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23-01 両手に※(両刀発言注意)
しおりを挟む尿意に耐えていたおかげか、ノイナは二人が目覚めるより前に起きることができた。しかし時間を置いたせいで股にかかった白濁は微妙な乾き具合になって、なかなかに気持ちが悪かった。
それもあって先に一人で入浴を済ませた彼女は、寝室を覗き見て起き上がっている二人の姿を見つけた。
「おはようございます、二人とも」
「…………」
なぜか同じベッドで寝ていたお互いを見つめて、二人は沈痛な面持ちを浮かべている。
ちょっとだけ面白くなってしまったノイナは、笑みを堪えながら尋ねる。昨夜のことは覚えているか、と。
「嘘だと言ってよ、ねぇノイナ! 俺は男となんて寝ないから!」
「昨日の記憶があまりない……まさか、酔った勢いで……?」
「言っておきますけど、二人ともばっちり酔っ払ってましたからね」
飲む前の酔わない体質発言はなんだったのか。厳密には、ゲブラーは死なないと言っていただけで酔わないとは言っていないので、嘘ではなかったりする。
「まぁ、ネタバラシしておくと、別に昨晩は男同士の絡みがあったわけじゃないですよ。三人仲良く並んで寝てたんです」
それを聞いたケブラーは安心したように大きく息を吐く。彼としても、酔った勢いでスタールと一線を超えていたなんて、悪い夢を通り越して地獄のようなものだ。
だがスタールは難しそうな顔をしている。なにか考え事をしているようだ。
「とにかく、二人とも身体を洗ってきたほうがいいと思いますよ。そしたら朝ごはんにしましょう」
「そうだね」
「んー、ベタベタする……」
同時にベッドを降りようとした二人は、また時を同じくして停止する。どうしたのかとノイナが首を傾げると、爽やかな笑みを浮かべたスタールが先に口を開いた。
「ゲブラー、お先にどうぞ。急がず、ゆーっくりで構わないから」
「それはこっちのセリフだよ。俺があんたに譲ってあげる。ゆっくり入ってきな半日くらい」
突然の譲り合いにノイナは不思議そうに目を瞬かせる。しかしどちらも譲らない二人の様子を見て、彼らがなにを言い争っているのか、その理由を察する。
「朝っぱらから盛ってるんじゃないよこのムッツリ! どうせ俺がシャワー浴びてる間にノイナと既成事実作る気でしょ、がっつりセックスする気でしょ!」
「貴方だってまったく同じ考えだっただろう。やっとノイナと幸せな家庭を作れたと思ったら夢だったし、これはもう現実にするしかない」
(こいつら……)
先に相手を入浴させて、その間にノイナと致してしまおう。そんな朝から聞くにはキツい冗談、ではなく本気も本気の思惑に、ノイナは頭を抱えてしまう。ゲブラーはもはや通常運転だが、やはりスタールも相当拗らせているようだ。
「もう、二人一緒に入ってきてくださいよ。そうすればお互いを見張れるでしょ?」
「なんでこいつと仲良くシャワー浴びないといけないわけ!?」
「そうだよ。せっかくなら……ノイナと一緒に入りたい」
「そんなの、俺だってノイナと入る!」
「いや、私もう入ってきたんで」
諦めて二人で入ってこいと再度無慈悲に告げるも、どちらもすぐに納得してくれない。特にゲブラーが。
「そもそも! こんな奴と一緒に入ったら俺襲われちゃうって!」
「先輩はそんなことしませんよ」
「馬鹿言わないで、そいつはノイナを諦めさせるためなら何でもするに決まってる!」
「まさか……」
スタールがそんな手段を取るはずがない。そう思ってスタールのほうを向けば、彼は神妙な面持ちで黙り込んでいる。
「せんぱい……?」
「ゲブラーが僕の身体で満足してくれると言うのなら、僕は構わないよ。ネコでもタチでも、好きなほうでお相手しよう」
「ほらやっぱり……!」
そういえばこの人、ノイナが男相手にハニートラップをしなくて済むように、あえて男を口説き落としに行ったのだった。恐らくその際に身体も使っているだろう。
ノイナのためなら何でもできる。その言葉に嘘はない、ということだ。突き抜けすぎていっそ献身的にも思える行動に、逆にノイナは軽く感動を覚えてしまう。
「好きでもない男とセックスできるとか、あんたほんとイカれてるって……」
「どんな理由であれ、自分の身体を差し出すことに思うところはないよ」
あっさりとそう言って退けるスタールに、ノイナは呆気に取られてしまう。いや、好き嫌いがないと言っていた彼なら、自分の身体がどう扱われようとも何も感じないのかもしれないが、それにしても、だ。
「正気? ノイナに嫌われるとか考えないわけ?」
「…………」
そこでようやく自分の異常性に気づいたのか、スタールは少し不安そうにノイナのほうを見た。まるで自分の欠陥部分を見せてしまったと、そう焦るように。
「ノイナ……その」
「はい?」
「やっぱり、気持ち悪い、だろうか。任務のためなら誰とでも寝てしまえるような、男は……」
少しだけ声を震わせながら、スタールは彼女に問いかける。その目ははっきりと彼女からの拒絶に怯えていて、ひどく緊張しているのが伺えた。
「ゲブラー、先輩を不安にさせるようなこと言わないでください」
「え、俺が悪いの?」
「大丈夫です、先輩。気持ち悪いだなんて思いませんよ」
スタールのそばまで歩み寄って、ノイナは軽く彼の肩を叩いた。
気持ち悪くないというのはもちろん本心だった。ノイナも諜報員の端くれだ、機関に属する諜報員が時に望まぬ身体の関係を持つことも、普通に有り得ることと理解している。
「それに、なんていうか……ちょっとズレてるかもしれないですけど、やっぱり先輩はかっこいいなって。任務のためなら何でもスマートにこなせちゃう、憧れの天才諜報員、ですからね」
「……!」
「まぁでも、ちょっと心配……先輩がつらくないなら、それでいいんですけど、少しは自分を大事にしてもいいんだよ、とは思いますね」
身体を差し出すことに対してなにも感じない、というのは少し異常な価値観だ。それに疑問を抱かないような環境に居たのかと思うと、少しだけスタールのことが心配になる。
彼は完全無欠の天才なんかじゃない。もしかしたら、大事なところが大きく欠けてしまっているのではないのか。そんなことをノイナは思った。
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