上 下
34 / 39

Reいざ、旅立ちの時

しおりを挟む
前回の旅立ちの時と違い、今回は、町総出での見送りとなった。
「先生、お元気で。」
「先生、いつでも戻ってきてください。」
先生、先生と呼ばれ、さすがに鬱陶しいとアナスタシアは思っていたが、とりあえず愛想笑いをしていた。
レオースには、荷受けの仕事をしている親方たちが、見送りに来ていた。
「いつでも、戻って来いよ。」
そんな言葉が掛けられる。
「レオース、家の方は、あのままにしておくから。」
家主が言ってくれた。
「暫くは、リスキーさんが使うと思うので。」
レオースが言った。
「レダも帰って来るだろうしな。」
家主が言った。
「ちょっと待て、レダって誰だ?」
リスキーが聞いた。
「僕の幼馴染で、今、田舎に魔法の修行に帰ってます。」
「可愛いのか?」
「ちょっと、リスキー。レダに手を出したら、ぶっ殺すわよ。」
アナスタシアが言った。
「何でお前が、そんなことを言うんだ?」
「私にとって妹のようなものよ。私に、恩を売りたいなら手は出さない事ね。」
アナスタシアは、リスキーに忠告した。
「いや、待て、もう恩は売っただろ?」
「そんなもの一瞬で吹き飛ぶわよ。気を付けなさい。」
「わ、わかった。しかしまあ、俺も長居はする気はないからな。会うこともないだろう。」
「リスキー、毎日ピッツア・フレイを食べるのよ。」
フレイが言った。
「毎日食える訳なかろうがっ!」
フレイにも見送りが居た。
「フレイさん、元気でね。」
パン屋の女将さんだった。
「フレイさん、お元気で。」
ピザ屋が言った。
「ピッツア・フレイが世界一のピザになることを期待しておくわ。」
「・・・。」
目指すところが遥か遠すぎてピザ屋は何も言えなかった。
「まあ、私とレオースは、フレイを送り届けたら、一度戻ってくるから、そもそもこんな見送りは不要なのよ。」
アナスタシアが言った。
「この町には若者が少ないからな、皆、一度はこういう見送りをしたかったんだと。」
酒場のオヤジがぶっちゃけた。
「私は、何度も見送りはしてるがね。あんたが帰ってきた時には、私はもう居ない可能性もあるからね。」
この町最高齢のヨネさんが言った。
「帰って来るまでに、何か料理を考えておくわ。」
アナスタシアがヨネさんに言った。
「ほう、そりゃあ、まだまだ死ねないね。」
「ええ、楽しみにしていて。」
そうして、若者たちは旅立っていった。

「いい町だったわ。」
フレイが町から離れてから言った。
「まあ、居心地はいいわね。」
「ヨネさんに食べさせる料理って新作のピザ?」
「なんで、ピザなのよ・・・。安心して私はピザにはもう口出ししないから。」
「そ、そう。別にいいんだけどね。」
「レオース、気を張りすぎよ?今からそんなじゃあ、火の神殿になんて着けないわよ。」
緊張しすぎで、ガチガチに力が入って、周囲を警戒しまくりのレオースに、アナスタシアが言った。
「す、すみません。」
言葉まで硬かった。


「遍く風よ、迸る稲妻を蓄えし黒き雲を呼び集め、今ここに災禍の嵐を巻き起こさんっ!テンペストっ!」
魔力の感知もゼロ、そよ風すら拭かない。
ウィンドストームより上位の魔法は、全てこんな感じだった。
「よしっ、これで魔法は全て覚えましたね。」
「微風、一つ巻き起こらないのに、ドヤ顔してんじゃないよっ!」
レダは師匠に突っ込まれた。
「もう師匠に教わることもなく、なんだか寂しいですね。」
感慨深く言うレダ。
「あのねえ・・・。今のあんたの状態を言うとだな、本読んで満足した引き籠りと変わらんわっ!」
「い、言わないでくださいっ!」
耳を塞ぐレダ。
「それにだ、テンペストが最後の魔法だなんて、誰が言ったんだい?」
「へ?」
「まだ一つだけ残ってるんだよ。」
「風系にまだ、魔法が?」
「風系じゃないね。いいかよく見ときな。」
そう言って、レダの師匠は、呪文を唱えるべく身構えた。
「闇に眠りし三つ首の犬よ、尖鋭の牙をもって、相手の魂を噛み砕かん ダークネスファングっ!」
レダの時とは違い、師匠の周りには膨大な魔力が感知された。
「あ・・・、暗黒魔法。」
「と言っても、私では発動できないけどね。」
「何で、そんな魔法を?」
「知るかいっ!代々伝わってるんだよ。誰も使えてはないけどね。あんたも覚えておきな。どうせ風の魔法だって碌に使えないんだ。1つ余分に覚えてても問題ないだろ。」
「まるで、私が使えない魔術師みたいじゃないですか。」
「お前・・・、自覚してないのかい?お前は・・・。」
「き、聞きたくないです。」
レダは両耳を塞いだ。
ウィンドストームが使えるようになって、魔術師気取りだったレダだったが、新たな魔法を覚えるたびに、使えない魔法が増えていき。自信は、今や一欠けらも残っていなかった。
「レダ、私がいつも言ってる事は、忘れるんじゃないよ。」
「はい、魔法を使うのは大事な仲間や人たちを守る時だけ。」
「そうだ。それさえ忘れないでくれたら、テンペストなんて一生使えなくてもいいさ。」
「ひ、ひどっ!いつか使いますから、見ていてください。」
「はいはい、私の寿命が尽きる前だといいね。」
そう言って、レダの師匠は笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

落ちこぼれ神父、死神と契約して僻地に飛ばされたのでスローライフを送ります

寿司
ファンタジー
数多くの聖職者を輩出してきた名門レシピオ家の長男として生まれたものの、落ちこぼれだったことから弟に許嫁を奪われ、家を追われ、挙句の果てに契約するはずの精霊からも見放された主人公アレスは、厄介払いの為に寂れ果てた町イルゼルムに神父として派遣される。 しかし彼は精霊とは契約出来なかったものの、精霊よりも上位の存在である”死神”と契約した何もかもが普通ではない神父だった。 そしてアレスはイルゼルムに活気を取り戻すことを目指しつつも、のんびり神父ライフをマイペースに楽しむのだった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

処理中です...