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空を見る人

24 空をゆくトリマー

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 地下から岩を除けつつ何とか階段を上がり終えてドアを開ける。
周囲に人は居なかったけれどその理由はすぐに分かった。
トワイラーの特徴的な大声で「外へ逃げろ」と叫んでいるのが聞こえたから。
慌てて走り出そうとして、すぐ止まる。
ジュダとケメルがまだ居ない。来た道を引き返し2人でケメルを支えなんとか外へ。

 最後の方になるとジュダがサッカーの要領でケメルを転がしていたけど、気づかないふり。

「な」

 城の外へ出るとトワイラーの言葉の意味を理解する。地下からの爆発でえぐれて
半分無くなっていた。何時どんな些細な衝撃でその残った半分が壊れるか分からない。
中にいるのは危険。
 城で働いている大勢の人々が避難する中、トワイラーたち兵は救助と保全に奔走している。

「ポメレニア様!」

 呆然と見ていたら、また大きな声が響く。この声の主はセットー。
エルムスになにかあったのかと慌てて私は彼の元へ走る。ジュダはケメルを彼の従者に
 渡したらトワイラーのもとへ向かい共に救助作業を手伝っていた。

「エルムス様!」

 担架のようなものに乗せられ運ばれていくエルムス。その傍らにはツヴェルク。
酷い流血をしている様子はないけれど、
 それとも見えないだけで酷い怪我をしているのだろうか。

「何が神の使いか!」
「……」

 彼らについていこうとしたら、セットーが叫ぶ。私を睨みつけて。
 それで一斉に皆の視線が私に向かってきた。

「この娘が来てからこの国は不幸にばかり襲われているではないか!
我らが偉大なる国王陛下がこのような目にあったのも、お前が儀式を仕損じたのだろう!
それで神の怒りに触れてこんな、こんな恐ろしいことが起こったのだ!」
「ち、違います。私は何も。まだ入ってすぐだったんです」
「では神の使いならばこの場を収めてくれるのか!出来るのだろうな!神の選んだ娘ならば!」
「そんな」
「幾ら進言しようとも国王が庇われたからこそ好きにさせてきたがもう我慢ならん!」

 セットーが腰に携えていた剣を抜く。

「違います!今はそんな怒ってる場合じゃ」
「逃げられては困るからな。覚悟せよ、偽の使徒め」

 彼は完全にこの爆発を私のせいだと思っている。そして、この場で処断する気だ。
周囲には他に大勢の人が居るが、皆セットーの身分から発言できないのか。
 それとも皆同じ意見で、私が死ねばいいと思っているのだろうか。

「止めてください!セットー様」
「何だトワイラー。お前の意見は聞かぬぞ」
「そんな事をしてる場合ですか。こっちは何でも良いから手を借りたいんですよ!
貴方が壊されて怒ってる城を守るために!命をかけている所だ!
この子に八つ当たりする暇があったら貴方も一緒になって怪我人を運んでくださいませんかね!
ここに居る全員に言ってるんだ!今は頭じゃない、体を使えと!」

 トワイラーの方が身分は高くないはずなのに、その大きく通る声で命じられて
集まっていた人がどんどん自主的に彼らの部隊に合流し救助活動に加わっている。
 ただセットーはプライドがあるのか、未だに剣を持ったまま不満そうに私を睨むばかり。

「トワイラー。あまり大きな声で怒鳴るな、頭に響いたぞ」
「国王様!」
「エルムス様」

 寝かされたまま目も閉じているがしっかりと喋ってくれている。
 ツヴェルクは嬉しそうにキャンと吠えた。

「セットー。私が気を失っている間に好き勝手言ってくれたな」
「しかしこの娘が来てから」
「お前はすぐに不安になるから黙っていたが。教えてやろう。
この娘が私達が世界の崩壊から逃れる唯一の方法だ。無礼な行為は今後一切許さんぞ」
「ほ、崩壊?」
「まさか門を壊されるとはな。私たちの意思とは関係なく、
神への戦争をしかけてしまったのだろうか」
「ポメレニア様。もっと意味のわかるようにお話を……」
「俺達と行って来い!そう仰ってるんですよ!さ、参りますよ!」
「ま。まてトワイラー!私はそんな力仕事など……ああ引っ張るな折れる!」

 王が復帰し、その言葉を聞いたからか。セットーは容赦なくグイグイ引っ張られて
去っていった。私は恐る恐る彼の元へ向かう。
ツヴェルクはしっぽを振って彼のもとに行きたそうにしたので、
 彼を抱っこして飼い主さんの様子を見せてあげた。

「子どもを助けようとして逆に壁に挟まれるとは。武勇伝にならない失態だ」
「……でも、良かった。骨くらいなら時間が直しますからね」
「お前たちはまた行きそこねたのか。ジュダはさぞ落ち込んでいるだろうな」
「仕方ありませんよ」
「いいぞツヴェルク。そんな物欲しそうな顔で見るな。来い。許す」

 エルムスに言われて、ツヴェルクは私のお腹を蹴って飼い主さんの担架へジャンプした。
もう少し話はあるけれど、今はまず休んでもらおうと安全な場所へ移動してもらう。
私も突っ立っているつもりはない、トワイラーたちと合流して一緒に作業をしよう。
 都にも爆風で飛んだ破片で多少の被害がいっていることは煙があがっているからわかる。


「ねえ。ジュダ」
「何だ」
「あの星。小さくなってる気がしない?」

瓦礫を片付けながらふと星を指差す。けどジュダは一生懸命作業中。

「さあな。俺は最初から見てたわけじゃない」
「あの場所からは行けなくなったね。どうしようか」
「この世界にはああいう場所が沢山あると聞いた。行ってみよう」
「うん」
「なんだ。何を笑ってるんだ。こんな皆が大事な時に」
「だって。少し前なら作業なんてしなくて1人でもその場所へ向かってそうだから」
「……まだ怒ってたのか。悪かった」
「そういう意味じゃなくて。貴方も少し変わったんだなーって」

 自分だけじゃなくて誰かのことを考えてくれている。

 城は半分ほど飛ばされたが倉庫や見張り台など人の少ない方向だったようで
怪我人は大勢出たが死者はでなかった。エルムスは軽い打撲。ケメルは目の治療を
 受けているけれど、今までのように空を見られるかは不明。

「俺は王にはなれないし、その器でもない。……でも、エルムスのように強くなりたい」
「ジュダ」
「今のは誰にも言うなよ」
「ハイハイ」
「笑うな」
「笑ってないって」

 被害は大きい。けれど、今は命が繋がったことを感謝しなければ。
扉が使えなくなった事も、
 神を怒らせた事も今考えたって暗く憂鬱になるだけ。

「だいぶ片付いたな。一旦トワイラーたちと合流しよう」
「けっこう離れちゃったもんね。ジュダは細かい仕事が得意?」
「別に」
「いいな器用で。私なん」

 あれ?私の体こんなに軽かったっけ?ふわふわしてまるで空でも飛んでるみたい。
 違和感を覚えて下をみたら数センチほど地面から浮いている体。

 うそでしょ?

 怖くなってジュダを見たら彼もそれを見たようで驚いた顔をした。

「ショウコ?お前」
「え。え。え。い、いやだ。ジュダ!助けて!引っ張られてる!」

 飛んでるというより吸い込まれそうというのが正しいだろうか。
空に向かって引っ張られる力を感じる。
 慌てて手を伸ばしたらジュダが手を掴み抑えようとしてくれるけれど。

「うわあ!?」

 ついには彼も一緒にふわりと浮いた。

「どうした?……っておいおいおい!?」

 集合してこない私達を心配してトライラーと部下たちが来てくれた頃には
もう結構上にいる私達。力は感じるものの、
急上昇はしないでじわじわと上がっていくのが余計に怖い。
 遊園地のアトラクションだったら、このあと一気に急降下するだろう。

「トワイラーさん!たすけてーーーーー!」
「おう!任せ……ど、どうやって!?」

 ジタバタしてみても変わらない。まるで見えない大きな手に首根っこを摘まれて
 ゆっくりと引っ張り上げられているような気分。

「もしかしたらこのまま運ばれるのかもしれない」
「また移動するの?しかもこんな大雑把なのある?宇宙空間突っ込んだら死ぬよ!?」
「落ち着け。暴れるな。……とにかく、このまま上がっていくしか無い」
「そう、だよね。よしっ。わかった。でも、怖い。手を離さないで」
「わかってる」

 速度はそんな無いのに、もう下を見たら恐怖に震え上がる高さ。
上を見ると絶望する広さ。
だからジュダの顔を見ていた。彼も当然こんなの怖いに決まってる。
けど、私の為に一生懸命強気で居てくれている。手をつないだまま手繰り寄せ
 ぎゅうっと抱きしめてもらう。私は彼の胸に顔を埋めるだけでいい。

 だけど地に足の付いていない恐怖は空を飛ぶ悪夢みたい。
お願いだからさっさと到着してこの生殺しは嫌!
 早く!早く行って!

「あれ。止まった?うそ。このままじゃ死」

 ぬ、と言い終わる前に気絶するほどのスピードで私達は空を突き抜けていった。
どうやら「早くしろ」という願いは聞き届けられたらしい。だけど、神様。
 空を飛ぶ力は要らないって言いましたよね?

 それにあんな終わり方で良かったんだろうか。崩壊させないでと言えてもない。

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