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一応婚約者となったソーニャはそれまでの暮らしとはまるで違うことに戸惑ったが、一週間もせずに聖女の修行のためにスタークから離れられたことは幸いだった。
聖女の才能があると認められた者は集められ、指導を受け切磋琢磨し、その中でも優秀な人が聖女に選ばれる仕組みだ。
(みんなすごいのね。私が聖女に選ばれるなんてあるの?)
否応なく他の人と比べられてしまい、ソーニャは自分の才能が秀でていないことを理解した。
(でも聖女になれないとスターク様が何をするかわからないし……。親にまで迷惑をかけることになるかも……)
あのスタークのことだから不安になるのも当然であり、幸せになっていると思っているであろう両親のことを考えると、絶対に聖女になってスタークに愛されなくては、とソーニャは決意を新たにした。
どれだけ決意しようが現実は残酷だった。
他に優秀な人が何人もいるのだからソーニャが聖女に選ばれる可能性は極めて低く、それでも諦めるわけにはいかず、ソーニャは必死に努力し続けた。
それでも成果が出ずに時間ばかりが過ぎていく。
何よりも苦痛だったのが、たまにスタークが面会にやってくることだった。
家族や婚約者は面会が認められており、王子や貴族も面会にやってきていた。
それは他の聖女候補は偉い身分の人もいるということだ。
聖女に選ばれるかは出自と関係ないとはいえ、平民の、しかも農民の娘でしかないソーニャには生まれながらに負けているように感じられてしまった。
「何のためにお前と婚約したのか理解しているよな? いいか、絶対に聖女になるんだぞ」
「はい」
外聞を気にするスタークなので、この場では強い感情を見せるようなことはないが、ソーニャにとっては十分な脅しだった。
どうにか取り繕うが、本心では無理だと思っており、ますます希望も元気も失うこととなった。
(私、どうすればいいの? このままだとスターク様の望んだようにはならないし、そうなったら私だってどうなるかわからない……)
ソーニャにとっては悩みの種であり、どう考えても解決策は見つからなかった。
自分が望んだわけではなく、スタークの都合で自分の人生を決められ、上手くいかなければ何をされるかわからない。
(これで婚約者だなんて……。私のことを大切にしないし、私が聖女になっても利用するだけよね。聖女になったから大切にするとは思えないし)
疑問は考えても解消できず、将来への希望もなく、考えれば考えるほど現状の理不尽さが身に沁み、それらは全てスタークの責任であり、スタークへの恨みへとなった。
(こんな気持ちを抱く私が聖女に選ばれるはずがないわ。でもこうなったのはスターク様のせいだもの。スターク様の思い通りにはならなさそうね)
自分だけ不幸になることが許せず、どうせ聖女に選ばれなければスタークにとっても不幸な結末を迎えることになる。
自分だけが不幸ではないと考えるとソーニャの気持ちは少しは晴れるというもの。
(こんな自分なんて嫌。でもどうにもならない……。どうすればいいの?)
ソーニャの悩める日々は続いた。
結局ソーニャの能力はそれほどでもないまま、聖女が選ばれる日になった。
(きっと私は選ばれないわ。自分でも能力がないことは理解しているもの。それに心だって……。でも……スターク様がどう反応するかが怖い……)
万が一ソーニャが聖女に選ばれれば脳裏をよぎる不安は払しょくされるが、そのような幸運が舞い降りるとは考えられず、むしろこのような人生を歩むことになってしまったことが不運だと思えてしまった。
それも全てはスタークが元凶であり、何度考えてもスタークのせいだという結論に達する。
スタークと出会ってしまったことが最大の不運だった。
不運を嘆くソーニャに追い討ちをかけるように、聖女として選ばれた者の名が告げられた。
もちろんソーニャではなかった。
(わかっていたけど……これからどうなるのかが不安。私、どうなるの?)
不安というよりも絶望し、それでもソーニャはスタークに報告しなくてはならない。
重い足取りでソーニャはスタークの待つクーリッジ男爵邸へと向かった。
そこで待っていたのはスタークの落胆だった。
聖女の才能があると認められた者は集められ、指導を受け切磋琢磨し、その中でも優秀な人が聖女に選ばれる仕組みだ。
(みんなすごいのね。私が聖女に選ばれるなんてあるの?)
否応なく他の人と比べられてしまい、ソーニャは自分の才能が秀でていないことを理解した。
(でも聖女になれないとスターク様が何をするかわからないし……。親にまで迷惑をかけることになるかも……)
あのスタークのことだから不安になるのも当然であり、幸せになっていると思っているであろう両親のことを考えると、絶対に聖女になってスタークに愛されなくては、とソーニャは決意を新たにした。
どれだけ決意しようが現実は残酷だった。
他に優秀な人が何人もいるのだからソーニャが聖女に選ばれる可能性は極めて低く、それでも諦めるわけにはいかず、ソーニャは必死に努力し続けた。
それでも成果が出ずに時間ばかりが過ぎていく。
何よりも苦痛だったのが、たまにスタークが面会にやってくることだった。
家族や婚約者は面会が認められており、王子や貴族も面会にやってきていた。
それは他の聖女候補は偉い身分の人もいるということだ。
聖女に選ばれるかは出自と関係ないとはいえ、平民の、しかも農民の娘でしかないソーニャには生まれながらに負けているように感じられてしまった。
「何のためにお前と婚約したのか理解しているよな? いいか、絶対に聖女になるんだぞ」
「はい」
外聞を気にするスタークなので、この場では強い感情を見せるようなことはないが、ソーニャにとっては十分な脅しだった。
どうにか取り繕うが、本心では無理だと思っており、ますます希望も元気も失うこととなった。
(私、どうすればいいの? このままだとスターク様の望んだようにはならないし、そうなったら私だってどうなるかわからない……)
ソーニャにとっては悩みの種であり、どう考えても解決策は見つからなかった。
自分が望んだわけではなく、スタークの都合で自分の人生を決められ、上手くいかなければ何をされるかわからない。
(これで婚約者だなんて……。私のことを大切にしないし、私が聖女になっても利用するだけよね。聖女になったから大切にするとは思えないし)
疑問は考えても解消できず、将来への希望もなく、考えれば考えるほど現状の理不尽さが身に沁み、それらは全てスタークの責任であり、スタークへの恨みへとなった。
(こんな気持ちを抱く私が聖女に選ばれるはずがないわ。でもこうなったのはスターク様のせいだもの。スターク様の思い通りにはならなさそうね)
自分だけ不幸になることが許せず、どうせ聖女に選ばれなければスタークにとっても不幸な結末を迎えることになる。
自分だけが不幸ではないと考えるとソーニャの気持ちは少しは晴れるというもの。
(こんな自分なんて嫌。でもどうにもならない……。どうすればいいの?)
ソーニャの悩める日々は続いた。
結局ソーニャの能力はそれほどでもないまま、聖女が選ばれる日になった。
(きっと私は選ばれないわ。自分でも能力がないことは理解しているもの。それに心だって……。でも……スターク様がどう反応するかが怖い……)
万が一ソーニャが聖女に選ばれれば脳裏をよぎる不安は払しょくされるが、そのような幸運が舞い降りるとは考えられず、むしろこのような人生を歩むことになってしまったことが不運だと思えてしまった。
それも全てはスタークが元凶であり、何度考えてもスタークのせいだという結論に達する。
スタークと出会ってしまったことが最大の不運だった。
不運を嘆くソーニャに追い討ちをかけるように、聖女として選ばれた者の名が告げられた。
もちろんソーニャではなかった。
(わかっていたけど……これからどうなるのかが不安。私、どうなるの?)
不安というよりも絶望し、それでもソーニャはスタークに報告しなくてはならない。
重い足取りでソーニャはスタークの待つクーリッジ男爵邸へと向かった。
そこで待っていたのはスタークの落胆だった。
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