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プロローグ

赤ちゃんの卵(プロローグ・7)

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 間が悪い事に三枝さんもそのパーティーへの招待状を悠に送っていたのだった。

 三枝さんはそこで悠に僕を返すつもりでいてくれたらしい。

 悠にとって自分のDNAを分けてくれた親の存在は、この世の中で最も憎むべき存在だった。

 その片われの父親に何かものを頼む事は屈辱的な事であったらしい。

 だけど結局は悠は自分の力でそのパーティーへの招待状をもぎ取ってしまった。

 確かに悠のお父さんが『息子が軽井沢のパーティーに顔を出したい』と言ってくれた事がきっかけだったかもしれないけれど、その企業は悠との関係をこれからも望んでいたからこそ悠をVIP待遇で迎え入れたのだった。

 あとで聞いた話だと悠はお父さんが務めていた大学の研究室と一緒にその企業の商品開発をしていたらしい。

『使い勝手のいい人間を早いうちに青田買いでもしたかったんだろう』と悠は言っていたけれど、それだってたかが一介の高校生に大人が取る対応ではなかった。
 悠が会場に入って来るなり企業のお偉いさんたちがワラワラと悠のもとに集まり、それはまるで主賓のような待遇だった。

 大学の研究室と企業がタイアップするのはよくある事だけど、そこに高校生の悠が加わっていた事実に僕も三枝さんも度肝を抜かれたけど、その待遇を目の当たりににしたら呆気に取られて言葉も出なくなった事は言うまでも無い。

 三枝さんはそんな悠との対面に一瞬臨戦態勢に入るかと思いきや、深々と頭を下げ、悠にきちんと謝ってくれたのだった。

 それには悠も呆気に取られていて、即座に反撃も出来なかった。

 悠だって三枝さんに二人の仲を見せ付ける為に、わざわざ一足早くホテルで再会した僕の後ろの孔にローターまで仕込んでいたくらいで、そうあっさりと三枝さんに謝られてしまっては、ローターまで仕込まれた僕は、ただただ居た堪れない気持ちになった…

 そんな悠との再会は、このパーティー会場ではなく、その少し前にホテルのロビーで果たされていたのだった。

 それは僕が三枝さんから返してもらった携帯の電源が入っていた事もすっかり忘れ放置していたのが原因だった。

 約束の前日、荷造りに夢中になっていた僕の部屋のどこかでその携帯の着信音が鳴り響いた。
 今更三枝さんに聞かれたところで慌てる必要もないのに反射的に僕は飛び上がり、三枝さんに聞かれやしないかとヒヤヒヤしながら思わずその通話を取ってしまった。

 だけど悠の声はまったく変わってはいなくて、やっぱり声を聞いた途端に涙が溢れて来てしまった。

 その悠の落ち着いた声にすっかり安堵してしまい、パーティーの前に会いたいと言われてついその約束を承諾してしまったのだった。

 三枝さんの別荘の中は電波が悪くてメールすら叶わなかったのに、その通話だけは繋がった奇跡に感動すら覚えてしてしまって安易にそんな約束を取り付けてしまった。

 その自分のあさはかさにまた落ち込むものの、三枝さんにおずおずと悠と約束をしてしまった事を話すと、反対されるどころかあっさりとそれを許してくれたのだった。

 三枝さんは僕との別れを決めていた。

 それを選ぶのは僕だとは言ってはいたけれど、僕が三枝さんを選ぶ訳もない事は始まる前から決まった事だった。

 だけどいざそれを相手から突き付けられると勝手なくせに少し寂しくもある自分の罪深さを痛感する。

 でもそれは明日になれば否が応でも悠に会えばはっきりしなければならない事だった。

 三枝さんに対する想いは恋でも愛でもない。

 でも一緒に過ごしているうちは確かに安心して身を任せていられる人ではあった。

 でもそれは僕のものでは無い。

 全ては吉澤さんとの未来の為に片付けておかなければならない問題だった…ただそれだけの事だと思う事にしていた。

 そして僕は三枝さんを一人別荘に残し一足先にホテルへと着き悠と再会した。

 勿論、悠は再会した途端に僕を抱いたのだった。

 まあそれも覚悟はしていた事ではあったけれど、悠の僕への執着ぶりは健在で、こう言うところは悠は子供っぽいというか、独占欲が強いというか、そういうところも嫌いじゃないけれど、三枝さんとこれから会うと言うのに悠は僕の後ろの孔にローターを埋め込んだのだった。

 今まさに生でやったばかりのそこには悠の放った精液がいっぱい取り残されていた。
 更にローションも相まって僕のそこは力を抜いたら、いつそれらがぬるっと溢れ落ちてもおかしくない状態だった。
 そこにローターを押し込まれていたのだから、ちょっとでも僕が咳込んだり、くしゃみをしただけでも大惨事は免れない。
 僕はそこを必死に引き締めながら三枝さんとの待ち合わせ場所に行かねばならなかった苦行は、今思い返しても顔から火が出る思いがする。

 三枝さんとの約束はパーティー会場で悠か三枝さんのどちらかを選ぶまでがその期限だった。

 だから悠と先に再会した後また悠とは別れて、僕は三枝さんと一緒に会場に入り、その後で悠が一人で会場に入って来て、そこで三人が対面する事になっていた。

 お互いに答えは出ているのに一応それがけじめだと三人とも思っていたらしく、僕も悠も三枝さんも、誰ももういいから会うのは辞めようとは言わなかった。

 だから悠もそんなものでわざわざ僕が自分の物だと三枝さんに主張しなくたってよかったのに、僕もそんな悠に抗う事は出来なかったのだから同罪だった。

 三枝さんはそれすら分かっていたらしく、僕をあっさりと悠に引き渡すと、潔く立ち去ってくれたのだった。

 それ以来、いまだに軽井沢は僕たちには禁断の地になっている。

 僕にはいい思い出も辛い思い出もいっぱいある土地だったけれど、悠にとっては鬼門のようなものだった。

 その事は事あるごとに言い争いのタネにはなっているけれど、僕たちは別に過去など関係ないと割り切っていた。

 今があるのもその過去があるからだと割り切れる。

 僕たちだってそれくらいの深い仲には成れているだろうと自負していた。



*****


(作者です)

長い前置きにお付き合いいただきありがとうございます。

ようやく長いトンネルを抜けました(笑)

ここからが多分本編に入れます(笑)

もともとこのお話には前があり、作者からツイッターに飛んでいただけるとブログがのっているのでそこで『僕の家庭教師さまー軽井沢編ー』というお話がありますので、もし三枝さんと雫のお話が読みたいと思う方はそちらを読んでください。

この赤ちゃんの卵は彼らが大学生になったお話です。

このお話だけでも読めるようにプロローグとして前置きを書かせていただきました。

では引き続き本編をお楽しみください。




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