1 / 7
1.
しおりを挟む
(まるで娼婦みたい。煽情的で下品ね。メラニーにはよく似合っているわ)
メラニーはクローディアに見せつけるようにくるりと一回転し、真っ赤なドレスを靡かせる。
ここは王宮だというのにメラニーのドレスは大胆に胸元が開いた品位に欠けるデザインで場違いもいいところだ。
しかも首元にはクローディアの見覚えのない大きなダイヤモンドのネックレスがある。
「どうかしら? このドレス、国王陛下が私のために選んでくださったのよ」
「とてもお似合いね。メラニー様に、よく似合っているわ」
勝ち誇るように言い放つメラニーに心荒立てることなく、下品なドレスは下品な貴女にお似合いだという皮肉を込めてクローディアは言った。
しかしそれが通じるようなメラニーではなく、言葉通りに受け止めた。
「そうでしょう? 国王陛下からの愛が伝わってくるようだわ。今夜も愛されてしまうかもしれないわ。困ってしまうわ」
正妃である自分よりも側妃でしかないメラニーを明らかに優遇していることはクローディアも自覚している。
自覚というよりも半ば諦め国王を見限っているほうが正しいかもしれない。
どうして正妃を蔑ろにし側妃に入れ込むのか、クローディアには国王の考えが理解できなかった。
メラニーに勝ち誇られようが悔しくもなく、特に反応するようなことでもなかった。
メラニーは期待していた反応を見せないクローディアにさらに屈辱を味わわせようとする。
「本当に愛されているのは私のほうなの。クローディア様とは政略により仕方なく結婚したのでしょうね。ああ、可哀そうな国王陛下。私が慰めて差し上げないと」
「そうね、是非ともそうして差し上げて」
「ふふん、自分の立場を理解したようね? クローディア様は邪魔だから大人しくしていてくださいね?」
まともに相手にされていないことに気付かないメラニーは得意気だ。
ささやかなマウントを取れたことで用は済んだとばかりにメラニーは去っていく。
(国王陛下にも困ったものよね……)
クローディアは心の中でため息をついた。
クローディアはマクファーレン公爵家の令嬢であり、王命により王太子だったキングズリーと婚約させられることになった。
それが公爵令嬢としての宿命だと理解しようとしたクローディアだったが、実は心の中では密かに想いを寄せる人物がいた。
そのような想いを抱いても苦しむことになるだけだと考えたクローディアは誰にも明かさずに自分の胸の内にしまっておくことにした。
そうして望まぬ婚約をし、順当に王太子妃となり、予想外の王の崩御により急遽キングズリーが王位に就き、クローディアが王妃となったのだ。
王位に就いたキングズリーはクローディアに言った。
「側妃を娶る。トランブル子爵令嬢メラニーだ」
「お待ちください、キングズリー様。側妃を娶ること自体に反対はしませんが、さすがに子爵家では力不足だと思います。特に今は国内の安定を第一に考えるべきではありませんか?」
「王の意思に逆らうというのか?」
「いえ……」
「ならば決定だ。だがクローディアの不安も理解できる。メラニーやトランブル子爵に足りない力をお前は持ち合わせているではないか。足りない分を補えばいい」
「……はい」
「そういった実務面では期待しているぞ。それがクローディア、お前の担当だ。俺の愛はメラニーだけで十分だ」
「……はい」
クローディアの胸中は不安ばかりだった。
自分が愛されないのは今までのキングズリーの態度から納得できるものがあったが、あくまでもそれは個人的な問題でしかなかった。
それよりも重要なものは王や王妃としての立場であり、国を安定させることだった。
それなのに側妃を娶り、しかも力のないトランブル子爵家から迎えるとあっては他の貴族家がどう思うか。
少なくとも好意的に受け止めることがないだろう。
クローディアはそれを危惧していたが、キングズリーは全く気にしていなかった。
側妃に迎えられたメラニーが調子に乗り、正妃であるクローディアを敵視し、事あるごとに突っかかるようになった。
このままでは示しがつかないと考えたクローディアはメラニーを諫めたが全くの無駄であり、期待できないがキングズリーに対処してもらうしかないと考えた。
「何の用だ? 俺はお前のために使う時間はないんだぞ?」
「申し訳ありません、キングズリー様。ですがこのままメラニー様の増長をお許しになられるのですか?」
「醜い嫉妬だな。それが何か問題あるのか?」
「正妃であるわたくしを蔑ろにしてキングズリー様は何とも思われないのですか?」
「それが嫉妬だと言うのだ。だから俺に愛されないことが理解できないのか? 少しはメラニーを見習ったらどうだ?」
「……わかりました」
「そうだ、そういった殊勝な態度を取ればいいんだ」
メラニーのような人間をのさばらせておけば国が亡ぶ事態に発展するかもしれない。
だが国王であるキングズリーがメラニーを見習えと言ったのだ。
クローディアは決意する。
(悪女と呼ばれても構わないわ。キングズリー様が望まれたのだし、わたくしやマクファーレン公爵家を蔑ろにしたことを後悔させてあげるわ。メラニーにもね。そして……)
メラニーはクローディアに見せつけるようにくるりと一回転し、真っ赤なドレスを靡かせる。
ここは王宮だというのにメラニーのドレスは大胆に胸元が開いた品位に欠けるデザインで場違いもいいところだ。
しかも首元にはクローディアの見覚えのない大きなダイヤモンドのネックレスがある。
「どうかしら? このドレス、国王陛下が私のために選んでくださったのよ」
「とてもお似合いね。メラニー様に、よく似合っているわ」
勝ち誇るように言い放つメラニーに心荒立てることなく、下品なドレスは下品な貴女にお似合いだという皮肉を込めてクローディアは言った。
しかしそれが通じるようなメラニーではなく、言葉通りに受け止めた。
「そうでしょう? 国王陛下からの愛が伝わってくるようだわ。今夜も愛されてしまうかもしれないわ。困ってしまうわ」
正妃である自分よりも側妃でしかないメラニーを明らかに優遇していることはクローディアも自覚している。
自覚というよりも半ば諦め国王を見限っているほうが正しいかもしれない。
どうして正妃を蔑ろにし側妃に入れ込むのか、クローディアには国王の考えが理解できなかった。
メラニーに勝ち誇られようが悔しくもなく、特に反応するようなことでもなかった。
メラニーは期待していた反応を見せないクローディアにさらに屈辱を味わわせようとする。
「本当に愛されているのは私のほうなの。クローディア様とは政略により仕方なく結婚したのでしょうね。ああ、可哀そうな国王陛下。私が慰めて差し上げないと」
「そうね、是非ともそうして差し上げて」
「ふふん、自分の立場を理解したようね? クローディア様は邪魔だから大人しくしていてくださいね?」
まともに相手にされていないことに気付かないメラニーは得意気だ。
ささやかなマウントを取れたことで用は済んだとばかりにメラニーは去っていく。
(国王陛下にも困ったものよね……)
クローディアは心の中でため息をついた。
クローディアはマクファーレン公爵家の令嬢であり、王命により王太子だったキングズリーと婚約させられることになった。
それが公爵令嬢としての宿命だと理解しようとしたクローディアだったが、実は心の中では密かに想いを寄せる人物がいた。
そのような想いを抱いても苦しむことになるだけだと考えたクローディアは誰にも明かさずに自分の胸の内にしまっておくことにした。
そうして望まぬ婚約をし、順当に王太子妃となり、予想外の王の崩御により急遽キングズリーが王位に就き、クローディアが王妃となったのだ。
王位に就いたキングズリーはクローディアに言った。
「側妃を娶る。トランブル子爵令嬢メラニーだ」
「お待ちください、キングズリー様。側妃を娶ること自体に反対はしませんが、さすがに子爵家では力不足だと思います。特に今は国内の安定を第一に考えるべきではありませんか?」
「王の意思に逆らうというのか?」
「いえ……」
「ならば決定だ。だがクローディアの不安も理解できる。メラニーやトランブル子爵に足りない力をお前は持ち合わせているではないか。足りない分を補えばいい」
「……はい」
「そういった実務面では期待しているぞ。それがクローディア、お前の担当だ。俺の愛はメラニーだけで十分だ」
「……はい」
クローディアの胸中は不安ばかりだった。
自分が愛されないのは今までのキングズリーの態度から納得できるものがあったが、あくまでもそれは個人的な問題でしかなかった。
それよりも重要なものは王や王妃としての立場であり、国を安定させることだった。
それなのに側妃を娶り、しかも力のないトランブル子爵家から迎えるとあっては他の貴族家がどう思うか。
少なくとも好意的に受け止めることがないだろう。
クローディアはそれを危惧していたが、キングズリーは全く気にしていなかった。
側妃に迎えられたメラニーが調子に乗り、正妃であるクローディアを敵視し、事あるごとに突っかかるようになった。
このままでは示しがつかないと考えたクローディアはメラニーを諫めたが全くの無駄であり、期待できないがキングズリーに対処してもらうしかないと考えた。
「何の用だ? 俺はお前のために使う時間はないんだぞ?」
「申し訳ありません、キングズリー様。ですがこのままメラニー様の増長をお許しになられるのですか?」
「醜い嫉妬だな。それが何か問題あるのか?」
「正妃であるわたくしを蔑ろにしてキングズリー様は何とも思われないのですか?」
「それが嫉妬だと言うのだ。だから俺に愛されないことが理解できないのか? 少しはメラニーを見習ったらどうだ?」
「……わかりました」
「そうだ、そういった殊勝な態度を取ればいいんだ」
メラニーのような人間をのさばらせておけば国が亡ぶ事態に発展するかもしれない。
だが国王であるキングズリーがメラニーを見習えと言ったのだ。
クローディアは決意する。
(悪女と呼ばれても構わないわ。キングズリー様が望まれたのだし、わたくしやマクファーレン公爵家を蔑ろにしたことを後悔させてあげるわ。メラニーにもね。そして……)
966
お気に入りに追加
817
あなたにおすすめの小説
(完結)私の夫を奪う姉
青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・
すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。
夫が大人しめの男爵令嬢と不倫していました
hana
恋愛
「ノア。お前とは離婚させてもらう」
パーティー会場で叫んだ夫アレンに、私は冷徹に言葉を返す。
「それはこちらのセリフです。あなたを只今から断罪致します」
幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。
ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」
夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。
──数年後。
ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。
「あなたの息の根は、わたしが止めます」
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
旦那様の不倫相手は幼馴染
ちゃむふー
恋愛
私の旦那様は素晴らしい方です。
政略結婚ではございますが、
結婚してから1年間、私にとても優しくしてくださいました。
結婚してすぐに高熱を出してしまい、数ヶ月は床に伏せってしまっていた私ですが、元気になったので、心配してくださった旦那様にお礼の品を自分で選びたく、城下町にお忍びで買い物へ出かけた所見てしまったのです。
旦那様と、旦那様の幼馴染のカレン様が腕を組んで歩いている所を、、、。
距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?
hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。
待ってましたッ! 喜んで!
なんなら物理的な距離でも良いですよ?
乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。
あれ? どうしてこうなった?
頑張って自身で断罪劇から逃げるつもりが自分の周りが強すぎてあっさり婚約は解消に?!
やった! 自由だと満喫するつもりが、隣りの家のお兄さんにあっさりつまずいて? でろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。
更新は原則朝8時で頑張りますが、不定期になりがちです。ご了承ください(*- -)(*_ _)ペコリ
注! サブタイトルに※マークはセンシティブな内容が含まれますご注意ください。
⚠取扱説明事項〜⚠
異世界を舞台にしたファンタジー要素の強い恋愛絡みのお話ですので、史実を元にした身分制度や身分による常識等をこの作品に期待されてもご期待には全く沿えませんので予めご了承ください。成分不足の場合は他の作者様の作品での補給を強くオススメします。
作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。
*゜+
途中モチベダウンを起こし、低迷しましたので感想は完結目途が付き次第返信させていただきます。ご了承ください。
皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。
9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ(*゚ー゚*)ノ
文字数が10万文字突破してしまいました(汗)
短編→長編に変更します(_ _)短編詐欺です申し訳ありませんッ(´;ω;`)ウッ…
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる