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「少し雨、降ってきましたね」
馬車にある窓からアデリーナは外を覗った。早朝も曇り空でいつ降ってもおかしくはなさそうであったが、皇居のある地区に入った途端に少し雨が降り始めた。すぐに皇居に着くから、まだマシだが、これが少し遅れていたら道が濡れて大変だったかもしれない。
「雨でも人集りがあるんですね」
「お構いなしなんだろう」
皇居の前でデモを行う民衆。しかし、今日は普段と違い様子であった。
「なんでしょうか、あれ」
「別に気にすることでもない」
「ん、公爵様?」
「どうしたんだ?そんなにかしこまって」
「あ、いえ、違います。あの場にローラン公爵がいるのです」
彼女はかすかに映る馬車の外の景色からローラン公爵がいることに気がつき、自然とかつて呼び合っていたように「公爵様」と言葉を紡いでいた。それに勘違いして呼ばれたクロスは改まった態度を不思議に思ったが、ジッと窓を見つめる彼女に呼ばれたのが自分ではないことを知る。
「今日、対談のご予定があるのですか?」
「いや、そんな予定はない。彼が自主的にこちらに来たのだろう」
「一体、何が目的なのでしょうか」
このタイミングで来たかつての公爵。どういった目的でここに来たのか。彼女には確かな心当たりが一つあった。
皇居に戻った後、正門が見える場所へクロスと共に彼女は向かい、確かにローランの姿を視認した。皇居の前にいる人と言い争っているというわけではなく、和やかに会話しているようであった。もうじき、雨も強くなる。それを踏まえて彼らも撤退するようであったが、最後にローランと目があったような気がした。
翌日、彼女は随分と遅い起床だった。何せ、昨日はローランのことについて考えていると中々寝付けなかったのである。身支度を整えて、彼女はひとまず日課である庭の手入れをすることにした。
裏庭へ行くと一人の侍女がちょうど一輪の花に水をやってあげているところであった。彼女にはアデリーナがこの家を空けている際に庭の手入れを任せていた。今はすっかり板についたようで、アデリーナが教えた通りに手入れしていたようだった。
「ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず、庭の手入れが終わったら、朝食をお持ちします」
「ええ、分かりました」
皇居にいる時はこうして自由に時間を使えるのがいい。丁寧に花の手入れをして、終わったところで侍女に一言言って一切れのパンをもらう。そすて、朝食を済ませたところで彼女はクロスの元へと向かうのだった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「どうしたのですか?すごい頭を抱えているようですけれど」
「今、ローラン公爵との対談に向けて準備をしているところなんだ」
「ローラン公爵とですか。やはり、昨日来てたのは対談するためだったのですね」
「ああ、そうみたいだ。それと、アデリーナもその場にいてほしいということだ」
「なるほど」
「差し詰め、君を戻しに来たと言うのだろう。答えを用意していてくれ」
「はい、大丈夫です。一度裏切った国に興味はありませんから」
クロスが仕事をしている部屋に行くと、彼は頭を抱え込んでいた。どうやら、ローラン公爵が対談をしに来るらしい。昨日は彼らが不在であったり、雨のせいであったりが重なって来れなかったが、今日になって対談することは想像しやすいことであった。それにその対談の内容というのもあらかた分かっている。だから、始まる前に答えは用意できた。
約束の時間、応接室にいた二人は扉が開かれると今までしていた雑談を止めて、姿勢を正した。部屋に入ってきたのは一人の侍女と公爵ローランであった。侍女はローランが座ったのを見て用意してあった紅茶を入れ、礼をしてこの部屋から出ていった。
「ようこそ、デラートへ。ローラン公爵」
「ああ」
クロスが挨拶をして、彼もそれに応える。しかしながら、その空気感というのは和やかなものではなく、居ても立っても居られないほどの重苦しさである。そして、お辞儀を終えたローランが顔上げるとアデリーナと目を合わせる。その眼光というのは酷く鋭いものであった。
馬車にある窓からアデリーナは外を覗った。早朝も曇り空でいつ降ってもおかしくはなさそうであったが、皇居のある地区に入った途端に少し雨が降り始めた。すぐに皇居に着くから、まだマシだが、これが少し遅れていたら道が濡れて大変だったかもしれない。
「雨でも人集りがあるんですね」
「お構いなしなんだろう」
皇居の前でデモを行う民衆。しかし、今日は普段と違い様子であった。
「なんでしょうか、あれ」
「別に気にすることでもない」
「ん、公爵様?」
「どうしたんだ?そんなにかしこまって」
「あ、いえ、違います。あの場にローラン公爵がいるのです」
彼女はかすかに映る馬車の外の景色からローラン公爵がいることに気がつき、自然とかつて呼び合っていたように「公爵様」と言葉を紡いでいた。それに勘違いして呼ばれたクロスは改まった態度を不思議に思ったが、ジッと窓を見つめる彼女に呼ばれたのが自分ではないことを知る。
「今日、対談のご予定があるのですか?」
「いや、そんな予定はない。彼が自主的にこちらに来たのだろう」
「一体、何が目的なのでしょうか」
このタイミングで来たかつての公爵。どういった目的でここに来たのか。彼女には確かな心当たりが一つあった。
皇居に戻った後、正門が見える場所へクロスと共に彼女は向かい、確かにローランの姿を視認した。皇居の前にいる人と言い争っているというわけではなく、和やかに会話しているようであった。もうじき、雨も強くなる。それを踏まえて彼らも撤退するようであったが、最後にローランと目があったような気がした。
翌日、彼女は随分と遅い起床だった。何せ、昨日はローランのことについて考えていると中々寝付けなかったのである。身支度を整えて、彼女はひとまず日課である庭の手入れをすることにした。
裏庭へ行くと一人の侍女がちょうど一輪の花に水をやってあげているところであった。彼女にはアデリーナがこの家を空けている際に庭の手入れを任せていた。今はすっかり板についたようで、アデリーナが教えた通りに手入れしていたようだった。
「ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず、庭の手入れが終わったら、朝食をお持ちします」
「ええ、分かりました」
皇居にいる時はこうして自由に時間を使えるのがいい。丁寧に花の手入れをして、終わったところで侍女に一言言って一切れのパンをもらう。そすて、朝食を済ませたところで彼女はクロスの元へと向かうのだった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「どうしたのですか?すごい頭を抱えているようですけれど」
「今、ローラン公爵との対談に向けて準備をしているところなんだ」
「ローラン公爵とですか。やはり、昨日来てたのは対談するためだったのですね」
「ああ、そうみたいだ。それと、アデリーナもその場にいてほしいということだ」
「なるほど」
「差し詰め、君を戻しに来たと言うのだろう。答えを用意していてくれ」
「はい、大丈夫です。一度裏切った国に興味はありませんから」
クロスが仕事をしている部屋に行くと、彼は頭を抱え込んでいた。どうやら、ローラン公爵が対談をしに来るらしい。昨日は彼らが不在であったり、雨のせいであったりが重なって来れなかったが、今日になって対談することは想像しやすいことであった。それにその対談の内容というのもあらかた分かっている。だから、始まる前に答えは用意できた。
約束の時間、応接室にいた二人は扉が開かれると今までしていた雑談を止めて、姿勢を正した。部屋に入ってきたのは一人の侍女と公爵ローランであった。侍女はローランが座ったのを見て用意してあった紅茶を入れ、礼をしてこの部屋から出ていった。
「ようこそ、デラートへ。ローラン公爵」
「ああ」
クロスが挨拶をして、彼もそれに応える。しかしながら、その空気感というのは和やかなものではなく、居ても立っても居られないほどの重苦しさである。そして、お辞儀を終えたローランが顔上げるとアデリーナと目を合わせる。その眼光というのは酷く鋭いものであった。
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