上 下
20 / 28
空を見る人

20 こんな出会いあって良いんでしょうか

しおりを挟む

 ぼんやり巨大な都を眺めていたけれど。本格的に冷えてきたので私も階段を降りて、
当初の目的であったツヴェルクのもとへ向かう。
もうそろそろエルムスも戻ってきているだろうか。何も無ければそれで良いのだけど。
 ケメルの言葉の後だからなんだか不安が尽きない。

「ツヴェルク。……助けてくれてありがとう。私が貴方の世話をしなきゃいけなかったのにね」

 彼は眠りから目覚めていてエルムスの玉座に座っていた。
ふわふわの毛並みが美しい気高き王のポメ。そっと近づいて手を伸ばし頭を撫でたら
気に入らなかったようで鼻でフンと避けられた。グルーミングしてから若干彼に嫌われて
いるような気がする。
 そもそも私の相棒のはずが最初からずっとエルムスに懐いていた神獣。

「私はこの世界に来て数日だけど、壊したくはない。そのまま続いていって欲しい。
後から再生されるとしても。私が出会った人たちや、エルムスが死んじゃうのは……、
でも私は何時までもここには居ないし、皆の記憶がないならただの我儘なのかな?」

 時代は進まず同じ所で折り返しまた巡るだけ。なんて残酷かと思ったけど、
それはある意味平和とも言える。
神様にとっても、世界の中心から時代が進んで神話の登場人物にされるよりは。
 私の言葉にツヴェルクは首をかしげるだけ。何も答えてはくれないと分かっていたけれど。

「……神様、こんな無能を選ばないで。何も持ってないから。お願いだから。もう、帰りたい」

 呼んでおいて神さまは何も指示してくれないし、助けてもくれない。
こんな状況、あの頃となにが違う?辛すぎて泣きたくなる。
いや、もう泣いてる。 
 ツヴェルクは私の顔を覗き込み、その涙をペロペロと舐め取った。

「可哀想な娘」
「え」

 ここには私しか居ないのにお爺さんの声がした。
それもゆっくりとした優しい語り口調。まさかこれがツヴェルク?
 なんとなくだけど、あの不思議な声のような音が聞こえる気もする。

「封じられ身動きの取れぬこの体。お前を見ているしか出来ない」
「……ツヴェルクじゃない?貴方は誰」
「初めはバイーユと呼ばれていた。今はもう名など意味はない」
「はい!?」

 まさかの神様降臨してる?今まで散々呼びかけていたけれど、まさかここで?
キョロキョロと周囲を見渡すがやはり他に誰も居ない。静かなものだ。
 以前、ダクシィが言っていた「姿は見えないけれど声は聞ける」というのはこういう事?

「この獣の瞳を通じずっとお前を見ていた。呪われた異界の娘」
「私を呼んだのは貴方ですよね?」
「わしは謀られ身を裂かれ血を抜かれ眼球も脳も奪われたのだ。山の娘に呪縛の1つを
解かれるまでは、見ることも話すことも何も出来ないでいた」 
「……じゃ、じゃあ」

 神様は複数は存在しない世界なんですよね?

 じゃあ、私を呼んでいる神様って、どなたですか?

「星を動かすことに躍起でお前への呪縛が削がれた今こそ好機」
「私どれだけ呪われて、じゃない。どうしたら良いんですか神様」
「お前の望みはなんだ」
「それは」

 どうしよう即答できそうで、出来ない。この世界を壊さないでと言うべきか。
ジュダを今すぐにでも国へ帰してあげてというのか。
 あるいは、私を今すぐにでも自分の世界へ帰して欲しいというか。
 
「お前にはまだ意思が足りん。他人に影響され流され、声は届かない。
無知であり無力だ。
それは人であれば誰しもがそうである……故に、助け合って生きてゆける」
「……」
「しかしこの星においてお前は特異な存在。覚醒する事が出来よう。
望みこそお前の力となる。強く望め。声が届くほどに強くだ。
最後まで貫く強さを持つのだ、それがお前にかけられた呪縛を解」
「神様?ちょっと?あの!神様!バイーユ様!!」

 通信が途切れた?誰かに妨害された?もっと話がしたいのに。
 慌ててツヴェルクを抱き上げる。

「何をしている」
「あ」

 乱暴にしたからツヴェルクは逃げ出して、帰ってきたエルムスの後ろに隠れた。
 そして若干唸られている。

「なんだ。恐ろしい形相で睨んでいたが」
「今、神様と話をしてたんです」
「神と?泉が無いのにか」
「はい」

 もしかして、あの瞬間。帰りたいとか神様に会いたいと心から強く願ったからだろうか。
会いたいのはずっとずっと願ってたはずなのに。どうして今?
 そういえば、星を動かすのに躍起になっていると言っていたっけ。

 とにかく私は虐待していたと思われる前にエルムスに先程までの経緯を話した。
  
「つまり、お前を呼んだのも私達が信じていた神もバイーユではなく別のなにかということか?」
「もしかしたらジュダの世界の神様なのかも。彼に話を聞いてみないと」
「確かに話は聞くべきだろうが、それだとやつの世界の神がこの世界の神を殺した事になる。
その上で、お前を何故わざわざこの土地に来させる必要があるんだ」
「……ですね」

 まだ自分たちの知らないことが沢山あって、情報があっても中々話がつながらない。
わかったことは、呼ばれているからって安易に神の元へ行くのは危険だということ。
 なにせ神様を八つ裂きにしている相手なのだから、向かった先に何が待っているのか。

「駄目だ、いくら考えても混乱するだけだ」
「あの、地下はどうでした」
「扉の中には入らなかったが、洞窟自体は何もなかった。賊が隠れても居ない。
警備は前以上に厳重にしてあるから押し入られる心配はないだろう」
「そうですか」

 向かい合って座って一緒に悩む。エルムスは自分の椅子ではなく、私と同じ目線で座った。
ツヴェルクはそんな彼の膝でじーっとこちらを警戒中。なんとか機嫌を取りたくて、
 彼を見つめてあやそうとするもウゥウウウと怖い顔で唸られるばかり。

「門番には若造が戻り次第手厚く持て成すように言っている」
「優しいんですね」
「さあどうだろうな。感じ方はそれぞれだ」

 噛まれてもいいと覚悟して手を伸ばしたら、その手をエルムスに引っ張られて。
 どうしてだろう、抱き寄せられてる?

「……」

 顔が近い。見つめられてる。どうしよう言葉がでない。

「怪物にでも襲われたような顔だな」

 エルムスはにこりと微笑む。

「だって。あの。その?」

 何度か偶然?くっつくことはあったけれど、今のは故意だ。
 何もないのに、いきなりそんな近くに来るなんて聞いてない。

「不可解な事ばかりの神も、戦争を仕掛けてくる隣国の連中も。深く恨まずに生きていたいのに、
また私は置いていかれるのだと思うとどうしても、お前だけは恨まずにいられない」
「エルムス様」
「いっそ全部忘れた新しい自分になったほうが幾らか楽だとさえ思う。……だが、
それはできるだけ回避したいのだ。私にはこのツヴェルクが居る。コイツともっと暮らしたい」
「……」
「王にしては個人的な願い過ぎるか?」
「いえ。貴方らしい」

 くすっと笑い合って、なんとなく顔が近づきそうになる。

「離せ!離せ!」
「落ち着け!」
「いいから離せ歩ける!」

 所に、廊下から何やら騒がしい大きな声が複数聞こえてきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...