秘密の多い私達。

堂島うり子

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第8章

もどかしいのです

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 メールで連絡をもらって歩いて行ける距離にある喫茶店に誘導される。
何時もは通らないようなビル街の裏手にひっそりとあるお店。お昼時だから
人は多いけどスーツ姿の人は殆ど居ない。近隣の常連さんばかり?ぽい。

 レトロっていうよりも年季が入ってボロいに近いような。
まるで私の家みたいで懐かしい。
 店内を見渡すと奥の席に社長が居たので席につく。

「初めて来ました。創真さんは結構来るんですか?」
「常連というほどではないけど、ここの野菜サンドが好きでね」
「じゃあ私野菜サンドにしてみよ……あ、でもランチ美味しそうだ」
「長くなりそう?」
「いえ。ランチにします。創真さんの1個貰えばいいし」
「なるほど」

 注文をして、後は料理が来るのを待つ時間。他の人の食べている
様子をチラっとみたからランチにも期待大。と、そこで私のスマホが
震えたので確認すると先輩から短いメッセージ。

「……」
「仕事のミス?机のお菓子が多すぎるって注意?」
「分かりますか」
「不味いっていう顔をしたからね。それで?」

 ニッコリもせず真顔で問い詰めに来るんですね社長様。
 ああ、やっぱりこれは言わないと駄目な空気なんだ。

「仲良くしてもらってる先輩のお姉さんが先程の秘書さんで。
無礼な新人は何処の誰かと調査をするって……仰ったようで」
「それはしょうがない」
「そうですよね。……はぁあ」

 気が抜けた声を出す。だって本当に体から力が抜けたみたいで。
今なら冷静に反省できるけど。ああ、本当に今更だ。裏事情なんて
 知る由もない上司にも連絡が行って怒られるんだろうな。

「彼女は真面目だから目に入る者はきちんと把握していないと気がすまない。
大人しくしていればラベリングが終わる。後は自由になるよ」
「どんなラベルを貼られるんですか?どうせいいものじゃないですよね」
「彼女の心を読んで欲しいの?」
「いえ。どれだけ辛いって思っても会社では愚痴りませんっ」
「よろしい」

 何度目かの誓い。何時か彼氏や甘いものに頼らなくても愚痴を言わなく
てよくなるようにしないと。自分が何時までも成長しない。

「努力あるのみですね。ほら、他部署との交流会あるじゃないですか。
それで連絡先を交換した人が居るので。少しずつ人の輪を広げたいなぁ」
「交流会」
「あれ?把握されてない?」
「そちらの交流会に関しては社員同士の物だろうからしてない。
連絡先の交換って当然女性社員だろうね?」
「……」
「……」
「そう言えば響子さんたち予定を切り上げて帰るんですよね?
その前にご挨拶とかしたいんですけど都合つきませんか?」
「それは今関係有る?」
「無いですね」

 あ。だめ。怖いやつだ。

 場の空気を読まずに注文した品が到着。
 野菜サンドと本日のランチセット。コーヒー付き。

「今回の事で君との関係を決して曖昧にはしないと決めたんだ。
公表するのはまだ時間がかかるにしても、だ」
「わ。わあい嬉しいな」
「交友関係を広げるのは結構だが君もその覚悟を持ってもらいたい」
「創真さん男女問わず交友関係が広いし私だってその辺」
「何だって?」
「野菜サンドとキュウリ交換しましょう」
「どうぞ」

 まずはお腹がすいたので食事を頂いてからでもいいでしょうか。
お店の雰囲気にぴったりな家庭の素朴でまた食べたくなるような
美味しい味。貰った野菜サンドも当然あっという間に消えた。

「……はあ。このままお昼寝したら最高だろうな」
「仕事しなさい」
「まだお昼タイムなんです夢見させてください」

 食事を終えて一緒に歩く。といっても途中で離れるけれど。
今はまだ公には出来ない。例えすぐには辿られないとしても
 薄っすらとでも繋がった血は何れバレる危険性が高いから。

「響子さんたちは明後日の夜にアメリカに帰るそうだから。
明日の夜に食事でもと思うんだけど、君はどうする」
「参加します。このままじゃお互いに良くないので」
「分かった」
「私の家族だったら物凄く大事にするのになぁ。無くしものを
見つけてくれるなんて最高なのに。
慧人君も家族のためにあれだけ出来るなら根は優しいはず」
「君らしい解釈」
「なんて偉そうに分かったようなことを言ってたら駄目ですよね」
「情けない顔で愚痴るよりはいいんじゃないかな」
「はぁい」

 そろそろ離れる距離まで来てしまう。後はもう家に帰るまで会えない。
同じ建物に居るし帰ったら会えるのになんで毎回離れる時は寂しいと思うの?
 でもここで甘えてはいけない。

 ここはしっかりとした所を見せなければっ。

「……そうだ、秘書が君を調べたのだからもう無理に隠すこともない。
このまま一緒に入ろうか。よし、物は試しだ行こう咲子」
「しっかりして創真さん私達思いっきり手繋いでるから」

 貴方の腕に絡んでるの気づいてないわけじゃないですよね?

 彼はしっかりしてるように見えて実はそうじゃないのかもしれない。
 それに気づいている人はこの世界に何名ほど居るんだろう?


「姉さんにチェックされるなんて中々やるじゃないの新人ちゃん」
「す、すいません。病み上がりでテンションが変だったんです」
「だろうと思ったから一応フォロー?はしておいたけど」

 席に戻ると先輩からちゃんと話を聞いた。
 上司には話が行ってないみたいだけど。ハラハラする。

「ありがとうございます。本当に、自分の未熟さが恥ずかしい」
「そんなの気にしなくていいって。社長室のフロアの自販機でしょ?
別に社長や幹部しか使っちゃいけないルールはないんだし」
「本当に何でそんな所行っちゃったかなって」

 行ったことよりも社長に馴れ馴れしいのがNGなんだろうなと。
 思っても言えない。

「あの階は見晴らしがいいスペースあるから利用する人居るけど?」
「そうなんですか」
「流石に社長室側へ行く人は居ないけどね」
「はは……。あの、お姉さんは他になにか仰ってました?」
「別に。既婚者かどうか聞いてきたからフリーだって言っておいた」
「それはどうも」

 いや、フリーじゃないですけど。でも言えないモドカシイ。
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