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愛の印
赤ちゃんの卵・本編(1)ボディピアス
しおりを挟む雫は簡単に出来上がってしまったオムレツとサラダを別々の皿に盛り付けてラップを掛けた。
スープはコンソメベースにベーコンと野菜の切れ端を無駄にしないように小さく刻んで入れ、牛乳を少量加え、さらりとしたポタージュにしてある。
悠は今晩も大学の研究室の手伝いに追われているようだった。
夕方に送ったメールに返信はまだ来ていない。
SNSは使わない彼は雫と独自のメールで繋がっていた。
ハッキングに堪能な悠らしく自分の個人情報は他人に知られたくは無いらしかった。
特に雫の事に対しては慎重だった。
高校時代にはあんなにあからさまに付き合っていたくせに、ここ最近ではまったくそれを周囲に悟られないように過ごしていた。
同じ学部ではないにせよ二人は同じ大学に通っている。
一応そこはこの国の中では権威のある国立の大学で、そこに入る為に何浪も費やしてようやく受かったという人も珍しくはない。
その大学に二人は揃って同じ高校から現役で合格を果たした。
それは悠にとっては大した事じゃ無くとも雫にとっては快挙だった。
まさか落ちこばれだった雫が現役で合格するとは自分だって信じられないのだから雫の周りの人間だって驚いた。
だがそれも悠が手取り足取り家庭教師をしてくれたお陰だという事は雫だって分かっていた。
二人は家庭キョとその生徒という関係だけではない。
今ではしっかりと同棲して付き合っている。
悠は工学部の大学院、雫は医学部に通う学生だった。
お互い学生生活も終盤に差し掛かり、悠は大学院の研究室の作業が忙しく、雫もそのほとんどを国家試験に向けてゼミだ実習だと走り回っていた。まずそんな二人が広い構内で出くわす事は皆無に等しかったが、それでもたまに奇跡的すれ違ったりする事もあった。
だがそんな奇跡のような出会いでも、お互いに目だけは確認程度に合わせるものの、言葉は交わさずまるで他人のようにスルーする…
男同士で付き合っているのだからそれはおおっぴらに言えない仲なのは分かっている。
リスクはあってもプラスになるような事は確かに少ない。
だが悠が雫を他人のように振る舞うには他に訳があった。
高校時代でさえ悠を青田買いしようとした企業があったくらいだった。
だがあの頃はそれでもまだ大学生になってから再びアプローチしても間に合うだろうという余裕が企業側にもあった。
しかし悠がその大学生になり企業間で悠を獲得しようとする動きは次第エスカレートしていった。
悠はどこに行くともまだ返事をしていないのに勝手にメンバーに組み込まれそうになったり、大学の教授にワイロを贈り言う事を聞かせようとしたり、就職課の人間を取り込み『悠がウチに来てくれれば来年からの内定枠を増やしてもいい』などと言って来る馬鹿な奴も後をたたなかった。
特に悠が大学院に入ってからの抗争は水面下で更に激化しているらしく、流石の悠も自分の身の危険を感じたりもしていた。
そんな悠に唯一の弱点があるとしたら、やはりそれは雫の事だった。
自分と懇意にしている事が彼らに感づかれたら、今度こそ雫の誘拐は…
ある面命に関わる事にもなりかねなかった。
そんな囚われの身に雫を二度とさせたくない。
そう思う悠は雫の身を案じ、わざとそう仕向けるように雫にも指示をして自分とは何の関わり合いもないていを装うように命じたのだった。
実際に雫が高校時代に三枝によって拉致軟禁されたのだって悠は自分に責任があると痛感していた。
あの時三枝に宣戦布告を仕掛けたのは自分だったのに、その雫が合宿から帰って来たあの日あの時、何故自分は学校に迎えに行かなかったのかと悔やんでも悔やみきれなかった。
雫は三枝に情けを掛けてしまった自分が悪かったと自分を責めていたが、雫がそういう情け深い事は自分が一番よく知っていたはずなのに、それを未然に防げなかった悔しさをもう二度と味わいたくはない。
だが悠は今自分がし続けている事は、自分だって三枝と同じだと思っていた。
雫は自分の孤独を感じ悠に同情し情けをかけてくれているからこそ、今もこうして一緒に居てくれている。
だが、その同情を利用してでも雫を離したくはない。
そんな自分の我儘でずっと雫を縛り付けているのだった。
雫は優しいから自分の家族より悠を選んでくれた。
その雫を自分の詰めの甘さからもう二度と他人に踏みにじられる事だけは何としてでも避けなければならない。
だからその危険性を少しでも減らす為に雫と悠が特別な関係である事は隠し通さなければならない。
次にもし雫が拉致監禁される時は、三枝のようにきちんと理由がある生温いものでは無い、ただ単に悠を獲得したいが為にそれに雫が利用されるだけだという事くらい容易く想像が付く。
悠の大切にしているものを楯にとってでも悠を独占したい輩はいっぱいいた。
それが一般的には優良な企業だけではなく、影では軍部と繋がっている腹黒いところだって含まれていた。
…勿論それは日本の企業だけではないのだった。
そんな事を雫に言ったところで、多分理解させるには難しい問題だった。
かと言って黙って納得する玉ではないのが白鳥雫という人間なのだった。
一見ひ弱そうに見えて意外と芯が強く一度や二度他人に凌辱を受けてもその心は折れなかった。
数々のトラウマを抱えつつも自分で何とか克服しようとする努力も惜しまない、そんな強い雫に悠は心が惹かれてやまなかった。
その雫の腕に抱き締められると、大嫌いだった自分の両親の事さえ多少は許せるようになってしまった。
両親の事はまったくすべてを許した訳ではなかったが、両親の選択が間違っていた訳じゃない事くらいは多少は理解出来る。
彼らが自分を作り産んでくれなければ雫に出会う事もなかった。
だから今は産んでくれた事だけは感謝出来るのだとその程度の事ではあるが、そのくらいの譲歩が出来るようになったというだけでも、昔の自分からは想像もつかない奇跡だった。
それと感謝をするなら、その能力を活かす為の教育を受けさせてくれた事もだった。
それでも悠は自分のDNAというものに不快感が無くなった訳ではない。
このDNAさえ無ければ、今のような状況にだってならなかっただろうと思う。
そう思うとそんな自分に付き合わせてしまっている雫には本当に申し訳無くも思う。
だがそれでも雫を手放せない以上は自分がそれを守るしかなかった。
どんな些細な危険性であれ悠の想像の範疇にあるものはすべて未然に排除しなければならない。
雫はなんでそこまでしなくてはならないのかとやはり簡単に説明したくらいでは納得してはくれなかった。
だが雫には三枝に拉致監禁されて身体を許してしまったという負い目がある。
そんな事悠はまったく気にもしていなかったし、むしろそうなった原因は自分にあるのに雫の負い目につけ込む事がやはり一番簡単で手っ取り早い。
だからそれを利用してしまう自分は残酷な人間だと思う。
「雫…。もう二度と他人に拉致監禁されて雫がどこにいるか分からないなんて事になったら困るんだ。分かるよね?」
…そう言えば簡単な事だった。
雫の身体には、どこにいても居場所がわかるように印も着けさせた。
それを耳の後ろや腕の内側なんてところに仕掛けるのは素人のやる事だった。
雫の印は、雫と裸の付き合いをする者かトイレで小便でも一緒に行ってそこをマジマジと観察しないとわからないところに着けさせた。
***
「いっ痛っ!何だよ急に」
雫は股間に走る微弱な電流にまだ慣れずそれが走ると思わず前屈みになってしまう。
その電流が流れたという事は悠がもうすぐ近くまで帰って来ているという事の知らせだった。
それも二人で決めた取り決めの一つで、いくらセキュリティの厳しい高層マンションのペントハウスで暮らしているとはいえ、住人や宅配を装って忍んでやって来る者だっているかもしれない。
指紋認証だって巧妙に細工をすれば突破できる事は悠にだって出来るのだから、それが他の者にも可能な事くらい容易に想像が出来る。
想像が出来る事は絶対に避けなければならない事だと雫にも厳しく言い渡し、二人でしか出来ない証明を作る事にした。
それが雫のペニスに着けさせたボディピアスだった。
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