秘密の多い私達。

堂島うり子

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番外編

3:とある昼下がり

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 事件が起こってからは何事もなく会社はまわっている。
出世争いとか意中の相手を誰が落とすかとかは何処の世界にもあること。
 人の生死には直接関係しないし社長が駆り出される事もない。


「はぁ……今日も世界は平和ですぅ」

 社長の椅子に座るのは気分がいい。座ったまま後ろを振り返ったら
ガラス張りで高層階の景色を独占出来るというのもあるけど。

「確かに。昼寝するために社長室に来る社員が居る会社は平和だ」
「自分の席で休憩しようと思ったんですけど騒がしくて。
テラスは肌寒いし。他のスペースも盛あがってて入って行けず」
「君の言い分だとお祭り騒ぎでもしてるようだね」

  社長そのものも独占できるという特典付き。

「お祭りみたいなものです」
「君は好きだろ。祭りの類は。よく行こうと誘ってくる」
「でも大体高級レストランとかではぐらかされます」
「あのベタベタした空間がどうもね」
「浴衣着るのに」
「……、考えるよ」

 楽しいと思うほどに時間があっという間に溶けていく。
終了15分前には部屋を出て自分の席へと戻ってきた。
 お祭り騒ぎは流石にもう収まっているだろう、と。

「お疲れ様です。よかったらコーヒーどうぞ」
「なに急に」
「いえ、初めて見るくらいダウナーになってらっしゃるから」

 開始前に温かい飲み物を用意しておこうと自販機に向かったら
給湯室にて別人かと思うくらい疲れ切った顔の一瀬さんが隠れるように居た。
無視してもいいと思う反面、本当に辛そうに見えて
 せめて何か差し入れくらいはしたほうが良いとコーヒーを買って渡す。

「商談失敗するより女にグイグイ来られる方が疲れるって言ったら信じる?」
「あんまり信じないです」
「1人2人ならいいけど3人4人とくるともうクラクラしてきて頭痛い」
「頭痛薬の方が良かったですか?」
「コーヒーで十分。お気遣いどうも」
「いえ。何時もお世話になってますから」
「それ皮肉?」

 仕事上の問題でたまに強めの注意は受けるけれど、それとは違う
 見たことのない少しピリッとした表情で言われる。

「えっ?!違いますよそんな皮肉なんて言いません」
「誘いに乗ってこない相手から聞くセリフじゃないよなって思っただけ。
ま、よくあるテンプレ文句なんだろうけど」
「確かにお歳暮渡すみたいな言い方でしたね。すみません」
「……ふふっ……はははっ」
「またご機嫌損ねましたか?」
「いや。むしろ機嫌が良くなった。ありがとう丘崎さん」
「え?え?」

 何で?何が良かったんだろう。コーヒー?
何が起こったのか分からなくて不思議な顔をする私を他所に
 彼はまた軽く笑って去っていった。

 

「え?頭がクラクラすることがあるかって?」
「はい。創真さんはよく綺麗な女性を4,5人引き連れてるから」
「そんな覚えはないけど君には私がそんな風に見えてるのか」
「で。どうなんですか」

 帰宅後。共通点の多いと思われる男性に答えを聞いてみる。

「香水がキツイと多少気分が悪くなるくらいかな」
「なるほど」

 流石狙っている女性が多い社長様。数が違うか。

「私の場合は近づいてくる彼女たちに何の意識も持たないからね。
マネキンと一緒。彼はああ見えて紳士に対応するんだろう。
だから1人ひとりの欲望を吸い取ってしまって気づかれする」
「なるほど。……え?」

 何で分かった?私の心は読まないはずなのに。

「何となくそんな気がして。図星だね」
「すごぉい」
「……」
「良いじゃないですか。これで創真さんが苦しんでないと分かったから」
「私が意識しないのは咲子が居るからだ。君も私に集中して欲しいな」
「はい。集中する」
「子どもじゃないんだからそんな簡単に」
「浴衣の可愛いホテルお泊りデートでどうです?部屋から花火が見えちゃう」
「……、いいじゃないか。詳しく聞こう」


終わり
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