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13-01 挽回しましょう
しおりを挟むゲブラーと喧嘩をしてしまってから、二週間が経った。
ノイナは焦っていた。当然だ、今まで長くても一週間くらいで連絡してきていた彼が、ずっと音沙汰がないのだから。
もしかして腹いせに他国の依頼を受けてしまうのではないか。そう思い情報を漁ったりもしたが、今の所は大丈夫なようだった。
けれど仕事のこと以上に、ノイナはただ素直に彼に謝りたかった。
(なんであそこで言い返しちゃったんだろ……いや、ゲブラーの言い草も確かに酷かったんだけど)
彼は子供っぽいところがある。それは分かっていたのだがら、自分が大人な対応でかわせばそれで済んだはずだ。そんなにつけてほしいならつけてあげると、いつものように言うことを聞いてあげていればよかったのに。
(そうしてれば、こんなことには……)
後悔していたのだ。ゲブラーを傷付けてしまったことを、意外にも二週間ずっと引きずるくらいには。
ケーキを食べて気分を変えようとしてもできなかった。それほどまでに、悲しそうな彼の表情は彼女の良心をズタズタにしてしまっていた。
「……ゲブラー」
小さく呟いて、机に突っ伏した状態でノイナは大きくため息をついた。
そんなとき携帯が鳴る。それにハッとなった彼女は、すぐさま通話ボタンを押した。
「もしもし!」
思わず立ち上がりながら勢いよく返事をすれば、電話越しの相手は小さく吹き出した。
『なに、そんなに欲求不満だったの? まぁ、ノイナには長い禁欲期間だったかもねぇ』
相変わらずの挑発にいつもであればイラッとしそうなものだったが、そのときばかりはなぜか嬉しかった。携帯から聞こえる声は普段の彼のもので、落ち着いているように思えたからだ。
「それで、どこですか?」
『はいはい、急かさなくても教えてあげるよ』
そう言って彼はホテルの場所と部屋番号を教えてくれる。毎度違うホテルを指定してくるマメさに驚きつつも、頭の中で先んじてルートを決めておく。
『それじゃ、待ってるから。覚悟ができたらおいでよ』
「え?」
不穏な文言を残して電話は切れる。明らかにホテルに行けばなにかがある、予感でなくともそう思った。
けれどノイナに行かないという選択肢はなかった。ゲブラーに会いにいく前にしっかりと準備をする必要があった彼女は、一度家に帰り支度を済ませた。
「よし……」
そしてホテルを目の前にして小さく息を吐く。指定された部屋まで足早に進めば、あとは目の前の扉を開けるだけだった。
「お邪魔します……」
そろりと扉を開き、罠を警戒する。扉の隙間、床、それぞれになんの異常もないことを確認して、ゆっくりと彼女は部屋の中に足を踏み入れた。
「! ゲブラー」
「やぁ、欲求不満な変態女さん」
「怒りますよ……」
「事実でしょ?」
その部屋に、彼はいた。シャワーを浴びたばかりなのか、まだ生乾きの髪のまま、上半身は裸だった。
「俺も最近あまりしてなくてさ、溜まってるんだよね」
「そう、ですよね」
「だからなんでもいいからとにかくベッド行こうか」
前回会ったときは結局一回もしなかったため、厳密には二週間より長い間が空いたことになる。普段から女を食らっているゲブラーのことだ、さすがにその間はまったくご無沙汰ということはないだろうが、それでも欲求不満のはずだ。
言われるままベッドに上がり、ノイナはそこに座り込んだ。するとベッドサイドに置いてある見慣れぬ鞄のようなものが気になる。
(あれ、なんだろう……)
まさか人間を解体するための道具が入っているんだろうか。そんなものものしい雰囲気を感じさせる鞄に、ノイナは緊張してしまう。
落ち着かない様子で周囲を見回していると、ゲブラーもベッドに上がってくる。けれど彼はベッドに座り込み、何も言わずにノイナをじっと見つめてくる。不思議と張り詰めてしまっている空気に、ノイナはなかなか口を開けなかった。
(まずは、最近会ってなかったけど元気だった、って聞くとか……いや、でもやっぱり最初に前のことを謝って……でもこの空気、つらい……)
気まずい。そう思って俯いていたノイナは首を横に振った。
しっかり謝ると決めたんだと、そのためにここに来たんだと、何度も心の中で自分に言い聞かせる。ついでに、できる、やれると賢明に自分を奮い立たせた。
「あの、ゲブラー!」
ばっと顔を上げたところでノイナは固まる。
ゲブラーはベッドサイドに置かれていた鞄を手に取ると、その中から器具を取り出す。拘束具、謎めいた薬品、ガーゼ、などなど。そして彼が手にした銃らしきものを見て、ノイナは驚きすぎて頭の中が真っ白になってしまう。
「さて、ノイナ。大人しくしててね、手元が狂っちゃうから」
「ひぃっ」
じりじりと近づいてくるゲブラーに、ノイナは後ずさる。
ついに自分を始末する気になってしまったのか。だがその前に、それでも殺される前に、謝りたい。死を突きつけられている恐怖よりも、そんな気持ちが勝った。
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