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(まるで娼婦みたい。煽情的で下品ね。メラニーにはよく似合っているわ)

メラニーはクローディアに見せつけるようにくるりと一回転し、真っ赤なドレスを靡かせる。
ここは王宮だというのにメラニーのドレスは大胆に胸元が開いた品位に欠けるデザインで場違いもいいところだ。
しかも首元にはクローディアの見覚えのない大きなダイヤモンドのネックレスがある。

「どうかしら? このドレス、国王陛下が私のために選んでくださったのよ」
「とてもお似合いね。メラニー様に、よく似合っているわ」

勝ち誇るように言い放つメラニーに心荒立てることなく、下品なドレスは下品な貴女にお似合いだという皮肉を込めてクローディアは言った。

しかしそれが通じるようなメラニーではなく、言葉通りに受け止めた。

「そうでしょう? 国王陛下からの愛が伝わってくるようだわ。今夜も愛されてしまうかもしれないわ。困ってしまうわ」

正妃である自分よりも側妃でしかないメラニーを明らかに優遇していることはクローディアも自覚している。
自覚というよりも半ば諦め国王を見限っているほうが正しいかもしれない。

どうして正妃を蔑ろにし側妃に入れ込むのか、クローディアには国王の考えが理解できなかった。

メラニーに勝ち誇られようが悔しくもなく、特に反応するようなことでもなかった。

メラニーは期待していた反応を見せないクローディアにさらに屈辱を味わわせようとする。

「本当に愛されているのは私のほうなの。クローディア様とは政略により仕方なく結婚したのでしょうね。ああ、可哀そうな国王陛下。私が慰めて差し上げないと」
「そうね、是非ともそうして差し上げて」
「ふふん、自分の立場を理解したようね? クローディア様は邪魔だから大人しくしていてくださいね?」

まともに相手にされていないことに気付かないメラニーは得意気だ。
ささやかなマウントを取れたことで用は済んだとばかりにメラニーは去っていく。

(国王陛下にも困ったものよね……)

クローディアは心の中でため息をついた。





クローディアはマクファーレン公爵家の令嬢であり、王命により王太子だったキングズリーと婚約させられることになった。
それが公爵令嬢としての宿命だと理解しようとしたクローディアだったが、実は心の中では密かに想いを寄せる人物がいた。
そのような想いを抱いても苦しむことになるだけだと考えたクローディアは誰にも明かさずに自分の胸の内にしまっておくことにした。

そうして望まぬ婚約をし、順当に王太子妃となり、予想外の王の崩御により急遽キングズリーが王位に就き、クローディアが王妃となったのだ。

王位に就いたキングズリーはクローディアに言った。

「側妃を娶る。トランブル子爵令嬢メラニーだ」
「お待ちください、キングズリー様。側妃を娶ること自体に反対はしませんが、さすがに子爵家では力不足だと思います。特に今は国内の安定を第一に考えるべきではありませんか?」
「王の意思に逆らうというのか?」
「いえ……」
「ならば決定だ。だがクローディアの不安も理解できる。メラニーやトランブル子爵に足りない力をお前は持ち合わせているではないか。足りない分を補えばいい」
「……はい」
「そういった実務面では期待しているぞ。それがクローディア、お前の担当だ。俺の愛はメラニーだけで十分だ」
「……はい」

クローディアの胸中は不安ばかりだった。
自分が愛されないのは今までのキングズリーの態度から納得できるものがあったが、あくまでもそれは個人的な問題でしかなかった。
それよりも重要なものは王や王妃としての立場であり、国を安定させることだった。

それなのに側妃を娶り、しかも力のないトランブル子爵家から迎えるとあっては他の貴族家がどう思うか。
少なくとも好意的に受け止めることがないだろう。
クローディアはそれを危惧していたが、キングズリーは全く気にしていなかった。





側妃に迎えられたメラニーが調子に乗り、正妃であるクローディアを敵視し、事あるごとに突っかかるようになった。

このままでは示しがつかないと考えたクローディアはメラニーを諫めたが全くの無駄であり、期待できないがキングズリーに対処してもらうしかないと考えた。

「何の用だ? 俺はお前のために使う時間はないんだぞ?」
「申し訳ありません、キングズリー様。ですがこのままメラニー様の増長をお許しになられるのですか?」
「醜い嫉妬だな。それが何か問題あるのか?」
「正妃であるわたくしを蔑ろにしてキングズリー様は何とも思われないのですか?」
「それが嫉妬だと言うのだ。だから俺に愛されないことが理解できないのか? 少しはメラニーを見習ったらどうだ?」
「……わかりました」
「そうだ、そういった殊勝な態度を取ればいいんだ」

メラニーのような人間をのさばらせておけば国が亡ぶ事態に発展するかもしれない。
だが国王であるキングズリーがメラニーを見習えと言ったのだ。
クローディアは決意する。

(悪女と呼ばれても構わないわ。キングズリー様が望まれたのだし、わたくしやマクファーレン公爵家を蔑ろにしたことを後悔させてあげるわ。メラニーにもね。そして……)
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