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催花雨
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「はぁっ!はぁっ、はぁっ」
目を開ける。目の前には見慣れた自室の天井。
「あ…れ?」
「雪、起きたのかい」
そう言って部屋に入ってきたのは文さんだった。
「ゆ…め?」
「だろうね。だいぶうなされていたよ」
「文さん、私どうしたんですか?」
彼女はふっと笑うと、私の背に手を添えゆっくりと身体を起こさせた。
「覚えてないのも無理ないさ。あんた、妖退治の帰りに熱出して倒れたんだよ。それに妙な術にもかかっていたみたいでね。恐らく、悪夢を見せる術でも倒した奴にかけられたんだろう。それから2日間ずっと眠っていたよ」
そうだ。あの鳥の妖は悪夢によって人々を苦しめていた
「2日間…⁉️今はいつの何時ですか?」
「6月26日の午後1時だよ。で、あんたが倒れたのが24日だ」
我ながらよく眠ったものだと感心してしまう。
「ったく、だから無理するなって言ったんだよ。あんたは余程疲れていたってことだ。雪」
「えへへ。ごめんなさい」
やれやれという顔をした文さんの手がそっと額に触れた。
「まあ、熱は下がったみたいだね。そうだ。倒れたあんたを抱えてきたのは玲だよ」
「へ…?」
その名前に、一瞬呼吸が止まる。
「どうやらひょっこり帰ってきたみたいでね」
すると、外が騒がしくなり、部屋の扉がやや雑に開かれた。
「おい、ババア!飲み物とか買ってきた…ぞ」
そして彼は目を見開いた。
「相変わらず失礼な奴だね。あんたは」
呆れたように文さんがため息をつく。
「腹減っただろ?何か作ってくるよ。玲、雪のこと頼んだよ」
そう言って彼女は部屋から出て行き、玲と私の2人きりになった。玲はあぐらをかき、気まずげにちらりとこちらを見た。
「あー…。久しぶり、だな。雪」
「うん。久しぶり。玲」
懐かしい袴姿に、燃えるように赤い釣り目と端正な顔立ち。男性にしては珍しい、長い黒髪を高い位置で1つにまとめている。それは記憶の中の彼と何も変わっていなかった。
「全然変わらないね。連れ帰ってくれてありがとう」
「いや…構わねぇよ。でも、お前も変わらないな」
すると、彼の胸元で揺れる、瞳と揃いの色をした深紅の雫型の飾りがついたペンダントを見つけた。
「そのペンダント、まだ持ってたの?」
「ん?ああ。そういうお前もまだ持ってるんだな」
「うん。これは、私の宝物だから」
「そうか…。俺もだ」
しん、と沈黙が流れる。
「あのね、夢を見たの」
「夢?」
玲が怪訝そうに首を傾げる
「うん。夢。4年前のさ、私と玲が12と13の時の夢。恭さんと出会った時の夢だった」
あえて、もう1つの夢のことは言わなかった。それでも、壊れた私の涙腺からは涙が溢れてしまう。玲は、また視線を逸らした。
「なんで…泣くんだよ。お前らしくもない」
その言葉で何かが切れた。我慢してきたものが濁流のように溢れ出す。
「私らしいって何?わかんないよっ!恭さんもいなくなって、玲もいなくなって!私は、ただ皆といたかっただけなのに!何でそれすら叶わないの?恭さんがいないなら、玲がいないなら、私は、笑うことも泣くこともできないよ!!」
玲の、息を吸った音が響いた。カチリと視線が交わる。その瞳が哀しげに揺れた。
「…ごめん。ごめんな。俺は、お前に謝らなくちゃいけねぇんだ!あの日、恭哉を探しに行くと決めた日。お前を巻き込みたくなくて、俺はお前を傷付けた。雪が守られるほど弱くないなんて分かってたくせに。俺が、怖かった。誰も失いたくねぇと勝手に1人で怯えて!俺はっ…」
ああ。やっと、彼の気持ちを知れた。
「玲、もういいの。ありがとう」
「ゆ…き」
そうだ。私は最初から1人じゃなかった。
涙でぐしゃぐしゃの顔に笑みが浮かぶ。
「ねぇ、玲。髪、結んでよ」
ぐしぐしと着物の袖で涙を拭って、彼はにっと笑う。
「任せろ」
そして、玲は私の髪にぎこちなく触れた。
目を開ける。目の前には見慣れた自室の天井。
「あ…れ?」
「雪、起きたのかい」
そう言って部屋に入ってきたのは文さんだった。
「ゆ…め?」
「だろうね。だいぶうなされていたよ」
「文さん、私どうしたんですか?」
彼女はふっと笑うと、私の背に手を添えゆっくりと身体を起こさせた。
「覚えてないのも無理ないさ。あんた、妖退治の帰りに熱出して倒れたんだよ。それに妙な術にもかかっていたみたいでね。恐らく、悪夢を見せる術でも倒した奴にかけられたんだろう。それから2日間ずっと眠っていたよ」
そうだ。あの鳥の妖は悪夢によって人々を苦しめていた
「2日間…⁉️今はいつの何時ですか?」
「6月26日の午後1時だよ。で、あんたが倒れたのが24日だ」
我ながらよく眠ったものだと感心してしまう。
「ったく、だから無理するなって言ったんだよ。あんたは余程疲れていたってことだ。雪」
「えへへ。ごめんなさい」
やれやれという顔をした文さんの手がそっと額に触れた。
「まあ、熱は下がったみたいだね。そうだ。倒れたあんたを抱えてきたのは玲だよ」
「へ…?」
その名前に、一瞬呼吸が止まる。
「どうやらひょっこり帰ってきたみたいでね」
すると、外が騒がしくなり、部屋の扉がやや雑に開かれた。
「おい、ババア!飲み物とか買ってきた…ぞ」
そして彼は目を見開いた。
「相変わらず失礼な奴だね。あんたは」
呆れたように文さんがため息をつく。
「腹減っただろ?何か作ってくるよ。玲、雪のこと頼んだよ」
そう言って彼女は部屋から出て行き、玲と私の2人きりになった。玲はあぐらをかき、気まずげにちらりとこちらを見た。
「あー…。久しぶり、だな。雪」
「うん。久しぶり。玲」
懐かしい袴姿に、燃えるように赤い釣り目と端正な顔立ち。男性にしては珍しい、長い黒髪を高い位置で1つにまとめている。それは記憶の中の彼と何も変わっていなかった。
「全然変わらないね。連れ帰ってくれてありがとう」
「いや…構わねぇよ。でも、お前も変わらないな」
すると、彼の胸元で揺れる、瞳と揃いの色をした深紅の雫型の飾りがついたペンダントを見つけた。
「そのペンダント、まだ持ってたの?」
「ん?ああ。そういうお前もまだ持ってるんだな」
「うん。これは、私の宝物だから」
「そうか…。俺もだ」
しん、と沈黙が流れる。
「あのね、夢を見たの」
「夢?」
玲が怪訝そうに首を傾げる
「うん。夢。4年前のさ、私と玲が12と13の時の夢。恭さんと出会った時の夢だった」
あえて、もう1つの夢のことは言わなかった。それでも、壊れた私の涙腺からは涙が溢れてしまう。玲は、また視線を逸らした。
「なんで…泣くんだよ。お前らしくもない」
その言葉で何かが切れた。我慢してきたものが濁流のように溢れ出す。
「私らしいって何?わかんないよっ!恭さんもいなくなって、玲もいなくなって!私は、ただ皆といたかっただけなのに!何でそれすら叶わないの?恭さんがいないなら、玲がいないなら、私は、笑うことも泣くこともできないよ!!」
玲の、息を吸った音が響いた。カチリと視線が交わる。その瞳が哀しげに揺れた。
「…ごめん。ごめんな。俺は、お前に謝らなくちゃいけねぇんだ!あの日、恭哉を探しに行くと決めた日。お前を巻き込みたくなくて、俺はお前を傷付けた。雪が守られるほど弱くないなんて分かってたくせに。俺が、怖かった。誰も失いたくねぇと勝手に1人で怯えて!俺はっ…」
ああ。やっと、彼の気持ちを知れた。
「玲、もういいの。ありがとう」
「ゆ…き」
そうだ。私は最初から1人じゃなかった。
涙でぐしゃぐしゃの顔に笑みが浮かぶ。
「ねぇ、玲。髪、結んでよ」
ぐしぐしと着物の袖で涙を拭って、彼はにっと笑う。
「任せろ」
そして、玲は私の髪にぎこちなく触れた。
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