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ヒーローの憂鬱
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ひらり。今日も赤いマントと青いマントが、お日様の下で揺れています。
「皆をいじめるブルーマンめ!観念しろ!」
「はっはっは!やだね。スーパーレッドめ。観念するのはお前だ!」
アイスクリーム屋さんはがっかりした顔と泣き声でいっぱいだ。
「アイスを食べに来たのに、どのアイスも食べる前に地面に落ちちゃうなんて残念だなあ。今日一日皆はブルーだ!ヒヒッ」
「させないぞ!」
「フン。俺に勝てるものか!アイスクリームアタック!とりゃああ!」
すると、なんということでしょう。落っこちていたアイスクリームが浮き上がり、弾丸のようにスーパーレッドに襲いかかります。でも、こんなことで負けてしまうスーパーレッドではありません。すいすいとアイスクリームの雨を避けていきます。
「レッドパーンチ!」
アイスクリームの雨をかいくぐったスーパーレッドは、そう言ってブルーマンに向かっていきます。
「いたぁっ!このっ、覚えてやがれ!」
こうして、ブルーマンは去って行きました。アイスクリーム屋さんも元通りです。皆は嬉しそうに、アイスクリームに向き直ります。スーパーレッドは満足して家に帰ることにしました。
変身を解いたスーパーレッド。本当の名前はアキラくんと言います。アキラくんは、部屋のベッドに横になり、ボンヤリと天井を見上げています。
「今日も、お礼言ってもらえなかったなぁ」
アキラくんは、今までずっと皆のヒーローとして頑張ってきました。前は皆、「助かったよ。ありがとう」と言ってくれました。その度アキラくんの心はポカポカし、ぐんぐん力がわいてきたのです。
「ううん。お礼を言われる為にやってるんじゃないもんな」
心のモヤモヤは見ないふりをして、アキラくんは眠りにつきました。
次の日、アキラくんは、女の子二人のおしゃべりを聞きました。
「この前、バスを乗り過ごしちゃって、家に帰るのに倍の時間かかっちゃった」
「私も、ハンカチを水に落としちゃってさ」
そういうことで困っている子達を何度か助けたことがあります。でも、皆が覚えているのは「困りごとから助けられたこと」じゃなくて、「困りごとそのもの」なんだと思ったアキラくんはとても悲しくなりました。
(そんなのひどい。嬉しいことは忘れちゃって、悲しいことの方を覚えてるなんて…)
目に涙をためたアキラくんは、ブランコに座り込んだままうつむいていました。
「おい。何してんだよ。邪魔だぞ」
不機嫌そうな声がします。顔をあげたアキラくんの前には一人の男の子がいました。
「ブルーマン…じゃなくてシゲルくん?」
そこにいたのは、変身を解いたブルーマン。本当の名前はシゲルくんです。
「おい、次勝つのは絶対俺だからな!」
「…うん。そうだね。僕はもうヒーローを辞めるから、君が勝つね」
みるみるシゲルくんが、ブルーマンの名前の通り、真っ青な顔をします。
「はぁ?何で?急に何言ってんだよ!」
アキラくんは、うつむいたまま今日のことを話します。話すうちにまた涙が溢れました。
「だからっ、いくら僕がスーパーレッドとして皆を助けたって、もう誰も喜ばないんだ」
すると、暖かい手が涙を拭いてくれました。
「アキラ、それは違うぞ」
アキラくんはぽかんと口を開けてしまいます。
「お前が絶対皆を助けるって知ってるから、俺はたくさんイタズラできる。スーパーレッドってヒーローがいるから俺は存在できるんだ。少なくともアキラは俺を喜ばせてる。それに、他にもたくさんいるんだぜ」
「いるって何が?…えっ、うわあ!」
気がつくと、アキラくんはシゲルくんにブランコから突き落とされていました。目の前には、ブルーマンになったシゲルくんがいます。
「スーパーレッドめ!今日こそ俺の勝ちだ!」
慌てて、アキラくんもスーパーレッドに変身します。でも、もっと不思議なことが。
「スーパーレッドに手は出させないぞ!」
一人の男の子が、目の前に立ち塞がります。
「そうよ!今度は私たちがスーパーレッドを守るわ!」
さらに、女の子も側に来ます。そこで、スーパーレッドは思い出しました。この子達は、今までスーパーレッドが助けた子達です。胸がまたポカポカしてきます。そして、スーパーレッドは立ち上がりました。
「負けないぞ!ブルーマン!」
こちらを見て、ニヤリと笑うブルーマンは「ほらな」と言っているようでした。
「皆をいじめるブルーマンめ!観念しろ!」
「はっはっは!やだね。スーパーレッドめ。観念するのはお前だ!」
アイスクリーム屋さんはがっかりした顔と泣き声でいっぱいだ。
「アイスを食べに来たのに、どのアイスも食べる前に地面に落ちちゃうなんて残念だなあ。今日一日皆はブルーだ!ヒヒッ」
「させないぞ!」
「フン。俺に勝てるものか!アイスクリームアタック!とりゃああ!」
すると、なんということでしょう。落っこちていたアイスクリームが浮き上がり、弾丸のようにスーパーレッドに襲いかかります。でも、こんなことで負けてしまうスーパーレッドではありません。すいすいとアイスクリームの雨を避けていきます。
「レッドパーンチ!」
アイスクリームの雨をかいくぐったスーパーレッドは、そう言ってブルーマンに向かっていきます。
「いたぁっ!このっ、覚えてやがれ!」
こうして、ブルーマンは去って行きました。アイスクリーム屋さんも元通りです。皆は嬉しそうに、アイスクリームに向き直ります。スーパーレッドは満足して家に帰ることにしました。
変身を解いたスーパーレッド。本当の名前はアキラくんと言います。アキラくんは、部屋のベッドに横になり、ボンヤリと天井を見上げています。
「今日も、お礼言ってもらえなかったなぁ」
アキラくんは、今までずっと皆のヒーローとして頑張ってきました。前は皆、「助かったよ。ありがとう」と言ってくれました。その度アキラくんの心はポカポカし、ぐんぐん力がわいてきたのです。
「ううん。お礼を言われる為にやってるんじゃないもんな」
心のモヤモヤは見ないふりをして、アキラくんは眠りにつきました。
次の日、アキラくんは、女の子二人のおしゃべりを聞きました。
「この前、バスを乗り過ごしちゃって、家に帰るのに倍の時間かかっちゃった」
「私も、ハンカチを水に落としちゃってさ」
そういうことで困っている子達を何度か助けたことがあります。でも、皆が覚えているのは「困りごとから助けられたこと」じゃなくて、「困りごとそのもの」なんだと思ったアキラくんはとても悲しくなりました。
(そんなのひどい。嬉しいことは忘れちゃって、悲しいことの方を覚えてるなんて…)
目に涙をためたアキラくんは、ブランコに座り込んだままうつむいていました。
「おい。何してんだよ。邪魔だぞ」
不機嫌そうな声がします。顔をあげたアキラくんの前には一人の男の子がいました。
「ブルーマン…じゃなくてシゲルくん?」
そこにいたのは、変身を解いたブルーマン。本当の名前はシゲルくんです。
「おい、次勝つのは絶対俺だからな!」
「…うん。そうだね。僕はもうヒーローを辞めるから、君が勝つね」
みるみるシゲルくんが、ブルーマンの名前の通り、真っ青な顔をします。
「はぁ?何で?急に何言ってんだよ!」
アキラくんは、うつむいたまま今日のことを話します。話すうちにまた涙が溢れました。
「だからっ、いくら僕がスーパーレッドとして皆を助けたって、もう誰も喜ばないんだ」
すると、暖かい手が涙を拭いてくれました。
「アキラ、それは違うぞ」
アキラくんはぽかんと口を開けてしまいます。
「お前が絶対皆を助けるって知ってるから、俺はたくさんイタズラできる。スーパーレッドってヒーローがいるから俺は存在できるんだ。少なくともアキラは俺を喜ばせてる。それに、他にもたくさんいるんだぜ」
「いるって何が?…えっ、うわあ!」
気がつくと、アキラくんはシゲルくんにブランコから突き落とされていました。目の前には、ブルーマンになったシゲルくんがいます。
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慌てて、アキラくんもスーパーレッドに変身します。でも、もっと不思議なことが。
「スーパーレッドに手は出させないぞ!」
一人の男の子が、目の前に立ち塞がります。
「そうよ!今度は私たちがスーパーレッドを守るわ!」
さらに、女の子も側に来ます。そこで、スーパーレッドは思い出しました。この子達は、今までスーパーレッドが助けた子達です。胸がまたポカポカしてきます。そして、スーパーレッドは立ち上がりました。
「負けないぞ!ブルーマン!」
こちらを見て、ニヤリと笑うブルーマンは「ほらな」と言っているようでした。
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