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第一部 失業したおっさんがVRMMOで釣りをしていたら伯爵と呼ばれるようになった理由(わけ)

ゲーム過去編「謝罪」

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「誠に申し訳ありません。」
男は土下座した。
【焼き土下座】や【倍返し土下座】の土下座俳優に劣らぬ
素晴らしい土下座だった。
ここは、「眠れぬ教会」のギルドルーム。
サーラントをはじめ、ギルドルーム内にいる全員がドン引きした。
「あ、あのう、何のことでしょう?」
サーラントは困って話しかけた。

正式サービスが始まって、半年、教会も軌道に乗り始め、
今日は、ギルド「森の住人」との最初の顔合わせの日だった。
本来なら、「森の住人」のGMが来る所だが、男はGMでは無かった。

「今後、うちのギルドと教会さんが上手くやっていけるように、
 私個人が謝罪に参りました。」
「顔をあげてもらえませんか?」
男は、少し顔をあげて、理由を話した。
「実は私は、β時代にサーラントさんに「使えない」と暴言を
 吐いたものです。」
教会内のメンバーがざわつく。
眠れぬ教会のメンバーは、一度は必ず言われてる言葉だったから。
「そうでしたか、僧侶であれば一度や二度は言われることですし、
 β時代は、私も数えきれないくらい言われてて、誰に言われたか
 なんて覚えてません。だから、お気にせずに・・・。」
「いえ、そういうわけには、うちのギルドには、β時代の私のように
 偏見を持った人間は居りません。
 もし許して頂けるなら、私がギルドを辞めて、森の住人との取引を
 お願いしたい所存であります。」
取引とは、教会からの僧侶の派遣である。
僧侶は、冒険にお金がかかる。
MPの回復薬にほとんど費やさないといけない。
派遣された僧侶は、派遣費用からMP回復代を差し引いて残りは教会へ寄付する。
教会で貯まったお金は、新人育成のために使われるようになっている。
「それには、およびません。ぜひこのままGMさんを呼んで頂けますか?」
「わかりました。」
男は個人トークでGMを呼んだ。

「この度は、我がギルドのロッテルダムが大変失礼いたしました。
 私が「森の住人」のGM、ウィリアムです。」
土下座人間が二人になった。
「・・・。
 二人とも顔をあげてもらえませんか?」
土下座したまま、少しだけ顔をあげた。
「当ギルド、「眠れぬ教会」は、分け隔てなく僧侶を派遣したいと
 思ってます。中には僧侶を快く思ってない方もおりますが、
 必要とされる方には、出来る限りのことはしたいと思ってます。」

このゲームでは、蘇生魔法が存在しない。
簡単な回復魔法であれば、僧侶でなくても使えることができる。
それに回復薬も、あるので、僧侶が居なくても、そこそこの冒険は出来る。
正式版が開始されてから、僧侶無しパーティはザラだった。
そんな中でも、攻略ギルドと呼ばれる大手のギルドは、教会を支援した。
もちろんギルバルトやシンゲンの働きかけもあったが、それ以外の者たちも
率先して教会を支援した。
攻略ギルドの人間は、生粋のゲーマーである。
ゲーマーであれば、いずれ僧侶が必要になることは、必然だと思っているからだ。
何せ僧侶へのなり手が、圧倒的に少ないゲームだけあって、
「眠れぬ教会」の存在は貴重だった。

「森の住人」のように付き合いが無かった中堅ギルドとしては、
土下座してでも、関係を結びたいと思うのは、しょうがなかった。

「どうぞ、ロッテルダムさんもギルドを辞めることがないよう。
 今後、両ギルドが良好な関係が保てる事を私は望みます。」
サーラントの言葉にウィリアムは感激した。
「是非、よろしくお願いします。」
二人は、顔が埋まりこむんじゃないかというくらいの土下座をした。
この瞬間、土下座俳優を超えた存在となった・・・多分。

話し合いも無事終了し、「森の住人」の二人は自らのギルドへ帰った。
ギルドルームにつくと、ウィリアムは、ロッテルダムに話した。
「聞いていた感じと全然違うが?」
「サーラントさんか?」
「ああ、あの人こそ女神様だっ!」
ウィリアムの目は、完全にハートマークになっていた。
「おかしいなあ、β時代はもっとツンケンしてたような気が・・・。」
「お前が暴言を吐くからだろっ!」
「いや、まあそうなんだけど・・・。」
「よし、決めた!ギルド内にある木材を半分教会へ寄付する。」
「俺は、反対する立場にはないが・・・。」
【全部と言わないだけマシか】
ロッテルダムは、そう思った。
「まずは、俺以外の副GM二人にも話をして、ギルメンにも説明してから
 にしないと。」
「それぐらいわかってる。」

それから、しばらくして、「眠れぬ教会」に新たな謝罪者が現れた。
「魔術結社ヨルムンガンド GMのミズガルドと申します。
 サーラントさんには、以前、大変失礼なことを言って申し訳ありませんでした。」
「ええっと・・・」
何のことかわからずサーラントは困惑した。
覚えられてないミズガルドは、少しムカついた。
「ロッテルダムも謝罪に来たと聞きましたが?」
「ロッテルダムさんとお知合いですか?」
「本当に覚えていらっしゃらないんですね・・・。」
「・・・。」
「私は、あなたに「使えない」と言ったことを忘れた日はありません。
 ずっと心に引っ掛かり今日まで過ごしてきたというのに。」
その言葉にカチンと来た者が居た。
「あなた何が言いたいんですか?」
副GMの一人、ルビアが、わってはいってきた。
「私は謝罪にきたのですが?」
「謝罪?うちのGMに突っかかってるようにしか見えませんが?」
「そんなつもりは、毛頭ありません。」
「そうですか?まあいいでしょう。うちのGMも覚えてないと言ってます。
 謝罪は不要ですので、どうぞお帰りください。」
「ちょ、ちょっとルビアさん、どうしたんですか?」
普段と違って、強い口調のルビアに、サーラントはびっくりした。
「どうやらお気に障ったようですね。
 私も感情的になりすぎました。大変申し訳ありません。」
そういって、ミズガルドは深々と礼をした。
サーラントに向けて一度、そして、ギルメン全員に向けてもう一度。
「こちらこそ申し訳ありません。ルビアさんも、普段は温厚な人なんですが。」
「いえ、それは、お互い主義が違いますので、しょうがないのですよ。」
「主義ですか?」
ミズガルドの言葉に、サーラントは首を傾げた。
「私は、ベルファンですし、そちらのルビアさんは、ベルサラでしょ。
 お互い感情的になるのは、しかたありません。」
「???」
サーラントには、まったく意味がわからなかった。
「私も感情的になりすぎました。申し訳ありません。」
ルビアも素直に謝った。

「こんな事になった後で、申し上げにくいのですが、当ギルドとも取引を
お願いしたいのですが?」
「ご存じとは思いますが、当ギルドは、全員がベルサラの者です。
ヨルムンガンドさんは、魔女の集いとも呼ばれてて、
全員が女性で全員がベルファンだと聞いておりますが?」
ルビアが言った。
「全員が女性ということは、間違いありませんが、全員がベルファンでは、
 ありません。」
「まさか、ベルサラの人間も居ると?」
「ええ。個人の主義にまで、ギルドが口を出すつもりはありません。
 ギルド内でも揉め事が無いようにしておりますので、教会の方と揉める
 ような事にはならないかと。」
「そうあって欲しいとは思いますが?」
「私の事ですか?私は、サーラさんに覚えられてなかったので、
 拗ねてしまいました。GMとしては、まだまだ未熟な上、今後はこのような
 事がないように気を付けたいと思います。」
「いえ、こちらこそ、覚えておらず申し訳ありません。
しかし、ミズガルドさんとルビアさんの話が私には、
まったくわからないのですが・・・。」
「「どうぞ、サーラさんはお気にならさらずに」」

ヨルムンガンドとの話し合いも無事終了し、教会は、新たな取引先を得た。
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