聖女の私は妹に裏切られ、国を追放することになりましたがあなたは聖女の力を持っていないですよ？〜国を追放され、劣悪な環境の国に来た聖女の物語〜

14

「起きてくれ、アデリーナ」
「……はい」

　肩をトントンと優しく叩かれる衝撃と人を起こそうとは思えない優しい声色に彼女は起こされた。気がつけば部屋は明るく、朝が来たことを知らされる。

「すいません、今身支度します」
「気にするな。いくらでも待つ」

　骨が軋むような音が背中から鳴りつつも彼女は伸びをして気だるい体を起こし、早速身支度をした。長い髪を解かし、化粧する。その単純なことでも一時間は彼を待たせてしまった。

「今日はどうしましょうか？」
「目的が現地の人の心を許してもらうというのだからな、何をすれば心を許してもらえるのだろうか」
「私がやった手段ですと困っている人を助けて生活を少し豊かにしたという程度でしょうね。ただ、あそこは貧困が目立っていてかえって救いやすかったというのもあります」
「ここは一応主要な町であり、そこまで貧困ではないからな。困っている人を見つけるのも難しいだろうからどうすべきか。水不足が問題だとは言っていたがどうにか出来る問題なのだろうか」
「浄水場は別に変なところはなかった感じがしますけど、もう一度行ってみます？」
「そうしよう。何か見落としているのかもしれない」

　今日の目的が決まったところで宿を出ることにする。すると、まだ朝の時間帯だと言うのに宿の前を通る人の数が多かった。これが普通なのかもしれないが、やはりそんなことはなく、二人が歩いていくのと同時に宿前の人通りというのは確かに減った。

「なんなのでしょうか？」
「私たちに興味がある人なだけだろう。気にすることはない」

　彼女は集まった人たちの動機が気になったが彼はそれを許してはくれずに目的地である浄水場へと足早に向かった。

「特に変わりはありませんね」
「そのようだな。浄水機能は変わらず動いているし、ちゃんと水も出ている。なんらおかしなところはない」

　特に何も問題はなさそうに見えるが、アデリーナは裏側を見ると何かの違和感に気づいた。

「川の水が少ないみたいです」
「そうか？」
「ええ。ここに跡があるということはここまで水が来ていたということになりますから水が流れにくくなってるみたいです。どこかが防がれていて流れにくくなっているのでしょうか？」
「ただ、それが原因だとしたらもうとっくに解決されているような気もするが」
「何か特別な事情があるのかもしれません。町長にでも聞いてみましょうか」

　単純な問題が故に公爵が口にしたことがごもっとである。ただ、現状は問題解決していないのだから、特別な事情があるというアデリーナの言うことにも納得できる。つまるところ、現地の人に詳しいことは聞かなくてはこの真相というのは分からないものだ。

「それは源泉が原因だから、何も出来んのだ」

　真相を解明しようと町長のとこへと行くとすぐにそう言われた。

「源泉が原因……。では、もう少しで水がなくなるということですか？」
「そうなると言われたな」
「なるほど。そうですか。クロスさん、源泉の場所に行ってみましょう」
「それでどうにかなるのか？」
「どうにかするんです。まずは行ってみないと分かりませんから」

　彼女は力強い言葉でそう言い、公爵を連れて源泉のある場所へと向かうことにした。

「私の出番みたいですね」
「本当にできるのか？」
「母の日記でこのような場面があったのですよ。『水がなく、乾いた土地。そこに源泉を作れば民は喜び、歓喜の声を上げた。その瞬間、私はその人たちに心を許してもらえた。』まるっきりその場面と一緒ではないですか。ですから、このチャンスを逃がすわけにはいかないのです」
「そうか。なら、アデリーナを信じよう」
「ええ、任せてください」