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夜の帳と秘する月
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しおりを挟む「ん、ぁ……ッ」
首筋に舌を這わせながら、小袖の合わせ部分から手を差し込み、存在を主張し始めている胸の突起を摘む。そうすれば晴明の口から甘い吐息が漏れた。
晴明の首筋にこのまま噛み付いたら、さぞかしこの白い肌に赤い血が映える事だろうな――と危ない思考が頭をよぎり、それを振り払う様にその首筋に吸い付いた。別に俺は晴明に死を与えてまで、囲い込みたい訳ではない。
それに、どうせ何もしなくとも人である晴明の方が先に死んでしまうのだ。それなら少しでも、共に居れる時間は長い方がいい。
「ッ……!」
きつく吸い付いた所為で、晴明は一瞬息を詰める。
「すまない。痛かったか……?」
俺の問いに緩く首を振った晴明の首筋に、紅い鬱血痕が綺麗な花の様に咲いていて、征服欲が満たされた気がした。今この時は晴明を独り占め出来るのだ――と。
その紅い痕をひと舐めして、するりと帯を解き、合わせを左右に開けば、晴明のしなやかな裸体が姿を現わす。晴明のきめの細かい肌の感触を確かめるかの様にするする撫でながら、また俺は首筋に顔を埋める。
「……ッ、ふ……ぁ、」
段々と下へ下がっていき、胸の尖りを口に含み舌で転がしながら、右手で反対側の尖りを捏ねる様に摘む。そうしながら、脇腹を撫でていた左手を晴明の陰茎に移動させた。そこはもう緩く勃ち上がっていて、晴明も興奮してくれているのだと、内心嬉しくる。
「ッ、ぁ……灼架……?」
「ん? どうした?」
口淫をしながらゆるゆると陰茎をしごいていた手を止めて、晴明の顔を見上げる。
「そこ、じゃ、ないだろう……?」
そう言って椿油の入った小壺を渡してくる晴明。
「……気持ちよくなかったか?」
早く終われと言う言外の催促かと思い、そう問い返す。
「どうして、そう捻くれた解釈を……」
眉間に皺を寄せてそう呟く晴明の顔を見つめて続きを促したつもりだったが、何故か晴明はむくりと起き上がり、唇を寄せてきた。直前まで晴明の陰茎を咥えていたから抵抗が有るだろうと閉じていた俺の唇を、こじ開けるかの様につついてくる晴明の舌に軽く口をあける。そうすればぬるりと入ってきた晴明の舌に俺の舌が絡み取られた。
しばらくお互いの口腔内を犯すかの様に角度を変え、舌を絡め合い散々互いの口腔内を犯しあう。唇が離れた時には混じり合った唾液が糸を引いて、ぷつりと切れた。
「ッは、……――私は、灼架と、共に果てる方がいい」
熱い吐息を吐き出してから、そう言った晴明は俺の陰茎を掴む。そこはもう、はち切れんばかりに硬く勃ち上がっている。忌々しい絡新婦の残滓の所為で疼く上に、散々晴明の痴態を見て尚且そうまで言われてしまっては、こうなってしまうのは致し方ない事だろう。
「ほら、早く……灼架も辛いだろう?」
追い打ちをかける様にそう言われて、改めて小壺を渡された。
ただでさえ焼ききれそうだった俺の理性が、瞬く間に跡形もなく崩れ去った瞬間だった。
「ッ、ふ、ぁ……ッは、ん、」
本当は、晴明を一度、達せさせてから、十分過ぎる程に後孔を解して――と思っていたのに、蓋を開けてみれば晴明に乗せられるままに、解しすらそこそこに突っ込んでしまっている。勿論、最低限、晴明が痛みを感じない程度にはたっぷりと油を使って準備をしたが。
ぐねぐねと轟きながら俺の陰茎を咥え込む晴明の後孔に、すぐに持っていかれそうになる。それでも早々に自分だけが達するのは、自分の中の矜持が許してはくれそうにない。
何より、晴明が俺と共に果てたいからと急かしてきたのだから、違える訳にはいかない。
「ぅ、ぁ……はぁ……ッん……ふ、」
褥の上に広がる晴明の艶のある黒髪も、上気した顔も、適度に筋肉が付いていながら硬くはないしなやかな体躯も、突き上げる度に上がる普段よりも高い艶やかな声も――総てが愛おしい。
「ぁ、ひ、ぅ……しゃ、ッか、もう……ッぁ、ぁ」
「ッ晴明……俺も――ッ」
晴明の訴えを合図に腰の動きを早めて中を擦り上げる様に突き上げる。
「ひ、ぁ、ぁぁあああ――――」
「ッくッ――――」
晴明の希望通りに、ほぼ同時に俺たちは果てた。
「晴明……?」
軽く触れるだけの口付けをして、繋がりを解こうとしたら、中がぎゅっと絞まった。おまけに俺の腰に晴明の足が絡められている。
「まだ、だろう……?」
「え……?」
「まだ、出そうだよ、灼架……?」
そう言って、ゆっくりとした動作で起き上がった晴明に今度は俺が押し倒された。
結局はさらに二度、晴明の中に欲望を吐き出してしまった。一度目で、絡新婦から受けた影響も、大分ましになっていたから、後は自分で処理しようと思っていた――いや、そんなのは言い訳だな。晴明の淫らな姿に当てられて、そんな気は一瞬にして消え失せていたんだから。
その結果、ただでさえ、疲れが溜まっているはずの晴明に随分無理をさせてしまった。そのまま、気絶する様に眠ってしまったのがいい証拠だろう。逆に俺は晴明の体液を舐めた事で調子は良好と言って差し支えないが。やはり俺は晴明から与えられてばかりだな。
そんな晴明の身体を濡らした布で丁寧に拭っていく。どうせ朝になれば湯浴みをするにと晴明は言うだろうが、こんなにベタベタな身体では褥が汚れてしまうから。
極力無心で全身を拭い終え、俺は外に出た。あれだけしたというのに晴明の裸体を見れば、反応を示す身体を治める為に、井戸から汲んだ水を頭から被った。
ついでに湯船の準備をしておく事にした。晴明が起きた時にすぐに沸かせる様に。
諸々の準備を終えて、俺は再び晴明の部屋に戻ってきた。今日はもう朝までここにいるつもりだ。晴明に与えられた自室はあるのだが、あまり活用はされてないと言っていいかも知れない。
眠っている晴明の顔をぼんやりと眺めながら、俺は後何回この肌に触れる事が叶うだろうと考えていた。俺と晴明は主人と式と言う関係で、それ以上でもそれ以下でもない。故に触れる機会がある自体が変なのだが、今回が初めてな訳でもない。
だが、それは幸運が重なっただけだと言っていい。その、幸運も万が一にも無くなる日は近い。こうしてこの部屋で朝まで過ごす事すらも難しくてなる日が。
そう遠くない未来、晴明は妻を娶り、子を為す。それは晴明が人としての生を望んでいる以上、変えられぬ未来――決定事項だ。
その時俺は何を思うのだろう? ――笑って祝福が出来るだろうか……?
そんな日が来るのが少しでも遅ければいい――そう思うのは、けして、晴明には知られてはならぬ、俺の我儘だ。
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