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■エピローグ
エピローグ(2)
しおりを挟む榊は依頼通り、瞬を大人にした。
瞬に射精を教え、後ろで受け入れる事も教えてやった。
それでも榊は後ろで受け入れるか否かは、瞬の判断に任せたつもりだった。
けして無理矢理教えるつもりはなかった。
だが、瞬がそれを望んでいた事は、施設にいた時から気付いていた榊だった。
瞬を後ろの刺激だけでドライで逝けるように躾けた時、瞬は後ろの孔で主人を受け入れることを拒んではいなかった。
むしろ器具や榊の指ではなく、もっと確かなものでそこを満たして欲しいと渇望しているように思えたのだった。
施設では時々他の子供が躾を受けている姿を目にする事がある。
その時、他の子供達は主人を後ろで迎え入れる為に様々な張型を埋め込まれていたり、時には躾役の陰茎を打ち込まれたりしている事が多かった。
本来モノが入るべき場所では無いところに襞をいっぱいに張り詰めながら受け入れている彼等に、苦悶の表情を浮かべている者は誰もいない。
それは部屋の外で躾を受け入れられる子供達は、既に後ろで主人を迎え入れる事こそが至福のものだと理解した段階の子供達だからだった。
躾士は子供達に主人を後ろで迎え入れる幸せを躾けているのだから、その子供達が後ろを突かれて気持ち良くなり、幸せそうな表情を浮かべているのは、ごく当然の事だった。
その至福の顔をしている子供達を目の当たりにした瞬が、彼等に憧れを抱いてもおかしい事ではない。
だが瞬の主人が望む子供は、彼らのような子供では無かった。
瞬には後ろで主人を迎え入れる躾は行われる予定も無かったし、例え他の刺激で感じてしまっても、射精して逝く事も許されてはいなかった。
勘のいい瞬は、そんな堂島の要望を必死に理解しようと努め、理不尽な躾にも健気に耐えてくれた。
だが、その瞬が時折見せる欲情と渇望を、榊は薄々気が付いていた。
それでもあえて気付かぬ振りをし続けたのだった。
榊だって本当はそれを榊自身の手によって躾けてやりたかった。
しかしそれは堂島が望まない限り叶わない。
提案しても却下され、代わりに尿道でも感じられ、そこでもドライで逝ける身体に躾ける事とすり替わってしまった。
それでも堂島が迎えに来ない瞬の寂しさが少しでも紛れればいいと、余計な事など考える余裕などない程に、徹底してドライで逝ける身体へと躾けてしまった。
それなのに結局、堂島は榊が手塩にかけて躾けた瞬の身体に触れる事すらなかったのかもしれなかった。
そうとしか思えないほど、瞬の身体は何もかもが手つかずで無垢なままだった。
その瞬も、ようやく大人にしてやる事が出来た。
この後の事は、瞬が自分が決める事で、榊がとやかく言える事ではない。
ただ、このまま瞬を一人にするのは偲びなかった。
せめて瞬の心が落ち着くまではここに置いてやり、独り立ちできるまでは見守っていてやりたいと思ってしまう。
もともと瞬は自分には何の価値も無く、誰からも望まれない存在だと思い込んでしまう節があった。
その不要な自分を唯一必要としてくれた堂島の為に天使であり続ける事に努めて来た瞬が、心の支えである堂島を失い、明日から自分の為だけに生きろと言われも、早急に変わる事は難しいだろう。
自暴自棄になり変なパトロンにでもつかれ、今まで榊が大事に躾けて来た瞬が、他人の手で変えられてしまう事にでもなれば、榊にはそれが何よりも耐えがたい事に思えた。
正直…堂島にさえその思いはあった。
例えそれが主人である堂島だとしても瞬が変えられてしまう事が本当は何よりも嫌だった。
それは躾士としてはあるまじき思想であり、コミュニティへの裏切りになる想いだった。
だから榊は瞬の躾を終えた後、施設を去り、それ以来いくら有栖川に頼まれようと誰の躾の依頼も受けなかった。
そうやってこの数年間、その想いを打ち消す事に必死だった。
だがこうして目の前に現れた瞬が、まだ誰のお手付きにもなっていない事実を知って、榊は嬉しいと不謹慎ながら思ってしまった。
そして何も手付かずの瞬が、いかに堂島から大切に育てられていたのかを、同時に思い知らされていた。
だからこそ瞬を一人にする心配事はそれだけに留まらないのだった。
瞬が一般常識のある善良な心の青年だという事は認める。
成人もしているし、頭も悪くは無い。
見た目も悪くない、悪いどころか瞬の穢れを知らないピュアな容姿は、ある嗜好者たちの庇護欲や欲情をそそるものだった。
それはそうなるように躾けた榊の作品として最上の結果だから仕方がない。
施設を出てから瞬は学校にも通わず、ずっと堂島の元で看護をしてきたと言っていた。
それはすなわち、堂島の庇護のもとでしか暮らしてはいなかった事を意味する。
所詮瞬は、外見と違わず、中身だって世間知らずの箱入りお坊ちゃまなのだった。
一番多感な頃を同じ年代の子供達と過ごす事無く生きてきた瞬が、突然生まれも育ちも違う人間の集団の中に放り出され、明日から一人で生きて行けと言われても、それは自殺行為に等しかった。
雑草のように生きぬいてきた榊と、家族から虐げられてきたとはいえ良家の子女として生まれ育ってきた瞬とでは雲泥の差がある。
最悪、孤独に苛まれ、誰にも気づかれず、そっとこの世から消えて無くなってしまおうなどと考えるようになってもおかしくは無い。
瞬が元気そうにしているのはまだ気が張っているのと、それが榊の手前だからに違いなかった。
一人になった時にこそ寂しさはどっと押し寄せてくる。
実際、ここに現れた時の瞬はびしょ濡れで、そこでひっそりと死を待つだけの傷ついた小動物のようだった。
その瞬が榊を確認した瞬間、安堵の表情を見せ、この手の中に全てを委ねてくれた。
そんな瞬をこのまま一人にはしたくなかった。
(つづく)
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