」
「んー、ベタベタする……」


 同時にベッドを降りようとした二人は、また時を同じくして停止する。どうしたのかとノイナが首を傾げると、爽やかな笑みを浮かべたスタールが先に口を開いた。


「ゲブラー、お先にどうぞ。急がず、ゆーっくりで構わないから」
「それはこっちのセリフだよ。俺があんたに譲ってあげる。ゆっくり入ってきな半日くらい」


 突然の譲り合いにノイナは不思議そうに目を瞬かせる。しかしどちらも譲らない二人の様子を見て、彼らがなにを言い争っているのか、その理由を察する。


「朝っぱらから盛ってるんじゃないよこのムッツリ! どうせ俺がシャワー浴びてる間にノイナと既成事実作る気でしょ、がっつりセックスする気でしょ!」
「貴方だってまったく同じ考えだっただろう。やっとノイナと幸せな家庭を作れたと思ったら夢だったし、これはもう現実にするしかない」
(こいつら……)


 先に相手を入浴させて、その間にノイナと致してしまおう。そんな朝から聞くにはキツい冗談、ではなく本気も本気の思惑に、ノイナは頭を抱えてしまう。ゲブラーはもはや通常運転だが、やはりスタールも相当拗らせているようだ。


「もう、二人一緒に入ってきてくださいよ。そうすればお互いを見張れるでしょ?」
「なんでこいつと仲良くシャワー浴びないといけないわけ!?」
「そうだよ。せっかくなら……ノイナと一緒に入りたい」
「そんなの、俺だってノイナと入る!」
「いや、私もう入ってきたんで」


 諦めて二人で入ってこいと再度無慈悲に告げるも、どちらもすぐに納得してくれない。特にゲブラーが。



「そもそも! こんな奴と一緒に入ったら俺襲われちゃうって!」
「先輩はそんなことしませんよ」
「馬鹿言わないで、そいつはノイナを諦めさせるためなら何でもするに決まってる!」
「まさか……」


 スタールがそんな手段を取るはずがない。そう思ってスタールのほうを向けば、彼は神妙な面持ちで黙り込んでいる。


「せんぱい……?」
「ゲブラーが僕の身体で満足してくれると言うのなら、僕は構わないよ。ネコでもタチでも、好きなほうでお相手しよう」
「ほらやっぱり……!」


 そういえばこの人、ノイナが男相手にハニートラップをしなくて済むように、あえて男を口説き落としに行ったのだった。恐らくその際に身体も使っているだろう。
 ノイナのためなら何でもできる。その言葉に嘘はない、ということだ。突き抜けすぎていっそ献身的にも思える行動に、逆にノイナは軽く感動を覚えてしまう。


「好きでもない男とセックスできるとか、あんたほんとイカれてるって……」
「どんな理由であれ、自分の身体を差し出すことに思うところはないよ」


 あっさりとそう言って退けるスタールに、ノイナは呆気に取られてしまう。いや、好き嫌いがないと言っていた彼なら、自分の身体がどう扱われようとも何も感じないのかもしれないが、それにしても、だ。


「正気? ノイナに嫌われるとか考えないわけ?」
「…………」


 そこでようやく自分の異常性に気づいたのか、スタールは少し不安そうにノイナのほうを見た。まるで自分の欠陥部分を見せてしまったと、そう焦るように。


「ノイナ……その」
「はい?」
「やっぱり、気持ち悪い、だろうか。任務のためなら誰とでも寝てしまえるような、男は……」


 少しだけ声を震わせながら、スタールは彼女に問いかける。その目ははっきりと彼女からの拒絶に怯えていて、ひどく緊張しているのが伺えた。


「ゲブラー、先輩を不安にさせるようなこと言わないでください」
「え、俺が悪いの?」
「大丈夫です、先輩。気持ち悪いだなんて思いませんよ」


 スタールのそばまで歩み寄って、ノイナは軽く彼の肩を叩いた。
 気持ち悪くないというのはもちろん本心だった。ノイナも諜報員の端くれだ、機関に属する諜報員が時に望まぬ身体の関係を持つことも、普通に有り得ることと理解している。


「それに、なんていうか……ちょっとズレてるかもしれないですけど、やっぱり先輩はかっこいいなって。任務のためなら何でもスマートにこなせちゃう、憧れの天才諜報員、ですからね」
「……!」
「まぁでも、ちょっと心配……先輩がつらくないなら、それでいいんですけど、少しは自分を大事にしてもいいんだよ、とは思いますね」


 身体を差し出すことに対してなにも感じない、というのは少し異常な価値観だ。それに疑問を抱かないような環境に居たのかと思うと、少しだけスタールのことが心配になる。
 彼は完全無欠の天才なんかじゃない。もしかしたら、大事なところが大きく欠けてしまっているのではないのか。そんなことをノイナは思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。 ※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。 ※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。  伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。  すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。  我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。 ※R18に※

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷 ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。 ◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡

処理中です...