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09-01 血のにおいのする夜
しおりを挟むその後もゲブラーからの呼び出しは続いた。だいたい電話に出たとき、彼は心底楽しそうな声でノイナの名前を呼び、いつものように最速でホテルに来いと言うのだ。
『ノイナ! 欲しかったものがやっと揃ったんだ~! だから早く来てね! 三分以内!』
「無理がありますよ三分なんて!」
部屋に踏み込むと同時に視界に入る、テーブルにずらりと並べられた大人向けの玩具と拘束具に、ノイナは顔を真っ青にした。
数時間は嫌というほど拘束された身体中を玩具で弄くり回されイかされ続け、ずくずくに蕩けきった中を朝までゲブラーの立派なもので嬲られた。
終わったあと、ノイナはしばらくまともに動けなかった。
『ノイナ~、今すぐホテルに来て~。あ、お風呂はこっちに来てからね』
(なんかよく分からないけどすごく嫌な予感がする……!)
嫌な予感はみごと的中し、その日は初めてアナルを使ったプレイをさせられた。
苦痛の洗浄を息も絶え絶えになって耐えたあと、バックで膣内を突かれながら延々と尻穴を玩具で弄くり回された。
終わったあと、ノイナは後ろの穴の違和感に悩まされ続けた。
「ハニートラップって大変だな……」
どう考えてもゲブラーを御しているとは言い難いこの状況。だが一応任務目標は達成しているため、周囲の称賛と期待もそれなりにあった。
ゲブラーも、とんだド外道かと思いきやそれなりに良識がある。特に行為は基本的に苦痛を伴わないものばかりで、ノイナの身体の限界もしっかりとわかったうえで玩具にしていた。そのせいか、いつしかノイナはそれなりに安心して彼に身を任せるようになっていた。
以前ほど電話がかかってくることに忌避感を覚えることもなくなったころ、またいつもの非通知で着信音が鳴った。
「もしもし」
『……ノイナ?』
聞こえてきたのはゲブラーの声だった。だが普段の彼らしくもないひどく沈んだ声に、ノイナは一瞬動揺して口篭ってしまう。
「ど、どうしたんですか」
『今すぐ来て。一分』
「一分は無理ですよ」
『いいから』
一方的にホテルの位置と部屋番号を伝えると、電話はぶつりと切れてしまう。いつも切るときは唐突なのだが、感じの悪い口調と苛立ちが滲んだような声にノイナは久しぶりに恐怖を覚えた。
なるべく早くホテルに着いたノイナは、部屋の扉を開けて息を呑む。なんだか空気がいつもと比べ物にならないくらい重たい気がしたからだ。
「ゲブラー……?」
おそるおそる部屋中に目を向け、ノイナは呼び出し主の姿を探した。そうしていると、寝室のベッドの上で仰向けに寝転がっている男を見つけた。
彼はノイナが寝室に入ってくるのに気付くと身体を起こす。それと同時に、見たことないほど不機嫌そうな顔で彼女を睨みつけた。
「遅い」
「一分じゃ無理って言ったじゃないですか」
「あんたの都合なんて知らないよ。俺が来いって言ったら来るの」
横暴なゲブラーの言葉に彼女は眉根を寄せる。どう考えても今日のゲブラーの様子は変だった。
不満そうな顔や嫌そうな顔は今までも見てきたが、基本的にこの男は常に笑っている。だというのに今は整った顔を顰めて、いつもよりも鋭い視線でノイナを貫いてくる。
「あの、ゲブラー……」
「早く服脱いで」
「え?」
何があったのかと問いかけようとすれば、彼は早く始めようとでも言いたげに上着を脱ぎ捨てた。
「いきなり、ですか? まだお風呂が……」
「いいの。今すっごいむしゃくしゃしてるから早くヤらせて」
「そんな不健全な……」
「何なら俺が脱がせてあげようか?」
今のゲブラーに任せたら服を破かれると思い、ノイナは仕方なく着ていたものを脱ぎ始める。だがなぜ彼がそんなに不機嫌なのか気になり、おずおずと尋ねた。
「えっと……なにかあったんですか?」
「…………」
黙り込む彼の様子から、これは教えてくれないかもしれないと思った。けれど長い沈黙を挟んだ彼は服を脱ぐ手を止めると、床を見ながら呟く。
「仕事で、ミスしたの」
「え? ターゲット、逃しちゃったんですか?」
「違う! 俺がそんな馬鹿な失敗するわけないでしょ、殺害時刻に三秒遅れが出ちゃったの!」
荒々しく出てきた回答にノイナは小首を傾げてしまう。これほどまでに不機嫌になるようなミスだとは思えなかったからだ。
「殺害時刻が、三秒……遅れたら、駄目なんですか……?」
「ダメに決まってるでしょ! ノイナは俺を誰だと思ってるの?」
「えっ、殺し屋、ですけど……」
その回答が不満だったのか、ゲブラーはきつくノイナを睨みつけてくる。
「ただの殺し屋じゃない、俺は凄腕の暗殺者なんだよ?」
「そう、そうですね」
「どんな殺しも、殺す場所も殺し方も殺す時間も、全部依頼通りに完遂できる、完璧な暗殺者なの!」
癇癪を起こしたかのようにそう言い放つゲブラーに、彼女は萎縮してしまう。ゲブラーにとって暗殺業という仕事は、ただの金を稼ぐための手段、というわけではなさそうだった。
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