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09-02 ※(流血)

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「俺は、師匠から死神の寵愛を受けてるって、そう言われるほどの天才なんだよ……?」
「……ゲブラー」
「他の殺し屋にできないような、難度の高い殺しを完璧にこなさないと、俺の有用性を分かってもらえないじゃん……」


 何かに駆り立てられているかのように、彼は語った。それは初めて見る、ゲブラーという暗殺者の素顔のような気がした。
 自分が持つ人を殺す技術に対する誇りと、それを損なうことに対する不安。まるで自分にはこれしか取り柄がないのだと、そうとも聞こえてしまった。


(ゲブラーは、殺しによって自分の価値を証明しようとしている……)


 彼の口ぶりから思わず彼の性格を推測しようとしてしまう。だがぼうっと突っ立っていると突然ゲブラーに腕を引っ張られ、そのままベッドに押し倒されてしまう。


「だから、いい? あんたは今日、ただ俺に抱かれてればいいの」
「っ、そんな」
「口答えしないで。その舌、切ってあげてもいいんだよ……?」


 ファーストコンタクト以来、久しぶりにナイフ片手にゲブラーはノイナの上に跨った。今のゲブラー相手に抵抗してはいけない、そんな当たり前のことを彼女は再確認する。


「あんたは、俺を受け入れて、快感を与えるだけでいい、それだけで……」
「……ん」


 服も脱ぎ切らないままに、下着に潜り込んできた彼の手が忙しなく股座を弄ってくる。これは濡らす前に突っ込まれるかもしれないと思い遠い目をしていると、ノイナは微かに香る血のにおいに気づいた。


「ゲブラー、怪我、してません……?」


 そう言いながら彼の身体に触れれば、左腕に包帯が巻かれている感触があった。だがまだ血が止まっていないのか、触れると服にまでその赤色が滲んでしまう。


「っ、ゲブラー、先に腕をちゃんと手当てしましょう。まだ血が出てます」
「は? そんなのどうでもいい。大した傷じゃないし、放っておけば塞がるよ」
「それでも、これから動くんですから、包帯くらいは替えておきましょうよ。替えの包帯は? あるんですか?」


 ノイナは一旦ゲブラーの手を股から引き剥がす。それにゲブラーは抵抗しようとするも、ノイナが彼の服を脱がそうとし始めたところで大人しくなる。


「替え……ない。持ってない」
「えぇ? 暗殺者のくせになんで持ってないんですか」
「持ってるわけないでしょ、仕事で怪我なんてしないんだから」
「なのに今回は怪我したんですね」


 呆れた様子でノイナは包帯の上に自分のハンカチを重ねて、傷を圧迫する。そしてゲブラーにこのまま抑えているように指示した。


「違うよ、これは仕事の怪我じゃない。帰ってくるときに、古くなったフェンスに当たっちゃって切れちゃったの!」
「まぁ、なんでもいいですけど……」


 ノイナは自分の服を整えるとベッドから立ち上がる。替えの包帯がないならば買いにいかないといけないし、古い金網で怪我をしたならばちゃんと消毒もしたほうがいいだろう。


「包帯とかいろいろ買ってきますから、大人しくしててください」


 そう言ってゲブラーから離れようとすれば、強い力で手首を掴まれる。それに驚いて彼のほうを見れば、彼はまたノイナを睨みつけた。


「そんなこと言って、俺から逃げる気でしょ」
「え……?」
「行かせないから、ここにいて」


 ぐっと手首を掴む手に力がこもって、思わずノイナは表情を歪めてしまう。けれどゲブラーがなぜそんなことを言うのか理解できなかった彼女は、自分の鞄からあれこれと物を取り出して彼の膝の上に置いた。


「な、なにこれ」
「持っていてください。全部私の貴重品ですから。こんな大事なもの置いて家に帰るわけないじゃないですか、家の鍵も入ってるし」


 そして服の内側に隠すように入れていたカードを取り出すと、ノイナは自分の手を掴むゲブラーの手を離し、それを持たせた。


「それで、これ! 絶対携帯してないといけない、私の命と同等の重さを持つ個人IDです。ゲブラーに預けますから、ちょろまかしたりしないでくださいね」
「なんで、これ……」
「だから、ここに帰ってきますってことです。分かりましたね」


 呆然とするゲブラーの肩を軽く叩いて、ノイナはホテルの部屋から飛び出した。


「あっ」


 だが貴重品を置いていくついでに財布も置いていったことに気づき、再び部屋に戻り財布を回収した。

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