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空を見る人
20 こんな出会いあって良いんでしょうか
しおりを挟むぼんやり巨大な都を眺めていたけれど。本格的に冷えてきたので私も階段を降りて、
当初の目的であったツヴェルクのもとへ向かう。
もうそろそろエルムスも戻ってきているだろうか。何も無ければそれで良いのだけど。
ケメルの言葉の後だからなんだか不安が尽きない。
「ツヴェルク。……助けてくれてありがとう。私が貴方の世話をしなきゃいけなかったのにね」
彼は眠りから目覚めていてエルムスの玉座に座っていた。
ふわふわの毛並みが美しい気高き王のポメ。そっと近づいて手を伸ばし頭を撫でたら
気に入らなかったようで鼻でフンと避けられた。グルーミングしてから若干彼に嫌われて
いるような気がする。
そもそも私の相棒のはずが最初からずっとエルムスに懐いていた神獣。
「私はこの世界に来て数日だけど、壊したくはない。そのまま続いていって欲しい。
後から再生されるとしても。私が出会った人たちや、エルムスが死んじゃうのは……、
でも私は何時までもここには居ないし、皆の記憶がないならただの我儘なのかな?」
時代は進まず同じ所で折り返しまた巡るだけ。なんて残酷かと思ったけど、
それはある意味平和とも言える。
神様にとっても、世界の中心から時代が進んで神話の登場人物にされるよりは。
私の言葉にツヴェルクは首をかしげるだけ。何も答えてはくれないと分かっていたけれど。
「……神様、こんな無能を選ばないで。何も持ってないから。お願いだから。もう、帰りたい」
呼んでおいて神さまは何も指示してくれないし、助けてもくれない。
こんな状況、あの頃となにが違う?辛すぎて泣きたくなる。
いや、もう泣いてる。
ツヴェルクは私の顔を覗き込み、その涙をペロペロと舐め取った。
「可哀想な娘」
「え」
ここには私しか居ないのにお爺さんの声がした。
それもゆっくりとした優しい語り口調。まさかこれがツヴェルク?
なんとなくだけど、あの不思議な声のような音が聞こえる気もする。
「封じられ身動きの取れぬこの体。お前を見ているしか出来ない」
「……ツヴェルクじゃない?貴方は誰」
「初めはバイーユと呼ばれていた。今はもう名など意味はない」
「はい!?」
まさかの神様降臨してる?今まで散々呼びかけていたけれど、まさかここで?
キョロキョロと周囲を見渡すがやはり他に誰も居ない。静かなものだ。
以前、ダクシィが言っていた「姿は見えないけれど声は聞ける」というのはこういう事?
「この獣の瞳を通じずっとお前を見ていた。呪われた異界の娘」
「私を呼んだのは貴方ですよね?」
「わしは謀られ身を裂かれ血を抜かれ眼球も脳も奪われたのだ。山の娘に呪縛の1つを
解かれるまでは、見ることも話すことも何も出来ないでいた」
「……じゃ、じゃあ」
神様は複数は存在しない世界なんですよね?
じゃあ、私を呼んでいる神様って、どなたですか?
「星を動かすことに躍起でお前への呪縛が削がれた今こそ好機」
「私どれだけ呪われて、じゃない。どうしたら良いんですか神様」
「お前の望みはなんだ」
「それは」
どうしよう即答できそうで、出来ない。この世界を壊さないでと言うべきか。
ジュダを今すぐにでも国へ帰してあげてというのか。
あるいは、私を今すぐにでも自分の世界へ帰して欲しいというか。
「お前にはまだ意思が足りん。他人に影響され流され、声は届かない。
無知であり無力だ。
それは人であれば誰しもがそうである……故に、助け合って生きてゆける」
「……」
「しかしこの星においてお前は特異な存在。覚醒する事が出来よう。
望みこそお前の力となる。強く望め。声が届くほどに強くだ。
最後まで貫く強さを持つのだ、それがお前にかけられた呪縛を解」
「神様?ちょっと?あの!神様!バイーユ様!!」
通信が途切れた?誰かに妨害された?もっと話がしたいのに。
慌ててツヴェルクを抱き上げる。
「何をしている」
「あ」
乱暴にしたからツヴェルクは逃げ出して、帰ってきたエルムスの後ろに隠れた。
そして若干唸られている。
「なんだ。恐ろしい形相で睨んでいたが」
「今、神様と話をしてたんです」
「神と?泉が無いのにか」
「はい」
もしかして、あの瞬間。帰りたいとか神様に会いたいと心から強く願ったからだろうか。
会いたいのはずっとずっと願ってたはずなのに。どうして今?
そういえば、星を動かすのに躍起になっていると言っていたっけ。
とにかく私は虐待していたと思われる前にエルムスに先程までの経緯を話した。
「つまり、お前を呼んだのも私達が信じていた神もバイーユではなく別のなにかということか?」
「もしかしたらジュダの世界の神様なのかも。彼に話を聞いてみないと」
「確かに話は聞くべきだろうが、それだとやつの世界の神がこの世界の神を殺した事になる。
その上で、お前を何故わざわざこの土地に来させる必要があるんだ」
「……ですね」
まだ自分たちの知らないことが沢山あって、情報があっても中々話がつながらない。
わかったことは、呼ばれているからって安易に神の元へ行くのは危険だということ。
なにせ神様を八つ裂きにしている相手なのだから、向かった先に何が待っているのか。
「駄目だ、いくら考えても混乱するだけだ」
「あの、地下はどうでした」
「扉の中には入らなかったが、洞窟自体は何もなかった。賊が隠れても居ない。
警備は前以上に厳重にしてあるから押し入られる心配はないだろう」
「そうですか」
向かい合って座って一緒に悩む。エルムスは自分の椅子ではなく、私と同じ目線で座った。
ツヴェルクはそんな彼の膝でじーっとこちらを警戒中。なんとか機嫌を取りたくて、
彼を見つめてあやそうとするもウゥウウウと怖い顔で唸られるばかり。
「門番には若造が戻り次第手厚く持て成すように言っている」
「優しいんですね」
「さあどうだろうな。感じ方はそれぞれだ」
噛まれてもいいと覚悟して手を伸ばしたら、その手をエルムスに引っ張られて。
どうしてだろう、抱き寄せられてる?
「……」
顔が近い。見つめられてる。どうしよう言葉がでない。
「怪物にでも襲われたような顔だな」
エルムスはにこりと微笑む。
「だって。あの。その?」
何度か偶然?くっつくことはあったけれど、今のは故意だ。
何もないのに、いきなりそんな近くに来るなんて聞いてない。
「不可解な事ばかりの神も、戦争を仕掛けてくる隣国の連中も。深く恨まずに生きていたいのに、
また私は置いていかれるのだと思うとどうしても、お前だけは恨まずにいられない」
「エルムス様」
「いっそ全部忘れた新しい自分になったほうが幾らか楽だとさえ思う。……だが、
それはできるだけ回避したいのだ。私にはこのツヴェルクが居る。コイツともっと暮らしたい」
「……」
「王にしては個人的な願い過ぎるか?」
「いえ。貴方らしい」
くすっと笑い合って、なんとなく顔が近づきそうになる。
「離せ!離せ!」
「落ち着け!」
「いいから離せ歩ける!」
所に、廊下から何やら騒がしい大きな声が複数聞こえてきた。
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