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「オリビア、訊きたいことがある」

ウィルキンス侯爵令息ウェスリーは婚約者のオリビアに、まるで犯罪者に尋問するかのように告げた。

「どうしたの? そんな怖い顔して……」
「うるさい! それよりも俺を謀ろうとしたな! お前の嘘はもう明らかとなった!」
「嘘って……そんなこと、私はついていないわ」
「しらばっくれるのか? さすが嘘付きだけあるな」

ウェスリーが決めつけている以上、オリビアが何を言おうと無駄であるが、反論しなければ認めたと言いがかりをつけられそうなため、オリビアも無駄を承知で反論することにした。

「嘘付きって侮辱よ。婚約者だからって失礼だとは思わないの?」
「その婚約自体が謀だったんだ。知っていれば婚約なんてしなかった」
「謀ってなんかいないわよ。どうしてそう思ったの?」
「はぁ……。往生際が悪すぎるぞ。まさか本当に悪いことをしたとは思っていないのか? それがオリビアの本性なのか……」
「勝手に決めつけないでよ。ウェスリー様がそんな態度なら私にも考えがあるわよ」

ウェスリーの横暴な態度にオリビアも我慢の限界を迎え、こうなった以上、婚約破棄も止む無しと考え、どうなっても構わないという覚悟で反撃に出る。

オリビアはオルブライト公爵家の令嬢であり、ウェスリーはウィルキンス侯爵家の令息。
家の力関係ではウェスリーのほうが弱いというのに強気の姿勢を崩さず、冷静な判断ができていないことは明らかであり、だからといって侮辱を許してはオルブライト公爵家の名誉の問題にも関わるため許すことはできなかった。

「どういった考えがあるというのかな?」
「ウェスリー様の言葉はオルブライト公爵家への侮辱よ。このようなことが明るみになればウェスリー様とはいえ罪を問われるかもしれないわ」
「ふん、結局オルブライト公爵家の威を借りるだけなのだな」

オルブライト公爵家を侮るウェスリーの態度は見過ごせるものではなく、オリビアは何を言おうがウェスリーには伝わらないという思いを再度確認することとなった。

「……そこまで侮辱されて許されるとは思わないで」
「強気だな。だがその強気、いつまで続くかな?」
「それはウェスリーのほうよ。とにかくこんなに侮辱された以上、もう私との婚約関係はどうなっても構わないのよね?」
「もちろんだとも。そのためにわざわざ告げに来てやったのだからな」

ウェスリーは深く呼吸し気分を落ち着ける。
わざとらしい振る舞いにオリビアは呆れつつも見守り、きっと婚約破棄を告げるのだろうと考えた。

ウェスリーはオリビアに指を差し、昨日から何度もイメージトレーニングしていた通りに伝える。

「オリビア・オルブライト! オルブライト公爵の本当の娘ではないことは知っているぞ! よくも騙してくれたな! 本当の娘ではないことを隠して俺と婚約するとは許されない裏切りだ! よって婚約を破棄する!」

そこまで言われてオリビアはウェスリーが何を理由に嘘付き呼ばわりしたのか理解に至った。

(確かに積極的に広めていないけど私はオルブライト公爵の実の娘ではないわ。でも調べればわかることだし、ウィルキンス侯爵へお義父さまが伝えていたはずだからご存じのはずよね? そうでなければ婚約が認められるはずないじゃない)

理由を知ったとはいえ新たな疑問が生じたオリビアは考え込み、それを反論の言葉が思いつかないとウェスリーは都合良く解釈し、勝利を確信し追い討ちをかける。

「どうだ、俺を騙そうとしても無駄だったということだ。大人しく婚約破棄を受け入れろ。まあオリビアの有責で破棄するのだから受け入れようが受け入れまいが婚約関係は終わりだがな」
「……安心して。こうなった以上、婚約関係は解消されるわ」
「解消? そんな生温いことを言うな。オリビアの有責で俺から破棄したんだ。そのことは忘れるなよ?」
「……わかったわよ。ウェスリー様も自分の行為を忘れないでね」
「ふん、口だけは相変わらずだな」

ウェスリーは言うだけ言って満足し、もう用事は済んだと去っていった。

「大変なことになりそうね」

オリビアはウェスリーの行為が大問題に発展しそうな予感を覚えた。
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