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「私の言いたいことはすでに分かっているだろう」
「すでに察しはついている。」
「まぁ、そうだろうな。私が今日ここに来たのは聖女アデリーナのことについてだ」
「ああ」

 紅茶を迷いもせず一口啜ったローランはアデリーナのことを見ながら話した。彼ら二人もそのことについて話すことは流石に分かっていた。

「アデリーナ、もう一度シライアに来い。お前はここにいていい人材ではない」

 話し合いとも呼べない強引な誘い。これは彼が傲慢であるが故の行動であろう。彼女ならきっとこんな貧しい国ではなく、シライアを選んでくれる。そう思い、疑っていない。

「ローラン公爵。私は確かに一度あなた方の国に仕えていた者です。しかし、今はどうでしょうか。あなたに国から出て行くように命令されて、私は今この地で聖女をしています。それが分からないでしょうか」
「知っている。しかし、ここの国は我が国と比べてもあまりにも小さく、聖女が居ていいような場所ではない」
「私はこの国のことが好きです。それに今はもうシライアのことは興味がないのです。ですから諦めてください」
「それは駄目だ。お前はここの公爵が如何に嫌われているのか知らないだろう。教えてやる。昨日、皇居の前でデモをしていた奴らが公爵はやめるべきだと言っていた。国民のことを大事にしていないらしいからな」
「それを解消するためにここに来てからというものいろんな地区へと行き、問題解決のために奔走していました。じきに彼らも公爵のことを認めてくれるでしょうし、今は全く気にしていません。それに公爵をやめろと言われているのはローラン公爵の方なのではないですか?」
「何を言う。そんなわけないだろう」
「聖女を追放して国がどんどんと壊れていっているのを知っています。私を連れ戻そうとしているのも妹が聖女ではなかったとようやく理解できたからでしょう。今はそうではなくともいずれそう言われる日は遠くありません」
「だから聖女が必要と言っているだろ」
「追放を命令した張本人のくせによくそんな態度を取れますね。追放した癖に不利になったら戻ってこいと言うのはさすがに虫が良すぎます」

 ローランはアデリーナの反応が予想外なものであったと感じた。こんなところすぐに出て行きたいと思っていたのだが、そういうわけではなく、この国から出たがっていないようだった。

「公爵、諦めてください。私はこの国に留まります。シライアには行きません」
「どうしてだ、アデリーナ」
「だから言っているでしょう。私はこの国が好きになりましたし、シライアのことは今はどうでもいいのです」
「クソッ!お前と言うのはいつもそうだ。私のことを考えもしないで」
「ローラン、今は説教の場ではない。対話の場だ。それを忘れるな」
「クソッ!もういい。お前を信じた私が馬鹿だった」

 彼女の確固たる意思に彼はどう太刀打ちすることもできずに、応接室を去って行くこととなった。

 二人は良かったと心の中で安堵する。実際、彼が引き下がったところで彼女はシライアに行く気など微塵もなかったし、簡単に諦めてくれて助かったと言えるだろう。

「クロスさん、あの人のことは放っておいて私たちはこの国を再建することだけに注力しましょう」
「そうだな」

 彼女と彼の絆が今日確かに深まった。

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