上 下
41 / 48

41

しおりを挟む
「クロスさん、少し正門にいる人集りが増えているような気がしませんか?」

 皇居に戻ってから二日が経ったある日のこと、彼女は執務室から見える正門の様子に違和感を覚えた。今日まで確かに人の数に増減はあった。雨の日は少なくなり、快晴の日には多くなる。しかし、これほどまでに増えていることなんてなかった。

「確かにそうだな。何かあったのだろうか」

 彼もまた現場を見るとその違和感に気づき、何か起きたのかと疑った。

「クロスさん、あれ」
「うん、どれだ?」
「あの一番左から少しズレたところにいる白い紙を持っている人です」
「ああ、あれか」
「はい。あの人の紙に何か書いていませんか?」
「いつものように公爵をやめろと書いているんじゃないか?」
「いえ、何か違うような気がするのです」
「少し待て。双眼鏡で見る」

 彼は引き出しから双眼鏡を取り出し、彼女が言ったところにピントを合わせる。それは確かにいつもの髪ではなく、色合い的に新しく書いたものであった。

「『聖女を奪った愚か者め。シライアの属国となれ』。そう書かれているな」
「そうですか」

 紙に書かれたことを読み上げたクロス。それを聞いた彼女は少し残念がった。

「あの人の仕業ですね」

 話し合いの末、立場が不利になったからと怒鳴りながらその場を後にしたというのに、このような狡い手を使うのはシライアの公爵も落ちるところまで落ちてしまったなと思う。それくらい聖女を取り戻すことに必死なのだろうが、狡い手を使ってきたことを残念に思う。

「もう一度、あの方を呼んで説得しましょう。私は奪われた立場ではないことを」
「そうしたいのは山々だが、あの民衆を見るに元凶である彼を説得するのは困難だろうな」
「そうですよね」

 彼らは感情任せである。説明したところでどうせ言わされているとあらぬ憶測を勝手に事実のように扱って神経を逆撫でさせてしまうというのは目に見えている。であるのなら、無視してしまったほうがいいのかもしれない。幸い、抗議をするだけして特に悪事を働いているわけではないのだから、ひとまずは無視しておくべきだろう。

「次はこの地区だが、他の三地区のように上手くは行かないだろうな」
「だいぶ嫌われていますもんね」
「そうだな。直接私が赴けば公務を妨害されかねない」
「何か策を講じないといけませんね。私が一人行くのはどうでしょうか?地味目な格好をすれば案外気がつかれないかもしれません」
「いや、あの民衆を見るにシライアの公爵がまだこの国に残っている可能性が高い。街で偶然会ったら強引にでも連れて行くかもしれない」
「確かにそうですね。でしたら、二人で共に行動したほうがいいかもしれません」
「見せしめも兼ねて共に堂々と行動したほうがいいかもしれんな」
「そうですね。それといつもより距離を近づけば、嫌っていないと分かるかもしれません」
「そうしたほうがいいかもしれん」

 着実にどうするべきか話をつけてようやく決まったところで二人は最後の地区の問題解決をすることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
聖女ウリヤナは聖なる力を失った。心当たりはなんとなくある。求められるがまま、婚約者でありイングラム国の王太子であるクロヴィスと肌を重ねてしまったからだ。 「聖なる力を失った君とは結婚できない」クロヴィスは静かに言い放つ。そんな彼の隣に寄り添うのは、ウリヤナの友人であるコリーン。 聖なる力を失った彼女は、その日、婚約者と友人を失った――。 ※以前投稿した短編の長編です。予約投稿を失敗しないかぎり、完結まで毎日更新される予定。

【完結】悪役令嬢に転生した私は奴隷に身分を落とされてしまったが青年辺境伯に拾われて幸せになりました

夜炎伯空
恋愛
「私の愛する婚約者にお前が悪事を行っていたことがわかった!! ――よってお前の地位を剥奪し、奴隷の身分とする!!」 「そ、そんな……」  この世界で目を覚ました時、私は悪役令嬢のキリアに転生してしまっていた―― 「私の人生はいつもこうだ……」  苦労に苦労を重ねて得た小さな幸せも、すぐに新たな不幸によって上書きされてしまう。  ようやく就職できた会社もブラック企業で、社畜のような生活の日々を送っていた。  最近の唯一の楽しみは、寝る前に好きな乙女ゲームをすることだったのだが――

何でも欲しがる妹を持つ姉が3人寄れば文殊の知恵~姉を辞めます。侯爵令嬢3大美女が国を捨て聖女になり、幸せを掴む

青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿39話、40話、71話スピンオフ  王宮でのパーティがあった時のこと、今宵もあちらこちらで婚約破棄宣言が行われているが、同じ日に同じような状況で、何でも欲しがる妹が原因で婚約破棄にあった令嬢が3人いたのである。その3人は国内三大美女と呼ばわれる令嬢だったことから、物語は始まる。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴
恋愛
 フランメル辺境伯令嬢アニス。  闇属性のスキルを操り、岩をも砕く「指弾」の名手。  そんな勇ましい彼女は三年前、王太子妃補となった。  サフラン殿下は年下ながらも「愛おしい女性」とアニスのことを慕い、愛を注いでくれる。  そんな彼は寒がりだから、手編みセーターの一つでも贈って差し上げよう。  そう思い買い物を済ませた彼女が、宿泊するホテルのスイートルームに戻ってきたとき。  中からは、仲睦まじい男女の声が聞こえてくる。  扉の向こうにはサフランと見知らぬ令嬢が愛し合う姿があり……。  アニスは紙袋から編み棒を取り出すと、二人の座る長椅子に深々と突き立てた。  他の投稿サイトにも掲載しています。  タイトル少し変えました!  7/16 HOT17位、ありがとうございます!  

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。 顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。 辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。 王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて… 婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。 ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。 設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。 他サイトでも掲載しています。 コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

処理中です...