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04-01 ご奉仕して♡*

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 なんとか生きて本部に戻ったノイナは、死んだ表情でザッハトルテを食べた。
 最中生還したことを上司や先輩に驚かれ、めいっぱい褒めてもらえたが、彼女の心境はそんな賞賛で喜べるほど晴れやかではなかった。


 ――今日からあんた、俺の性玩具おもちゃ


 命の代償は身体だった。機関としてはそれだけでも十分すぎる快挙なのだが、ノイナにとっては生殺与奪を握られたも同然だ。
 ここで降りても、きっと口封じだかのために殺されて死亡。彼の玩具役に徹しても、いずれ死亡。行先はどう足掻いても殉職という哀れなものだ。


「まぁ、人間どうせ死にますけどねー」


 死ぬのが早いか遅いか、それだけでしかない。ならば、どうやって生きるかが重要だ。
 そんなよくある謳い文句を思い出して、ノイナは重々しいため息をついた。ひとまず、次にゲブラーと会うことになったら考えよう、と。

 それから一週間くらい経った頃に、ノイナの私用の携帯が鳴った。非通知で。


「もしもし」
『もしもしノイナ? 今から指定するホテルに来てね、最速で』
「えっ」
『遅れたら浣腸プレイしてもらうから』


 ばたばたと慌てて荷物をまとめ、ノイナは本部を飛び出す。もはや行くか行かないかを考える暇もなかった。
 指定されたホテルはそこまで遠くはないが、歩いて行ける距離というわけでもない。最速でタクシーを捕まえた彼女は、法定速度ギリギリを攻めてもらいながら現地へと急行した。


「はぁーっ、はぁー……っ」


 全速力でホテルに駆け込み、教えられた部屋の前で呼吸を整えた。そしてノックをする。
 ガチャリと鍵だけが開く。未熟諜報員の勘がまた危険を訴えるも、ここでもたつけば浣腸することになってしまうと、ノイナは恐怖を振り切って扉を開けた。


「セーフで、すぅっ!?」


 一歩と部屋へ足を踏み入れた瞬間、足首に何かが絡んだと思ったのと同時に恐ろしい力で足を引っ張られる。みごと体勢を崩したノイナはギリギリ受け身を取りながら転倒し、そのままつるーんと床を滑っていく。


「あっはははは! 危機感が足りなすぎじゃない、ほんと!」
「…………」


 半目で見上げれば、床で無様に転がる自分の姿を見て爆笑しているゲブラーが居た。
 天井を確認してみると、罠の仕掛けらしきものが見える。どうやらノイナは、ゲブラーがかけた罠に見事なまでに嵌まってしまったらしかった。


「あの、なんですかこれ……」
「面白いものが見れるかなぁって思って。予想通りだったね」
「そうですか……」
「ちょっとノリが悪いよー? この前みたく、純朴な田舎娘がイケメン相手に下心滲ませた感じで喋ってよ」
「純朴な田舎娘はイケメンを前にしてあんな露骨に下心出しません」


 冷め切った声で答えながら、ノイナは足に括り付けられたロープを外した。服を払ってゲブラーの前に立てば、彼は不満そうに眉根を寄せる。


「あーあ、そんな反応するんだったら、本番用の罠を仕掛ければよかった」
「本番用……?」
「足に引っ掛けるのは特注のワイヤーで、もっと強く引っ張るんだよ。そうしたらアキレス腱損傷、獲物は逃げられなくなるんだ」
「…………」


 顔を真っ青にしてノイナは俯く。もしかしたら次呼び出されとき自分は暗殺に使う罠の実験台にされるかもしれない。


「ノイナ、自分の立場分かってる? あんまり俺を冷めさせない方がいいと思うけど」
「そう、ですね……すいません」


 生き延びたいのならゲブラーのご機嫌取りをしなければいけない。まさかこんなに早く玩具としての立場を分からされるとは思っていなかった。


「その、ゲブラー様、本日はどのようなご用件で」
「はいダメー、その喋り方気持ち悪い。だから、この前みたいにって言ったでしょ?」
「くっ……あの、お兄さん、今日は……何、シたいんですか……?」


 なるべく会った当初の雰囲気で話しかければ、ゲブラーは満足した様子でソファに座り込んだ。


「ちょうど仕事帰りだったんだよね。けっこうな大仕事でさぁ、疲れちゃって」
「は、はい」
「だから、ご奉仕して♡」


 苦い表情を浮かべそうになるのをなんとか堪え、ノイナはぎこちなく笑いながら頷いた。
 だが奉仕といっても何をすればいいかわからず、彼女は焦る。


「えーっと、具体的には、何をすればいいですか?」
「んー? ああ、そういえばあんた、素人のフリをした本物の素人だったね」
(それは諜報員という意味でなのかそれとも……)


 言い返せずにぐぬぬっとしていると、ゲブラーは手招きする。そしてノイナに自分の前に座れと言った。


「男がされて喜ぶことってなんだと思う?」
「え……な、生セックス、何発でも中出しオーケー……?」
「あはは! それで大喜びする奴は多いかもね」


 それよりかは気楽なもんだよと、そう言ってゲブラーはおもむろに自身の腰のベルトを外した。


「へっ」
「古今東西探しても、これが嫌いな男はあまりいないんじゃないかな。まぁ、確かに誰にでも頼めるような行為じゃないし、噛みちぎられる可能性もないわけじゃないから」


 眼前に現れた剥き出しの男性器に、ノイナは硬直する。じわじわと顔を赤らめて、彼が何を言いたいのか理解すれば、その表情を眺めていたゲブラーが愉快そうに笑う。ついでにナニもぐぐっと大きくなっていく。


「ノイナは、フェラチオ、やったことある? ないよねぇ」


 指先で、すっかりその気になった男根を弄りながら、ゲブラーは半笑いで言った。
 当然やったことはない。そもそもそんな名称自体初めて聞いた。だがなぜかそういう行為がある、ということだけは知っている。


「仕事帰りの身体のままやってもらおうかとも思ったけど、初心者にそれは酷だからねぇ。身体は洗っておいてあげたよ」
「そ、それはどうも……」
「うん。感謝してね。だからさ」


 ノイナの手をとって、ゲブラーは自身に触れさせる。


「感謝の気持ち、頑張って手と口で俺に伝えて?」


 それだけでも十分、ノイナにとっては酷な要求だった。
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