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王宮で夜会が開かれ、気乗りしなかったが正妃であるクローディアは立場上参加しなくてはならなかった。

(どうせ私を貶めて見世物にするつもりでしょうけどね)

同じ経験は何度もしており、成長しないメラニーとキングズリーが同じ振る舞いを繰り返すことは想像に容易かった。

その考えは間違っていなかった。
貴族たちが参加する夜会にあって一番目立つのは王であるキングズリーだ。
しかもメラニーにしなだれかかられ甘えられるキングズリーの姿があり、当然クローディアのことは放置である。

(わかっていたけど、このような姿を見た貴族はどう思うのかしら?)

真っ当で何ら問題のない立派な正妃ではなく、娼婦を思い起こされるような品も礼儀もない頭が空っぽのような側妃を寵愛する国王。
これでも有能な国王であれば色を好もうが受け入れられただろうが、キングズリーは絵に描いたような無能でメラニーに夢中になり望まれるがままに散財する言いなりでしかなかった。
どう考えてもこのような国王を尊敬できるはずがない。

痴態を存分に見せつけたところでメラニーがクローディアに近づき、貴族たちもこれから始まるであろうことに注目する。

「まあ、随分と質素なドレスなのね。貧相でみすぼらしくて恥ずかしくないの? それとも愛されない立場を自覚して遠慮してくれたの?」
「わたくしはこのドレスを気に入っているの。この価値がわからないのかしら?」
「わからないわ。そんなのじゃキングズリー陛下が喜ばれないもの。それにこの場に相応しいと思ってるの? 必要なのは華やかさよ! この私のように、このドレスのように!」

メラニーは芝居がかった動作にポーズを決めたが、自分の品性のなさをアピールしただけであり、唯一喜んだのはキングズリーだけだ。

クローディアのドレスは控えめで地味に見えたが、職人の技が光る素晴らしい仕立てのものであり、目聡い貴族たちが理解できないはずがない。
メラニーのような煽情的なドレスとは一線を画す、上品で洗練された美しさを持つドレスはクローディアの気品と美しさを引き出すものだ。
価値を理解できないメラニーもキングズリーも貴族たちからの評価を下げるだけだった。

周囲の空気に違和感を覚えたキングズリーはメラニーを擁護すべく二人の争いに加わることにした。

「メラニーの美しさに嫉妬するとは醜いな」
「嫉妬ですか? そのようなことはありません」
「ならばどうしてメラニーのドレスを貶めるようなことを言うのだ?」

なぜかドレスを貶められたクローディアのほうがメラニーのドレスを貶めた加害者になっており、クローディアも周囲の貴族も度肝を抜かれた。

「……申し訳ありません、おっしゃる意味が理解できません」
「……クローディアが理解できるとは思っていない。だがメラニーの美しさに嫉妬するのはやめてくれ。正妃としてみっともないではないか」
「……はい」

何を言っても無駄だと理解したクローディアは本心ではないが場を収めるための言葉を選んだ。
そのような意図がキングズリーやメラニーに伝わるはずもなく、二人はクローディアを言い負かしたことで得意気な表情を浮かべた。

「つまらないことで興が削がれてしまった。だがもう問題は決着がついた。さあ、再びパーティーを楽しもうではないか」

空気を読んだ貴族たちは賛同の声を上げる。
本心からそう振る舞っている貴族は皆無で、このような痴態を見せられ、いよいよキングズリーも救いようがないと見限ることになった。

知らないのはキングズリーとメラニーだけだ。
心の中で何を思っていようが表面的に従っているように見えればそれで満足だった。

(余裕でいられるのも今だけよ。そろそろ兄様が動いた成果が出るはず。最後にこれくらいの思い出を残させてあげてもいいわよね)

破滅へ向かって進んでいることを知らない哀れな二人のために、クローディアは悔しそうで悲しそうな表情を浮かべることにした。

その表情を見たメラニーは勝利を確信し負け犬を嘲笑うかのような醜い笑みを浮かべた。
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