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休戦することを前提に話し合いが持たれたが、無条件で休戦するはずがなく、とある要求がキングズリーに突き付けられた。

「クローディアを人質として差し出すことが休戦の条件だと?」
「はい」
「それだけか?」
「はい、そうです」

一国の王妃を差し出すことがどれだけ屈辱的なのかキングズリーは考えもしなかった。
キングズリーにとってはそれだけのことでしかなく、他の条件がないことを訝しんだくらいだ。

正当な理由で邪魔なクローディアを排除できるのだから、他に条件がないのであれば要求を呑むことはキングズリーにとってメリットが大きい。

「よし、受け入れることにしよう」
「では条件を書面に認めて両者の調印となります。御足労ですが陛下もトランブル子爵領まで赴いて署名していただくことになります」
「仕方がないな。細かいところは任せる」
「はっ」

王妃を売り渡すようなキングズリーの態度に今さら驚くような文官ではなかった。
同時にキングズリーの無能さを痛感し、もう先が長くないだろうと思った。





休戦すると決まったため、キングズリーはメラニーを喜ばせようと真っ先に伝えた。

「休戦することで決まりそうだ。まだ調印が済んでいないが、ほぼ決定だろう」
「これでトランブル子爵領も還ってくるのね?」
「ああ、もう大丈夫だ」
「ありがとう、キングズリー様。頼りになるわ」

ストレートに感謝されれば悪い気はせず、気を良くしたキングズリーは一つの提案を思いついた。

「そうだ、調印はトランブル子爵領で行われることになる。メラニーも一緒に行くか?」
「いいの!? 行くわ!」

喜ぶメラニーを見てキングズリーは一つ思い出した。

「そういえば休戦の条件としてクローディアを人質として差し出すよう求められたな」
「本当なの!? やっと追い出せるのね」
「ああ、そうなるな。そうなるとメラニーが正妃になるな」
「クローディアとは離縁しなくていいの? そうしないと私が正妃になれないじゃない」
「クローディアを人質として差し出すよう求められたが正妃であるままとは求められていない。つまり離縁しようが問題ないということだ。速やかに離縁しよう」
「さすがキングズリー様! 天才ね!」
「ははは、まあそれほどでもないがな」

こうしてクローディアの与り知らぬところで離縁が決まった。





キングズリーから呼び出されたクローディアはどういった用なのか予想した。

(人質として差し出すことが決まったと勝ち誇るかしら? もしかしたらメラニーもいるかも)

クローディアの予想は外れ、待っていたのはキングズリーだけだった。
キングズリーは余計な会話をせず、用件を伝える。

「クローディア、知っていると思うが隣国から攻め込まれた。だが交渉により休戦することが決まった。そこでだ、クローディアには人質として隣国へ行ってもらうことになった。そうなった以上、もう離縁するしかない。いいな?」
「はい、構いません」
「身柄を引き渡す以上、逃げられてはかなわん。しばらく監視を付けるが諦めてくれ。これも国のためだ。そのための正妃だろう?」
「はい、異論はありません」

抵抗されることもなく受け入れたことでキングズリーは気分を良くした。

(離縁したら正妃ではなくなるのに。でも問題ないのでしょうね。それに人質として差し出されるなら国がどうなろうとも私にはどうすることもできないわ)

クローディアはキングズリーの見込みが甘すぎるように感じたが、あえて指摘することはなかった。
どうせ言ったところで無駄だろうという経験に基づく諦めもあったが、せっかく離縁されるのに下手なことを言って撤回されるような事態は避けたかったという理由もある。
最大の理由はまた別のものだったのだが。

とにかく、こうしてクローディアの処遇も決まった。

監視付きの不自由な生活は短い間だけで済み、クローディアは連行されるようにキングズリーとメラニーに同行しトランブル子爵領へと向かった。
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