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 この食事会には酒もあり、時間が進むごとに酒を飲んだ人は酔い始めた。アデリーナはお酒を飲むことはなかったが、隣に座っていた男性は酒を浴びるように飲み、完全に出来上がっていた。

「嬢ちゃんはあいつと付き合ってるのか?」
「え?いや、別に」
「嘘はいかんな。宿も一緒の部屋で泊まってると聞いた。それはもうそういう関係じゃないとおかしいだろ」
「そんなことないですよ」
「まぁ、まだ若いとそういうのを隠したいのかもしれんな。気にするな」
「いえ、ですから」

 アデリーナはなんとか否定しようとしたが、酔っている人に対して抵抗するのは難しかった。人の話を聞く耳を持たず、自分勝手に行動する。なんとか否定の言葉を述べても酔った彼は聞かずに今もアデリーナのグラスに酒を入れるという身勝手な行動をしている。

「あ、あの!」
「酒は飲めるよな?ほら、一気にぐびっといってしまえ」
「飲めはしますが」

 アデリーナは自然とクロスに助けを求めようとするが、彼もまた酔った町長に絡まれて自分のことで精一杯のようだった。彼女は彼の頼みを自分で断れるわけもないグラスに注がれたお酒をチビチビと飲む。彼の野次がうるさく聞こえ、なんとかグラス一杯分飲み干した。

「ど、どうでしょうか?」

 彼の方を見ると彼は机に突っ伏していつの間にか寝ていた。沸々と湧き上がる怒り。彼女はグラスを置いてその怒りと共に息を吐き出した。彼に構わなければよかった。と軽く後悔する。ただ、彼女は酒を飲んでも平気だと高を括った。その自信が誤っていたことを知るにはそんな時間がかからなかった。

(頭がボーッとする)

 そう思いながら、これが酔うという感覚なんだということに気がつく。彼女は貴族のパーティーであってもそれがどんなにすごいパーティーであったとしても決してお酒は飲まなかった。というのも母に酒を飲むと聖女の仕事がちゃんと出来なくなると言われていたからだ。母の教えをしっかりと守ってきた彼女は酒に慣れておらず、驚くほど酒に弱かった。ボーッとする頭の中でどうにかしてほしいと隣に座って話し込んでいるクロスの腕に頭を置いた。

「どうしたんだ?」
「少し酔ってしまったみたいです」

 それに気がついたクロスは話を止め、彼女に話しかける。彼女は酒のせいで呂律が回りづらくなっているのか今までに聞いたことがないふにゃふにゃとした声で彼の質問に答える。

 彼女は真面目に答えているわけなのだが、その場にいた人たちは事の経緯を知らないし、彼女が酒にめっぽう弱いことも知らない。だから、第三者の視点から見れば、ただそれが甘えているだけのようにしか見えなかった。

 恋愛の予感を感じ取り、「付き合え」「結婚しろ」と言って騒がしくなる野次馬。慌てるクロスとそのことに全く気がついていない様子のアデリーナ。パーティーは静けさを知らなかった。
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