優しい時間

ときのはるか

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第2章 制服と征服

曖昧な時間の中で

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瞬がこの施設に入れられてからもう幾日が経ったであろうか。

その間、瞬は地下室の自分の部屋から一歩たりとも出る事は叶わなかった。

食事も排泄も入浴も全てこの部屋で事足りてしまう。

 朝目覚めると直ぐに膀胱の張り具合を確かめられ、それからおしっこを取られる。

朝はさすがにあの変な椅子に乗らなくてもベッドの上にいる状態で榊が取ってくれる。

尿道に管を入れられるツンとする痛みもだいぶ我慢する事が出来るようにもなって来た。
尿道カテーテルだったり、尿瓶だったり、その日の具合によって採尿方法は瞬の躾を請け負うチューターが決めて行われていたが、今日は榊の気まぐれなのか、瞬にそのどちらかを選ばせてくれるようだった。

だがやはりそこにトイレで一人でゆっくりさせて欲しいという選択肢はない。

「いっぱい溜まってますね」

瞬のお腹を触診している榊が指で瞬のおへその下をグイグイと揉んで来るとその出口を求めて尿道の先まで突き上げる尿意に身悶えそうになる。
震える陰経の先まで痺れるような感触が走るのだった。

「カテーテルと瓶に取られるのでは、瞬はどちらがいいですかね?」

「選んでいいの?」

施設に入れられてから何かを選ばせてもらえたのはこれが初めての事で瞬は一瞬固まってしまった。
自分の要望はここでは通らないとずっと言い聞かされていた。
全ては主人である瞬の養父の要望が優先され、その要望の元に選択権は榊が全て握っていた。

その生活にも慣れて来て自分に選択権を委ねられても一瞬何を言われているのかすら理解ができなかった。

だが榊の手にする物を見て瞬はやはり今は尿道カテーテルの方を選ぶべきなのだろうと思う。

多分榊が望むモノはカテーテルの方だろうと瞬にはなんとなく分かる。

本当は瓶の方がまだよかったのだが、そちらを選んで不正解だった時に結局はカテーテルを尿道に突っ込まれる方が悲しくなるので、だったら初めから痛い方を選ぶ事にした。

痛いのは途中で括約筋に引っかかるからだと榊に教えてもらった。
だからそこを緩めるコツさえ掴めば痛みは軽減すると言われて、ここ最近はカテーテルを入れての排尿がほとんどだった。

「いいですよ選んでください」

「じゃあこっち」

瞬が指指したのはキツイ方の尿道カテーテルだった。

「それは本心からですか?」

「違います。でも、最近ずっとそれだったから、あと少しで…痛いのもクリアできそうなので…だから」

榊は瞬の心をいつも見透かしているように思えた。
今もすぐにそれが瞬の本望じゃない事を見抜いてくれた。

「じゃあ朝は瓶の方にしましょう。カテーテルは午後の採尿の時にまた」

そう言って榊は瞬の股間に瓶をあてがう。
冷たいガラス瓶が瞬の下腹に当たってその一瞬の冷たさを感じて身が引き締まる。

「いいですよ。出してください」

榊は優しい時もある。

というか瞬が最初に受けた印象とはだいぶ違う人だという事が何となくわかって来た。

厳しい容貌に見えてしまうのはその硬いイメージの制服のせいで、上着と帽子を脱いだ榊の感じは少し無表情ではあるが目鼻立ちが上品に整ったかなりの美形であった。
上背は瞬を横に抱いても縦に抱いても遜色がなくかなりの長身である。
いつも瞬にあれこれ世話を焼いてくれる指先はよく手入れがされていて爪は短く切り揃えられ、瞬の肌をけして傷つける事はなかった。そして何よりその指は長く美しかった。

その指が瞬の排泄から何から嫌味を言うこともなく躾という名の下に、世話をしてくれる事を思うと瞬の胸はいつもどこか温かな気持ちになれる。
それが異常だろうと分かっていても、瞬にはそれが嫌ではなかった。
外の世界では周りにその血の繋がった者や同じ戸籍に入っている家族もいたけれど、その中でいつも瞬はひとりぼっちだった。

その時の寂しさを思えば、今自分が置かれている状況の方がずっと居心地がいいと思えた。
それに頑張れば頑張った事をいつも榊もまだ見ぬお父様も褒めてくれる。
直接ではないが榊からお父様が喜んでいたと伝えて貰えるだけでも嬉しかった。

だから瞬はこの狭い世界に閉じ込められても、正常な精神を失わずにいられたし、与えられる恥ずかしい試練だろうと頑張れるのだった。

おしっこを極限まで我慢させられたのは初日くらいのもので、おしっこに関してはあれから気絶するまで我慢したりはなかった。

榊が瞬の限界を理解しているようで危なくなるとそろそろ出したいですか?と聞いてくれるようになった。

それをもう少し頑張りますと言うと、どことなく榊が寂しい顔をしているようで、瞬は初めはあんなに頑張れと言ってくれた榊にどことなく矛盾を感じた。

だが幼い頃から周りの空気を読む癖がついていた瞬は、それからは無理に我慢しますとは答えなくなった。

そう答えて欲しい時はきっとまた榊がそう煽ってくれるだろうとどことなく察していた。

***

部屋では相変わらず服を着る事はなく、裸では心許なくて毛布を被っていると榊に取り上げられて、それを剥がれると逃げようがない。
瞬の長く短い一日の始まりだった。

そこで排尿やらバイタルチェックを受けて、それから瞬は歯磨きをして朝食を取らされる。

育ち盛りの子供用にしては量は少なめだったが、口に入れられる味のある物はなんでも嬉しかった。

だがこの部屋の中で運動らしい事と言ったら入浴と排泄くらいしかしていない瞬には、食事は必要最低限あれば事足りてしまう。

瞬は自分が眠っている間に施されている点滴の事は知らされてはいなかった。

足りない栄養素は皆点滴で補われていたし、その中には瞬のこれからの成長に関わる大事な薬も混ぜられていた。

それが今後どう作用するかは個人差があるが、オーナーの希望が少しでも長く可愛らしい少年のままでというものであれば、成長期になったとしてもそれが抑えられ背が伸びにくくなったり女の子のように身体の線に丸みを帯びたりもする。

瞬の場合はそれがどう作用するかはまだわからない。
だが多少可哀想ではあるが伸び盛りの瞬の身体はここを出るまではあまり大きくはならないだろう事が予想された。

その副作用を考えて食事はカロリーの低い煮物やおひたしなど年寄りが好むようなものが多かった。

男の子の成長は十代後半まで続くのだからここを出てからでも成長期が来てしまう場合もある。

榊の場合は一気に身長が伸びたのはもう十代も終わりに差し掛かった頃だった。

主人だってそれは重々理解している。それでも少しでも長く幼く可愛らしい容姿を楽しみたいと思う主人たちは悪あがきでもそう言った施術をオーダーに盛り込む者も多かった。

子供の愛らしさは媚びなどしなくても自然体でも十分に愛くるしいものがある。

その素直で従順な子供が自分だけに懐く様を優越感に浸りながら楽しむ事が主人たちの至福の時間となるのだった。


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