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「公爵様、アデリーナ様。準備が整ったみたいです」

 この段階に来るまでだいぶ長い道のりであった。

 結婚を決めた日から式に向けて準備していたが、やはり色々と問題があった。まず、ちゃんとの意味のある結婚とは何かという根本的な疑問に直面し、その答えに至るまでにだいぶ時間を有した。結局は、貴族がやるような結婚式ではなく、庶民がやるような結婚式のようにするべきだという結論に至った。通常、貴族の結婚式というのは各国の貴族を集めて大体的にやるのが一般的だ。その催しが豪勢なほど権力を現し、大勢の人に見せしめることが出来るからだ。そのような結婚式は結局自分の凄さを見せたいがための自己満足のようなものである。しかし、庶民は別に権威を示す必要はないため友人を呼んで和やかに式をするらしい。貴族の結婚式よりかは豪勢ではないにしろ、庶民の結婚式というのは貴族の結婚式に比べると愛し合って結婚するという意味合いは強い。だから、二人はまず友人だけを呼んで式をやってしまおうと思った。もちろん、その後に国民に知らしめるための大きな結婚式はやる予定だが、その前にしてしまった方がいい。

 それと招待した友人というのは地区でお世話になった人が多く、返事がだいぶバラバラになって返ってきたため、全員の都合が合う日を設定するのにも骨が折れた。何度も手紙のやり取りをしてようやくこぎつけたこの日は奇跡の一日と言っても過言ではないだろう。そして、ようやく準備が終わり、自分たちのことに着手できた時はホッとした。

 ようやく、式が始まり、メイドに言われて扉の前に二人は立たされた。

「緊張しているのですか?」
「ああ、大分な」
「私もです。今まであったどんなことよりも緊張しています」

 握った手が震えていて彼もまた同じように緊張しているのだと思うと、少し彼女は安心した。

「ちゃんと考えていた言葉言えますか?」
「噛んだ時は許してくれ」
「許しません。そうなった暁にはそれを笑い話にして永遠に忘れなくさせてあげます」
「それはやめてくれ」
「ふふ、冗談ですよ。私も今とても緊張しているので噛んでしまいそうです」
「同じもの同士気楽に行こうか」
「もうすぐで出番です。二人とも」
「ええ、わかりました」

 メイドの言葉に二人は姿勢を正す。扉の向こうからは微かな声が聞こえたが、やがて何かを待つように静かになった。二人は静かになった扉の向こうから自分たちの出番が近づいてくることを知った。

「クロスさん」
「どうした?」
「好きです。とっても」
「きゅ、急に何を言う!」
「あ、扉が開きますよ」
「おい、待て!」

 少しのドッキリ。ちょっとした冗談。これで彼の緊張が解ければいいかと思ったが、逆効果みたいだった。珍しく慌てる彼を見るのは楽しい。

 扉が開き、光が差す。一つの大きな歓声に彼女はようやく自分の在り処を見つけたような気がした。
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