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第2章 制服と征服
コミュニティ
しおりを挟む古ぼけた写真に天使と一緒に写っている、かつて同じく少年だった頃の有栖川が目に入る。
有栖川だってこの中ではかなり美しい部類に入ると思う。
だがこの天使と呼ばれるこの少年と並ぶとただの顔のいい人間になってしまうのだった。
確かに天使と崇められた彼の存在は、神様からの預かりもののよううに、どこか尊いもののオーラがある。
そして天使の直ぐ近くで彼を崇拝し慈愛のこもった熱い視線を送る少年が、今回この天使の落とし子の躾けを依頼して来た堂島という男だった。
堂島一族というビルをいくつも持つ堂島グループの関係者らしい。
そしてその彼の養子に迎えられたという十一歳の少年が今回躾けを任された男の子だった。
名前を『瞬』と言った。
瞬は主人である堂島がかつて天使と愛し崇拝し奉っていた少年の生き写しの容姿をしていた。
榊も有栖川に写真を見せられた時、まだ若い有栖川の横で笑っている少年が瞬であるかと自分の目を疑う程だった。
その瞬によく似た少年こそ瞬の本当の父親であり元天使である。
俗世の女に引っかかったという下りを聞かされたせいか、写真がどこか色褪せて感じられるようにもなり、瞬の父親である元天使は榊にはもう輝いては見えなくなってしまっていた。
それに引き換え寂しげな視線を送って寄越す瞬の瞳に釘付けになる。
まさに瞬はその天使の遺伝子を受け継ぐ子供であり、今生の天使のように見えた。
彼の周りを優しい光のベールが包んでいるかのように光り輝いて見えるのだった。
確かにこの少年ならずっとそのままで、成長しないで欲しいと思う主人の気持ちも分からなくもない。
だがこの先急速に性に目覚める初める年頃の少年を、どこvまで貞淑に恥じらいを持った精神と身体に躾けて行くかは、かなり難しい事だと思う。
だから有栖川が一番信頼している榊に躾けを任せたのである。
有栖川の話だと、瞬の父親とこの施設を任せられている有栖川、それと瞬の主人である堂島はその昔ある同じ寄宿制の学校に入っていた同級生だという事だった。
そこは大変規律が厳格な学校で、一度入れば退学でもしない限り家に帰る事もままならない、極力外界からは閉ざされた生活が強いられるらしく、それと了承できる者だけが門を潜る事が許された。
だが入ろうと思っても門戸は狭く、試験に通るには成績だけでなく厳しく家柄も吟味される。
だからただ頭が良いだけでは入る事は叶わない。
今でも古き伝統を重んじる男子のみが入る事が許される寄宿制の学校として上流階級の人間の間では人気があり、毎年定員を割るような事にはならなかった。
あまり一般的に解放される事も無く、山の中という外界とは遮断されたその学院の中では、徹底的に縦社会の掟が子供達に自然と染み渡り、その中で生活しているうちに子供達には規律や自主性が育っていくのだった。
一般人には馴染みが薄く、国公立大学合格者を多く輩出している高校のランキングの上位に名を連ねる中で初めてその名を目にする者も少なくない。
昔ながらの日本男児を純正培養してくれる学校として時々噂にのぼる程度であり、規律が厳しく限られた者しか受け入れていない学院は、一般人には敷居が高く、興味本位で踏み込む事もままならない、例え出身者が身近にいようと彼らもそこで過ごした経験を軽々しくは語らず、より一層神秘性が高まるのであった。
その為、一般にはさほど知られてはいないが、不思議な神秘性のある伝統校として知る人ぞ知る存在であった。
そこは自分で身の回りの事が出来るような年頃の子供が入る初等部、しっかりと下の者の面倒が見られるようになった者が入る中等部、そして将来の事を視野に入れて積極的に動けるようになった者が入る高等部と三段階に別れて共同生活をしつつ、勉学に励むという、学校という名のもとに子供主体の統制が取れた縦横の社会が厳格に築かれていた。
実際そこのOBは政治家や財界人が多く、元々そういった家柄の者が代々そこに子息を入学させている事がうかがえた。
そして学院で築かれた独自の絆は深く、親子代々に及び社会に出た彼らは水面下で人知れず大きなコミュニティを形成していたのだった。
だがそんな学校絡みのコミュニティというものは、伝統のある学校には多かれ少なかれ結構普通にあるものだが、彼らの絆はその何処よりも深く濃く密接に絡み合っていた。
この子供を躾ける特別な施設の利用者の大半はそこのOBやその彼らが信頼を寄せる親交のある者に限られているようで、彼らは金銭的にも余裕があり、社会的にも優位な位置に属する人間ばかりだった。
この施設の運営母体も多分そのコミュニティが絡んでいるだろうと榊は想像していた。
榊はその学院出身ではないが、今の瞬のようにある主人に拾われてその人の養子になりここで躾られた。
だが榊の主人は榊が大学に行かせてもらっている時に、不慮の事故で先に亡くなってしまった。
また路頭に迷うのかと思っていたら、榊を躾けた有栖川にここの施設で躾士をしないかと誘われ、大学を卒業してからここに戻って来た口だった。
主人が生前、有栖川に自分に何かあった時には榊を頼むと遺言を残していたらしいのだった。
同じコミュニティに所属している目上の者の命令に有栖川は従ったのだろうと、この施設で働くようになった榊にも次第に彼らの上下関係の厳しさを理解するようになっていた。
身寄りの無い榊を引き取ってくれた主人には妻も子供も無かったが残してくれた財産は必要なものだけ受け取り、会社などの権利は辞退して会社は長年そこで働いてくれた人たちに任せて有栖川の誘いに乗り、この施設に躾ける側として戻って来た。
その際、看護士の資格を取ったのも、ここで躾けられる子供達に適切な知識を持って施術にあたりたかったからだった。
自分も子供の頃、ここで躾けられた時、優しくはしてもらっても、時に尿道炎になったり何か細菌に感染して熱を出す事もあった。
あの時の有栖川を責めるつもりはなかったが、大切な預かりものを躾けるのに役にたつと思う事は独学だろうといっぱい学んだ。
有栖川はそんな榊の事を買ってくれていたのかもしれなかった。
榊は有栖川達と同じ学院の出身者ではなかったが、この施設自体がその学院出身者で運営されているらしい事はなんとなく気付いていた。
そしてその学院出身者の絆は深く、その深い絆によって榊の主人の遺言通り有栖川は従ったまでの事だった。
彼らの独自の世界観の中で美少年の価値は絶対的なものでなくてはならないのであろう。
瞬の父親は在学中彼らによって大切に扱われ崇拝の対象として崇められる事はあってもけして穢してはいけないという紳士協定が引かれ、純血は守られていたらしい。
それなのに学院を出てまだまもない頃、瞬の父親はある女性と性交渉を交わしてしまった。
そしてその女性は瞬を身篭った。
数年後、瞬の父親の変わり果てた姿を目の当たりにした堂島は同じ学院の者に協力を願い出て瞬の父親である元天使の成れの果ての彼の会社を傾かせた。
そうして元天使はその子供を養子に差し出せば融資をしてやるとの堂島の誘惑にまんまと堕ちた。
そしてかつて天使と崇められていた男は昔の自分によく似た子供を生贄として差し出した。
自分とその今の生活を守る為に…
多分この時堂島は怒りに震えていただろうと思う。
だからその手で今生の天使を握り潰してしまわぬように、この施設を頼ったのではないかと榊は思う。
愛が深い故に憎しみが増す事もある。
だが瞬を見ているとこの今生の天使なら、いつか本当にこの堂島の心を癒し慈しむ存在になるだろうと思うのだった。
そう躾けるのが今回の榊の役目なのだった。
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