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ただ闇雲にえっちなビデオに当たるだけでは意味がない。可能ならば、そういうものに詳しい人物に直接聞いて紹介してもらうべきだろう。
スタールに相談すれば間違いなく完璧なチョイスをしてくれそうなものだが、さすがに彼に対していきなり下世話な頼みをする気にはなれなかった。仕事のうちだとしても、下手するとセクハラである。
「ということで、情報屋さんの中でそういうのに詳しい人紹介してください」
上司にそう頼めば、ノイナは一人の情報屋と会えることになった。このあたりはちゃんとサポートしてもらって然るべきだろう。
「で、実はそっち方面の女優目指してたりするの?」
「違います。詳細は聞かずに頼んだ情報をお願いします。ただの勉強用ですので」
気さくな情報屋はノイナを見るなりそんな冗談を言った。冗談というより普通にセクハラである。
(私も気をつけよう……)
「まぁ、なんでもいいけど……勉強、ってことならあんま参考にならないと思うよ?」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだよ。実写といえど、あくまでフィクションだから」
ガラガラと計画が崩れ去る音がした。いや、考えてみれば至極当然の回答だ。ポルノといえどフィクション、現実と混同してはいけない。
「ま、スナッフビデオみたいにガチの奴もあるけど、そういうのはちょっと刺激強すぎるよ? お嬢さんだって、女の子の解体ショー見たいわけじゃないだろうし」
「そりゃあ、もちろん」
彼が言っているのは、謂わば強姦や殺人などの犯罪行為を撮影したもののことだろう。それは確かにノンフィクションだが、見ていて気持ちのいいものではない。
そう考えるとフィクションとは何と偉大なことか。そんな余計なことまでノイナは考えてしまう。
「一番簡単なのは、ほら、おたくの『愛人』さんとか、ああ、超凄腕の『隣人』さんとかに教えてもらったら? もしかして別部署?」
「いや、同僚ですけど……ちょっと都合が悪くて」
『愛人』というのは、ハニートラップ専門のクリスティーナのことだ。実はそんな通り名があるほどの優秀な人なのである。
尚、『隣人』というのは。
「『隣人』さんなんてアレだろう? 真偽は定かじゃないが、ノンケの男をたらし込んで骨抜きにしたことがあるとか」
「有名な話ですね」
もちろんこれはスタールのことである。元々そっちの気がない男でも落とすことができるという、スタールの常軌を逸した技術を表した噂だ。正直なところ、ノイナは作り話ではないと考えている。
「なんか、すぐに先輩たちに頼ったら成長できない気がするんです。私本当に未熟だから、まずは自分なりに努力しないといけないなって」
「ふーん……」
「諜報員のくせに嘘も下手で、この前なんて自分っぽい自分を装う、なんてこともしましたし」
ノイナは諜報員としてはあまりにも未熟だ。ゲブラーに諜報員だとバレたのだって、彼女のうっかりミスが原因なのだ。
そんなノイナを見た情報屋はもう一度ふぅんと鼻を鳴らすと、ニヒルな笑みを浮かべて見せた。
「嘘はつかないに越したことはない。嘘に敏感な奴なんて、暗いところを探せば腐るほど居るからね。もちろん、『隣人』さんみたいに自分すらも騙し、嘘を真実にしてしまう天才もいるわけだが」
(嘘をつかない、か……そういえばゲブラーも)
――正直に言って? 俺、嘘は嫌いだよ
最初の接触のときも、ギリギリまでノイナが諜報員だとわからなかったと言っていた。それは先輩の助言通り、なるべく嘘をつかないという方針がうまく作用したのだろう。
思えばどこでバレたんだろう。そう考えていると情報屋はぱんと手を叩いた。
「ま、普段はこんなお節介は焼かねぇけど、今回は特別だ。悩めるお嬢さんに、リアルでも通用しそうな作品を教えてやるよ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「おう。王道からニッチなもんまで何でもござれだ。おっさんに任せときな」
そう言ってリストを書いた彼は、作品を買える店も併せて教えてくれる。彼に感謝を言い、ノイナは言われた通りの店で指定された作品を買い、それらを抱えてホテルにでも行こうかと考えていた。
というところで。
「だーれだっ」
「………………赤い髪のイケメンのお兄さん」
「せいかーい!」
視界が開けるのと同時に、機嫌良さげなゲブラーの顔面がずいっと入ってくる。まさかこんなところで遭遇するとは思っていなかった。
スタールに相談すれば間違いなく完璧なチョイスをしてくれそうなものだが、さすがに彼に対していきなり下世話な頼みをする気にはなれなかった。仕事のうちだとしても、下手するとセクハラである。
「ということで、情報屋さんの中でそういうのに詳しい人紹介してください」
上司にそう頼めば、ノイナは一人の情報屋と会えることになった。このあたりはちゃんとサポートしてもらって然るべきだろう。
「で、実はそっち方面の女優目指してたりするの?」
「違います。詳細は聞かずに頼んだ情報をお願いします。ただの勉強用ですので」
気さくな情報屋はノイナを見るなりそんな冗談を言った。冗談というより普通にセクハラである。
(私も気をつけよう……)
「まぁ、なんでもいいけど……勉強、ってことならあんま参考にならないと思うよ?」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだよ。実写といえど、あくまでフィクションだから」
ガラガラと計画が崩れ去る音がした。いや、考えてみれば至極当然の回答だ。ポルノといえどフィクション、現実と混同してはいけない。
「ま、スナッフビデオみたいにガチの奴もあるけど、そういうのはちょっと刺激強すぎるよ? お嬢さんだって、女の子の解体ショー見たいわけじゃないだろうし」
「そりゃあ、もちろん」
彼が言っているのは、謂わば強姦や殺人などの犯罪行為を撮影したもののことだろう。それは確かにノンフィクションだが、見ていて気持ちのいいものではない。
そう考えるとフィクションとは何と偉大なことか。そんな余計なことまでノイナは考えてしまう。
「一番簡単なのは、ほら、おたくの『愛人』さんとか、ああ、超凄腕の『隣人』さんとかに教えてもらったら? もしかして別部署?」
「いや、同僚ですけど……ちょっと都合が悪くて」
『愛人』というのは、ハニートラップ専門のクリスティーナのことだ。実はそんな通り名があるほどの優秀な人なのである。
尚、『隣人』というのは。
「『隣人』さんなんてアレだろう? 真偽は定かじゃないが、ノンケの男をたらし込んで骨抜きにしたことがあるとか」
「有名な話ですね」
もちろんこれはスタールのことである。元々そっちの気がない男でも落とすことができるという、スタールの常軌を逸した技術を表した噂だ。正直なところ、ノイナは作り話ではないと考えている。
「なんか、すぐに先輩たちに頼ったら成長できない気がするんです。私本当に未熟だから、まずは自分なりに努力しないといけないなって」
「ふーん……」
「諜報員のくせに嘘も下手で、この前なんて自分っぽい自分を装う、なんてこともしましたし」
ノイナは諜報員としてはあまりにも未熟だ。ゲブラーに諜報員だとバレたのだって、彼女のうっかりミスが原因なのだ。
そんなノイナを見た情報屋はもう一度ふぅんと鼻を鳴らすと、ニヒルな笑みを浮かべて見せた。
「嘘はつかないに越したことはない。嘘に敏感な奴なんて、暗いところを探せば腐るほど居るからね。もちろん、『隣人』さんみたいに自分すらも騙し、嘘を真実にしてしまう天才もいるわけだが」
(嘘をつかない、か……そういえばゲブラーも)
――正直に言って? 俺、嘘は嫌いだよ
最初の接触のときも、ギリギリまでノイナが諜報員だとわからなかったと言っていた。それは先輩の助言通り、なるべく嘘をつかないという方針がうまく作用したのだろう。
思えばどこでバレたんだろう。そう考えていると情報屋はぱんと手を叩いた。
「ま、普段はこんなお節介は焼かねぇけど、今回は特別だ。悩めるお嬢さんに、リアルでも通用しそうな作品を教えてやるよ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「おう。王道からニッチなもんまで何でもござれだ。おっさんに任せときな」
そう言ってリストを書いた彼は、作品を買える店も併せて教えてくれる。彼に感謝を言い、ノイナは言われた通りの店で指定された作品を買い、それらを抱えてホテルにでも行こうかと考えていた。
というところで。
「だーれだっ」
「………………赤い髪のイケメンのお兄さん」
「せいかーい!」
視界が開けるのと同時に、機嫌良さげなゲブラーの顔面がずいっと入ってくる。まさかこんなところで遭遇するとは思っていなかった。
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