くちうさるい悪役令嬢は、冒険者パーティーを追い出されました

華翔誠

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アマンダ

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「うっさいわね、ハゲ!さっさと姿を現しなさい。」
「禿げてねえだろっ!フサフサだっ!」
そう言って、文句を言いながらフールが姿を現した。
フールの姿を見るや否や、ミリィは走り出して、フールに抱き着いた。
「フール様っ!」
「よう、ミリィ。元気そうで何よりだ。」
「あのね、フール様の弟子のお姉さんに助けて貰ったの。」
「そうか、そりゃあ良かったな。でもな、ミリィ。いつも言ってるだろ?一人で出かけたら駄目だと。」
「ごめんなさい。」
猫耳が少し萎れる。
「今度から気を付けるんだぞ。」
そう言ってフールは、優しくミリィの頭を撫でた。
「アナスタシア、世話になったな。さすが俺の弟子だな。」
「あんたの弟子になった覚えはないわっ!」
「へえ?ミリィは何て聞いた?」
「フール様の弟子って言ってた。それにお料理がとてもお上手なの。」
「そりゃあ、俺の弟子だからな。」
「ミリィもお料理したい。」
「よし、村に帰ったら教えてやろう。」
「やったーっ!」
「あれだな、アナスタシア。ツンデレって奴か?」
「違うわっ!ミリィを安心させる為に言っただけよ。」
「そうか、まあいい。それにしても変わったメンバーで冒険してるんだな。」
そう言って、フールは、フレイの方を見た。
「ようフレイ。暫く見ないうちに・・・人間になったんだな・・・。」
「それはほっといて。ねえフール、私を火の神殿に連れて行って。」
「フレイの頼みは聞きたいところだが、先約があってな。」
そう言ってミリィの方を見た。
「そうだ、俺の弟子に頼めばいい。」
今度は、アナスタシアの方を見た。
「あなたの弟子って本当なの?」
「ああ、そうだが?」
「そう・・・。」
「と言うことだ、アナスタシア。フレイを火の神殿まで連れて行ってやってくれ。」
「何で私が?」
「お前は冒険者なんだろ?」
「そうだけど?」
「冒険者なら一度くらいは、火の神殿に行っとくもんだ。」
「・・・。」
「で、こっちの冒険者は人間か。」
フールが現れてから、リスキーは一度も発言をしていない。フールにとって、人間は害虫でしかない。下手な発言をしたら命が無い事は、冒険者であれば、誰でも知っていた。
「リスキー、仇を取りたいなら、力を貸すわよ。」
アナスタシアが言った。
「穏やかじゃないな。まあ人間の仇って言われりゃあ否定は、しないがな。リスキーって言ったな、母親の名前は?」
「ア、アマンダ。」
リスキーは素直に答えた。
「やっぱりそうか。お前の母親は最後まで冒険者としての筋を通した。まあ、仇の俺から、最期を聞きたくはないかもしれないが。」
「お、教えてくれ。俺の師匠・・・母親の最期を。」
「お前の母親は、人間に騙されて俺の討伐に参加した。と言っても、騙されていることに気が付いてるようだったがな。中々見どころのある冒険者で、依頼主たちが逃げ出しても俺の前に立ちはだかった。降参するように勧めたんだが、聞き入れて貰えなかったよ。」
「そ、そうか・・・。」
「アマンダからの遺言だ。もし、息子が俺に会うような冒険者になっていたら、これを渡してくれってな。」
そう言って、フールはポケットからペンダントを取り出し、リスキーに渡した。
手渡されたペンダントを見つめるリスキー。
それは、子供の頃、欲しがっていた母親がしていたペンダント。

「いつか、お前が一人前になったら、あげるよ。」
アマンダは、そう優しく言って、子供だったリスキーの頭を撫でた。
その光景が思い浮かび。
不意に涙が頬を伝う。
リスキーは、その場に泣き崩れた。

そんな姿を見ないようにして、フールは振り返った。
「じゃあ俺はミリィを連れていく。フレイの事を頼んだぞ。」
「知らんわ、ハゲ!」
「禿げてねえだろ、よく見ろ。フサフサだっちゅうに!」
そう言って、フサフサの頭をアナスタシアに見せつけた。
「フレイ、こいつは口は悪いが、きっと力になってくれる。」
そう言い残し、ミリィを連れて去って行った。
リスキーが泣き止む頃合いを見て、アナスタシアは話しかけた。
「いつまでも泣いてる暇はないわよ。」
「な、泣いてなんていないっ!目にゴミが入っただけだ。」
「あっそ。」
そうして、3人は一路、チーズの町を目指した。

「ねえ、フレイ。火の神殿は急ぎなの?」
「そこまで急ぎではないわ。」
「あなたの命が消えるとか、そういう話じゃないの?」
「そういう話ではないわ。」
「そう。」
「な、なあ。フレイ、あんたは人間じゃないのか?」
「今の姿は、人間だけど。人間ではないわ。」
フレイが正直に答えた。
「そ、そうか・・・。」
「ねえ、フレイ。チーズの町に仲間が居るの。火の神殿はその後でもいい?」
「行ってくれるの?」
「あなたが力なき人間になってるのも、私のせいでしょ。仕方ないから行ってあげるわ。」
「し、知っていたの?私がした事を。」
「私はね、嫌いなものに関しては、必要以上に気配がわかるのよ。ネズミとか、あなたとかね。まさか最期を看取ってもらう相手が、あなたになるとは思いもしなかったけど。」
「目も開いてなかったから気が付いてないと思ったわ。」
「目は見えなかったけど、気配は感じたわ。」
「なんて無茶なことをする馬鹿なんだろうと。」
「そう思えば、ほっておけばよかったでしょうに。」
「単なる気まぐれよ。」
「あっそ、じゃあ火の神殿に連れて行けば、チャラでいいわね?」
「・・・、いいわよ、それで。」
「おい、何の話だ?」
リスキーが聞いた。
「私が死んだときの話よ。」
「は?死んだ?何を言ってるんだ?」
「いいのよ、大した話じゃないから気にしないで。」
その後、ようやく町の宿をとることが出来て、リスキーは一人部屋で爆睡をかました。

「ねえ、フレイ。私はもう人ではないの?」
宿屋の二人部屋でアナスタシアが聞いた。
「普通の人では、もうないわ。」
「そう。」
あっさりと受け入れて、追加の質問はしなかった。
「随分とあっさりしてるのね?」
「お師匠様が普通の人ではないのよ。だから気にしないわ。」
「あの時、あなたを見殺しになんて私には出来なかった。」
「おかしな精霊ね。あなたが加護をしていたのは妹の方でしょうに。」
「エラの加護は、彼女が王宮に引き返した時に無くなったのよ。」
「そうみたいね。私の事をつけてたわけ?」
「つけてないわ、気になってただけよ。」
「私にあんなに意地悪ばかりしてたのに?」
「失礼ね、意地悪なんてしてないじゃない?」
「あれこれ命令したでしょ?」
「それは、エラの為よ。あなたはエラの姉なんだから、エラの為に行動するのは当たり前じゃない。」
「まあそうね。」
「まさか、あなたがあんな馬鹿な真似をするなんて・・・。」
「ちょっと待って。何処が馬鹿な真似なのよ?」
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「そう思うなら、黙って寝なさいよ。」
明かりを消して、就寝する二人。
「私がしたことは、余計なことだったの?」
アナスタシアに聞こえるか聞こえないような小さな声でフレイは呟いた。
「私は、今、生きていることを楽しんでるわ。ありがとう。」
アナスタシアは誰にいう訳でもなく、小さな声で呟いた。
その言葉を聞き届け、フレイは笑みを浮かべて眠りについた。
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