秘密の多い私達。

堂島うり子

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第9章

と、私

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「もしかして私の事で何かご迷惑を」

 痺れを切らしてとうとう私が姪であることを盾に強請って来たとか?
となれば何かしらの反撃をしていそうだけど、だから九條さんは情報を
 持ちながら強硬手段は取らないと思ってた。

「気にせず仕事に専念するといい」
「負担になってないかだけでも教えて欲しいです」
「そんな悲しい顔で心配されるほうがよほど負担になる。だけど今日はあんな
電話をしたのにきちんと仕事に専念して偉かったね。少しは成長したかな?」
「創真さんに付いていくって本気の覚悟でここに居るから」

 そう強く思うだけで実績はまだ伴ってないけど。何時までも同じ場所で
甘えていてはいけないから。仕事もそうなんだけど、普通の人よりも
 困難な恋愛を選んだ私に成長は必要な事。

「この調子なら良い子から好い女になれそうだ」
「嬉しい」
「そして君に目をつける若い男も増えると。男女の問題はついて回るね」
「お互い様です」
「まあね」

 どのようなやり取りがあったのかは最後まではぐらかされて教えて貰えず。
警察、というより九條さんの呼び出しに応じて事件のアドバイスを行うという。
 警部と社長のコンビでこれからいつくもの難事件を解決していくんだろうな。

 せっかく理解はしてくれている相手だし2人が友人関係になればいいけど。

 そう言えば先輩は九條さんと何かしらの発展はあったんだろうか。
 何も続報を聞かないけど。敢えて聞くのも怖いので止めておこう。

 それからの日々も変わらず週末まで何とか乗り切ってやり過ごし。
溜め込んだものを吐き出すように出かけてみたり荷造りをして脱線したり。
  それなりに充実していたけれど。

「え。わ、私ですか」
「なんだ?まさかまだ新人気分じゃないだろうな?」
「いえ。やります」
「よし。じゃあ、さっそくミーティングがあるから顔を出してこい」
「はいっ」

 ついにこの日が来た。

 私も先輩たちと同じ事が出来る。それもプロジェクトに参加できるなんて、
もちろんまだ補佐的なものだけど。それでも現場をきちんと見て体験して仕事
 できるなんて凄く有り難い。

 準備をしてから上司に言われた部屋へ駆け足で移動。

 まずは自己紹介して、いや、そんなの要らない?
 軽い挨拶だけにして座ったらいいかな。

「っと」
「わっ…」

 緊張しつつ軽くノックしてドアを開けたら丁度出てくる人とぶつかる。
転ぶかも、と一瞬焦ったけど相手が咄嗟に支えてくれて平気だった。
 顔をあげると見たことの有る男性。

「大丈夫か一瀬?君も」

 心配そうに顔を出すベテランな風貌の男性社員さん。
 他、若い女性が2名。もうひとり若い男性。

「はい。すみません」
「大丈夫ですよ」

 何よりこの人が居るなんてどうしようーーーっ。

「よ、よろしくおねがいします」
「よろしく」

 にこりと笑って彼は出ていった。もしかして資料を持ってきたとか
ちょっと顔を出しているだけかも?なら、大丈夫かな。
 リーダーはあのベテラン社員さんだろうし。ああ、一瞬ヒヤッとした。

 まだ何もしてないのにこんなに冷や汗かくことある?

「一瀬さん主導で新規プロジェクトなんて期待しかないですよ」
「そうだな。ただあいつはかなり厳しいから気をつけろよ。女子も
顔で選ぶと痛い目見るぞ。あいつは男女関係なくスパルタだから」
「セクハラですっ」
「……」
「ほら新入りちゃんが真っ青になってるじゃないですか可哀想に」
「知らないで痛い目見るよりはいいだろう」

 冷や汗が滝汗になった瞬間。

 私は途中からで企画内容やこれからの展望などを資料と一緒に聞いていたのに
半分ほど抜けていった。あまりの出来事にお昼前なのにお腹が全然減らない。

 お昼を一緒にどうかという社長からのメールにも虚ろでガイコツの絵文字だけ
を送ったらまさかの上司経由で社長室に呼ばれた。
 直々に呼び出しなんてお前一体何をした?と言わんばかりの顔で。

「腹?頭?女性特有のものだったらどうしようもないが」
「痛みで苦しんでるサインじゃないです」
「そう気軽に使うものじゃないだろ」

 社長室に入るとおいでと手招きされ向かうと彼の机にずらりとお薬。
まさか買ってきてくれた?ガイコツ1つでここまで気にしてくれるなんて。
 嬉しいような恥ずかしいような。

「ちょっと気まずい人のチームに補佐で入ることになって。
仕事で飛躍できるのは凄く嬉しいけどプレッシャーで辛くて」
「なるほど。確かにそういう顔だ」
「先輩にもゲッソリしたねって言われました」

 最初は皆そうなるよって言ってくれたけど。慣れていくだろうか。
 しかも相当なスパルタって聞いているし。封印した愚痴をいいそう。

「私に出来ることは?社長としてでなく、恋人として」
「あれ優しい」

 てっきりここからが正念場とかスタートだとか言うのかと思った。

「昼休憩中は社長も休憩する事にした」
「じゃあ」
「言ってごらん。君の好きな料理を用意するし他に何でも」
「創真さん食べたい。なんてね」

 優しいことを言ってくれるからこっちも甘えたことを言ってみる。
それだけでだいぶ気持ちが和らぐからやっぱり恋人の力は凄い。

「分かった」
「え?」

 ぐいっと手を引っ張られてそのままストンと社長の膝に座る。
社長の椅子に座ってる社長に座るなんて稀有な体験、なんて場合じゃない。
  この体勢は危ないのでは?

「じっくりしたいけど時間が勿体ないから省略する」
「あっ…ちょっ…ダイレクトにそんな……そこは…っ…ぃー……」
「いや?」

 耳元で確認される間も静かに動く私の服の中。

「嫌じゃない……けど、これ私が食べられるやつ」
「一緒だよ。どうせ一緒にいくんだからね」

 それはそう、か。

 体は絡め取られているし色気の非常に強い甘い声に頭がぼんやりして。
 ああ。このままお昼休憩は過ぎていくんだ。

「……」
「そのキラキラした目は何度見ても鬱陶しいね……」
「社長の名推理が光る時が来ました」

 汗にまみれる前に無情に鳴り響くスマホの着信音。
 しかもこの音の相手は決まっている。

 新しい事件だ。

「事件は他人の不幸だ。何ら喜ばしくない」
「社長が凄くかっこいいから」
「……事件が無いと駄目な男なのか私は」
「創真さんは私のためにやりたくない事してくれてる。
私も負けないように仕事しますから。愚痴りそうだけど」
「はいはい。そこに弁当があるから食べていいよ」
「わーい」
「一瀬君のチームは何時も結果を残してきた。彼は非常に優秀だ。
そこに君の参加は喜ばしい事だから心から応援するよ。
ただし、彼と2人きりになるとか食事などしないように」
「はい社長」
「行ってくる」

 唇にキスを落とし、スーツの上着を羽織ると部屋を出ていく。
その途中で電話を受けているようだった。何時もの口調で。


 環境が変わろうと相変わらず秘密の多い私達。


 だけど着実に前には進んでるし向かう先に壁があったって別の道を
探すだけ。もしそこも壁なら壊してしまえばいい。

「ミステリー小説買って読もう。これで天才社長の助手の枠は私のもの」

 誰にも邪魔はさせない。




終わり
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