9 / 29
愛の印
赤ちゃんの卵・本編(2)ボディピアス
しおりを挟む雫は股間の痺れにしばらく悶絶してしまった。
悠の話では『たいした電流じゃないからその内に慣れるだろう』と他人事だと思って軽く言われていたが、そう簡単にそんなものは慣れるはずもない。
なんと言ってもこの電撃が何の前触れも無く突然来るのだった。
気持ちの準備が出来ていないところに、ギュッと絞られるような刺激が走る事もあれば、ビビビと刺すような微弱電流の時もあって、この刺激に慣れるまでは相当な時間が掛かりそうだった。
しかも今は夕飯時なのだから料理でもしていて火でも使っていたら怪我したっておかしくは無い。
とは言ってもオール電化のマンションだったから火は出にくい。
だが揚げ物をしていたら大火傷になるかもしれないし、それは怒ってもいいだろいと思う。
でもそれさえ今日のメニューを考えればまた何か言い包められそうでムカつく!
だが絶対に何か文句言ってやらないと気が済まない雫は、悠の帰宅までの間に怒りの熱が冷めないように、言ってやる台詞を頭の中で整理していた。
悠は普段あまり喋らないくせに、いざ口論になったら雫がぐうの音も返せなくほどにコテンパンにやり込められてしまう。
ディベートは悠の得意中の得意の分野だった。
いつかその悠をギャフンと言わせてやるのが雫の密かな願望だった。
まあ…それにも長い時間は必要だった。
雫はようやく痺れが収まった可愛い息子を確認すべくはいていたスエットごとボクサーパンツのゴムを引っ張り、自分の股間に着いているそのピアスをちらりと眺める。
亀頭裏側から尿道の中を通って雫のペニスの尖端にこじんまりと小ぶりなリング型のピアスが垂れ下がっていた。
それの側面には無駄に光り輝くダイヤモンドが一粒彩られている。
それがなんとも嫌味だった…
ダイヤを贈るならもっと気の利いたものにしろと心底思う。
「これじゃプラチナとダイヤモンドも無駄遣いだろ!馬鹿悠っ!」
心で思った言葉が思わず口をついて出てしまうくらいには憤慨していた。
その局部のボディピアスホールに関してはもう結構前に開けられたものだから、今更穴が痛むと言う事は特に無いが、それをまじまじと見るとやはりピアッシングされた日の事を思い出してしまう。
きっとその時の衝撃は、生涯忘れる事は無いと思うのだった。
そう思うと自分はたかだかまだ二十年とちょいしか生きていないのに激動の人生を送っているなとしみじみ思う。
誰かの自殺未遂を目の当たりににしたり、軽井沢に拉致監禁されて犯されたり、挙句にそれも忘れかけた頃、悠に騙されるようにそこにピアスを着けられたのだった。
しかも着けられた場所は誰もそんな所でピアッシングなどしているとは想像も付かない場所だった。
雫がそこに穴を開けられたのは確かに清潔で安全な場所ではあった。
だがそこは普段からピアッシングを専門にしている場所ではない。
でも人間一度や二度は誰もが多分行った事がある場所でもある。
別に病気でなくとも、今は美容の為に行く人だっていっぱいいるくらいで、緊張はするけれどそこにいかがわしさは微塵も感じられない場所でもあり、悠に『たまには歯石でも取ってもらおうか?そこって腕のいい先生なんだって。だから小さな虫歯くらいだったら見つけたらその場ですぐ直してくれるらしい。希望すれば無痛治療もしてくれる。それにそこの助手はかなりの美人らしくて、その助手に手足を押さえてもらいたくてやって来る馬鹿な奴もいるんだって。そこの予約を取るのも大変なんだけど、特別に時間外でよければ歯石も取ってくれてホワイトニングもしてくれるって言うんだ。だから行くだろ雫』と、そう言われてしまったら何の疑いも持たず了承してしまった雫だった。
雫だって痛くならない限りはそこに滅多に行こうとは思わなかったが、たまには何も不具合が無くとも行っておいた方がいい事は一応医学を志す学生の端くれとしては理解していた。
だから断る理由も無かったのだった。
…そうなのだった。
雫のペニスにピアスの穴を開けたのは腕のいい歯科医師だったのだ。
そしてその美人な助手というのは、雫もよく知っていた人物だった事には更に度肝を抜かれる事にもなるのだった。
***
悠とその歯科医師とはたまたまお互いに歯科学会の開かれていたホテルの会場で出会ったのだった。
悠は大学の教授の代理として…とは言っても悠は工学部の学生で歯科医師では無いし大学教授も勿論違う、ただ工学部というのは色々なものの開発に手広く携わっていて、この日はインプラントという人間の人口歯の話がメインだったが、それを作る技術を提供していたのが悠の研究室であり、そのオブザーバー的立場で学会にも顔を出すように言われて渋々ながらその会議のメモ代わりに参加していたのが悠だった。
その会場の片隅に自分と同じように学会よりも何か他の事でやきもきと端末を睨みつけイライラとしている美麗な男に目が行ってしまった。
ちょうどその時悠も退屈な学会よりも雫の携帯に仕込んだ盗聴器から聴こえて来る会話を探る事に没頭していたから、彼の行動も直ぐにそれと察しがついたらしい。
そして気付かれないよう興味深く彼を観察していたら、それが確信へと変わっていった。
彼が目にしていたその端末にはある人物の画像がチラッと映ってはまた画像が揺れて天井などどうでもいい画像に切り替わってしまうらしく、それに忌々しげに悪態をついているようなのだった。
その気持ちは悠にも手に取るように分かる。
悠もよくこうして雫の持ち物に隠しカメラを仕掛ける事があったが、大抵はあまり美味しい画像は送ってはよこさない。
それもそのはずだった。本人には内緒で仕掛けているのだから盗撮なのである。
だから写して欲しい方向をいつも都合がいい向きでは送っては来ない。
それにその画像を終始見ているほど自分も暇では無かった。
だから最近は時間も無いしほとんど無駄な事だと分かっていたから、こうして暇つぶしになる時くらいしか盗撮は行わないようになってしまった。
浮気の心配も今はほとんど無い事も確信していたし、盗聴するのはそれを心地いいBGMにするくらいで、時々雫が悠に聞かれているともいないとも関係なく、自分の事に悪態をついているのも知っていたが、それも今では可愛いものだと思えるくらいには自分も落ち着いていた。
だが隣に座っている男は明らかにその暇つぶしを今やきもきとしながらも楽しんでいるように見えてしまったのだった。
それを目の当たりにしたら、確かに学会は退屈過ぎて今こそその盗撮のし時だった事を思い知らされる。
悠は今まさに雫の会話を盗聴する事に甘んじていた自分がいかに時間を無駄にした事に気付き頭を抱えてしまいそうにもなっていた。
盗聴したって別に何の面白みも無く授業中らしいそれは、どうでもいい爺さんの声が遠くから聞こえるだけだった。
雫の声も聞こえないそんな退屈な盗聴なんかもうやめようかと思っている時だった。
一つ隣の席の彼から『チッ』という小さな舌打ちが聞こえて来たのだった。
前には誰も座っていなくて聞こえていたのは多分自分だけだった。
そんな彼の手に握られた端末が悠にもチラッとだけ目に入ってしまった。
確かにその画面に写っていた人は美人だった。
だが単に美人というだけでは無いと悠の直感がそう告げていた。
そう思うと悠はそれが気になって仕方なくなってしまった。
学会の席は自由だったから、興味の無い悠はその会場の一番目立たない後ろの隅に座るとその彼も一つ飛ばしたその席に座った。
そしてお互いに気づかれないように盗撮と盗聴をしていたのだった。
そんな彼に興味を持ったのも何かの縁なのだとも思う。
そしてなんとなくこの人ともっと話しをしてみたいと悠は思ってしまったのだった。
だから悠は学会が終わって早々に立ち去ろうとするその彼をつかまえて、この後少しだけ上のバーに行かないか?と誘ってしまった。
そんな風に誰かを求めてしまったのは雫以外で彼が初めての事だったかもしれない。
だがそれには彼も同じ気持ちになってくれたらしく、少しなら良いいと優しく答えてくれたのだった。
彼も悠が学会そっちのけで耳に忍ばせたイヤホンで何かをジッと聞いているのに気が付いていたのだった。
お互いに惹かれるものを感じてホテルのバーに向かうと、滅多に他人に心を開く事の無い彼らが珍しく意気投合してしまうのに時間はそうかからなかった。
強いお酒の力も入り、互いに今付き合っている恋人の話を聞かせ合ってしまう。
それは恋人自慢大会とも言えるが、周りは人影もなく、誰に聞かれる事もなく警戒心が強い二人も安心してその話を続けていた。
悠にもその歯科医師にも、だいたい初めからお互いの趣味が合う事は勘でわかり合っていたのだろう。
そしてそれは、お互いに付き合う相手が女性では無い事もだった。
悠は雫の為に作らせたアダルトアクセサリーの事を自慢げに話して聞かせ、相手も自分の恋人にあるものを着けさせている事を匂わせる。
そしてついにその写真まで悠に見せてくれたのだった。
それを見た悠がそれに感銘を受けた事は言うまでもなかった。
そして偶然は重なるもので、雫とその彼の恋人とも出会うべくして出会っていた。
それは悠と歯科医師とが懇意になる少し前の事だった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
【完結】浮気症の辺境王子に婚約破棄されたけれど、一途な中央国家の王子に好かれた話
西東友一
恋愛
トレンドを踏まえつつ、クラシカルな王道ストーリー。
「ざまぁ要素」もありますが、読み終わった後に清々しい気持になれる作品です。
主人公ラフィン・シャーロットは幸せを噛みしめながら走っていると、ひとりの男性にぶつかる。
その男性にプロポーズされたのろけ話を赤裸々に話をしてしまうが、その男性は嬉しそうに話をきいてくれた。
初対面にもそんな話をしてしまうくらい、人生の絶頂期を迎えていたシャーロットだったが、「一番君が好きだ」とプロポーズをしたはずのダイダム・ボッドは別の女性を正妻と迎え入れ、シャーロットを第三王子妃として迎えようとしていた・・・。
裏切られて傷ついたシャーロット。
そんな彼女の前にあの男が―――。
★★
とりあえず、1部完ということで終了します。
しおりを挟んでくださった方、すいません。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい
たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた
人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ
そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ
そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄
ナレーションに
『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』
その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ
社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう
腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄
暫くはほのぼのします
最終的には固定カプになります
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい
黒野マル
恋愛
幼馴染として13年、恋人として1年、友達として1年。
日比谷漣と七瀬莉愛は、生まれた時からずっと一緒だった。
だけど、中学2年のクリスマスに別れた後、二人は幼馴染でもなく、恋人でもなく、ただの友達関係になってしまう。
しかし、そんな中でも二人はずっと両想いで、ずっと互いを目で追っていて―――もどかしい時間だけが続いていた、ある日。
「わ、私。あんたと結婚する未来をずっと見てるんだけどどう思う?」
「………は?」
これは、両想いの思春期男女が結婚するまでの話。
※こちらの作品はカクヨムさんでも連載しております。
緑の乙女になりたくありません!!
さくらもち
恋愛
緑の乙女、それは植物に愛されている少女の事。
10年に1度交代で現れるのだが12~15歳の少女に発現し、10年間国の豊作を祈り続ける役目を担う。
歳頃の少女の中で緑魔法が使えるものは全て神殿に候補者として10歳の属性判定後に務めることが義務付けられている。
その候補者のひとりである子爵家の2女アンナ・クリフォードは実は前世の記憶を持っていた。
アンナはせっかく転生したのに記憶が戻ったのは属性判定の日でそのまま候補者として神殿に入り魔法のある世界を堪能出来ずモヤモヤしていた。
「あー、早く乙女が決まって解放されたい。乙女になったら22歳まで神殿に拘束とかないわー」一見するとフラグ立てまくりなこの考えがどうなるのか……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる