35 / 48
35
しおりを挟む
「私の言いたいことはすでに分かっているだろう」
「すでに察しはついている。」
「まぁ、そうだろうな。私が今日ここに来たのは聖女アデリーナのことについてだ」
「ああ」
紅茶を迷いもせず一口啜ったローランはアデリーナのことを見ながら話した。彼ら二人もそのことについて話すことは流石に分かっていた。
「アデリーナ、もう一度シライアに来い。お前はここにいていい人材ではない」
話し合いとも呼べない強引な誘い。これは彼が傲慢であるが故の行動であろう。彼女ならきっとこんな貧しい国ではなく、シライアを選んでくれる。そう思い、疑っていない。
「ローラン公爵。私は確かに一度あなた方の国に仕えていた者です。しかし、今はどうでしょうか。あなたに国から出て行くように命令されて、私は今この地で聖女をしています。それが分からないでしょうか」
「知っている。しかし、ここの国は我が国と比べてもあまりにも小さく、聖女が居ていいような場所ではない」
「私はこの国のことが好きです。それに今はもうシライアのことは興味がないのです。ですから諦めてください」
「それは駄目だ。お前はここの公爵が如何に嫌われているのか知らないだろう。教えてやる。昨日、皇居の前でデモをしていた奴らが公爵はやめるべきだと言っていた。国民のことを大事にしていないらしいからな」
「それを解消するためにここに来てからというものいろんな地区へと行き、問題解決のために奔走していました。じきに彼らも公爵のことを認めてくれるでしょうし、今は全く気にしていません。それに公爵をやめろと言われているのはローラン公爵の方なのではないですか?」
「何を言う。そんなわけないだろう」
「聖女を追放して国がどんどんと壊れていっているのを知っています。私を連れ戻そうとしているのも妹が聖女ではなかったとようやく理解できたからでしょう。今はそうではなくともいずれそう言われる日は遠くありません」
「だから聖女が必要と言っているだろ」
「追放を命令した張本人のくせによくそんな態度を取れますね。追放した癖に不利になったら戻ってこいと言うのはさすがに虫が良すぎます」
ローランはアデリーナの反応が予想外なものであったと感じた。こんなところすぐに出て行きたいと思っていたのだが、そういうわけではなく、この国から出たがっていないようだった。
「公爵、諦めてください。私はこの国に留まります。シライアには行きません」
「どうしてだ、アデリーナ」
「だから言っているでしょう。私はこの国が好きになりましたし、シライアのことは今はどうでもいいのです」
「クソッ!お前と言うのはいつもそうだ。私のことを考えもしないで」
「ローラン、今は説教の場ではない。対話の場だ。それを忘れるな」
「クソッ!もういい。お前を信じた私が馬鹿だった」
彼女の確固たる意思に彼はどう太刀打ちすることもできずに、応接室を去って行くこととなった。
二人は良かったと心の中で安堵する。実際、彼が引き下がったところで彼女はシライアに行く気など微塵もなかったし、簡単に諦めてくれて助かったと言えるだろう。
「クロスさん、あの人のことは放っておいて私たちはこの国を再建することだけに注力しましょう」
「そうだな」
彼女と彼の絆が今日確かに深まった。
「すでに察しはついている。」
「まぁ、そうだろうな。私が今日ここに来たのは聖女アデリーナのことについてだ」
「ああ」
紅茶を迷いもせず一口啜ったローランはアデリーナのことを見ながら話した。彼ら二人もそのことについて話すことは流石に分かっていた。
「アデリーナ、もう一度シライアに来い。お前はここにいていい人材ではない」
話し合いとも呼べない強引な誘い。これは彼が傲慢であるが故の行動であろう。彼女ならきっとこんな貧しい国ではなく、シライアを選んでくれる。そう思い、疑っていない。
「ローラン公爵。私は確かに一度あなた方の国に仕えていた者です。しかし、今はどうでしょうか。あなたに国から出て行くように命令されて、私は今この地で聖女をしています。それが分からないでしょうか」
「知っている。しかし、ここの国は我が国と比べてもあまりにも小さく、聖女が居ていいような場所ではない」
「私はこの国のことが好きです。それに今はもうシライアのことは興味がないのです。ですから諦めてください」
「それは駄目だ。お前はここの公爵が如何に嫌われているのか知らないだろう。教えてやる。昨日、皇居の前でデモをしていた奴らが公爵はやめるべきだと言っていた。国民のことを大事にしていないらしいからな」
「それを解消するためにここに来てからというものいろんな地区へと行き、問題解決のために奔走していました。じきに彼らも公爵のことを認めてくれるでしょうし、今は全く気にしていません。それに公爵をやめろと言われているのはローラン公爵の方なのではないですか?」
「何を言う。そんなわけないだろう」
「聖女を追放して国がどんどんと壊れていっているのを知っています。私を連れ戻そうとしているのも妹が聖女ではなかったとようやく理解できたからでしょう。今はそうではなくともいずれそう言われる日は遠くありません」
「だから聖女が必要と言っているだろ」
「追放を命令した張本人のくせによくそんな態度を取れますね。追放した癖に不利になったら戻ってこいと言うのはさすがに虫が良すぎます」
ローランはアデリーナの反応が予想外なものであったと感じた。こんなところすぐに出て行きたいと思っていたのだが、そういうわけではなく、この国から出たがっていないようだった。
「公爵、諦めてください。私はこの国に留まります。シライアには行きません」
「どうしてだ、アデリーナ」
「だから言っているでしょう。私はこの国が好きになりましたし、シライアのことは今はどうでもいいのです」
「クソッ!お前と言うのはいつもそうだ。私のことを考えもしないで」
「ローラン、今は説教の場ではない。対話の場だ。それを忘れるな」
「クソッ!もういい。お前を信じた私が馬鹿だった」
彼女の確固たる意思に彼はどう太刀打ちすることもできずに、応接室を去って行くこととなった。
二人は良かったと心の中で安堵する。実際、彼が引き下がったところで彼女はシライアに行く気など微塵もなかったし、簡単に諦めてくれて助かったと言えるだろう。
「クロスさん、あの人のことは放っておいて私たちはこの国を再建することだけに注力しましょう」
「そうだな」
彼女と彼の絆が今日確かに深まった。
1
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
妹に婚約者を寝取られましたが、私には不必要なのでどうぞご自由に。
酒本 アズサ
恋愛
伯爵家の長女で跡取り娘だった私。
いつもなら朝からうるさい異母妹の部屋を訪れると、そこには私の婚約者と裸で寝ている異母妹。
どうやら私から奪い取るのが目的だったようだけれど、今回の事は私にとって渡りに舟だったのよね。
婚約者という足かせから解放されて、侯爵家の母の実家へ養女として迎えられる事に。
これまで母の実家から受けていた援助も、私がいなくなれば当然なくなりますから頑張ってください。
面倒な家族から解放されて、私幸せになります!
【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
悪役令嬢が残した破滅の種
八代奏多
恋愛
妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。
そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。
その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。
しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。
断罪した者は次々にこう口にした。
「どうか戻ってきてください」
しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。
何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。
※小説家になろう様でも連載中です。
9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる