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稼業が嫌で逃げたらそこは異世界だった

34.報奨金がすごいことになった件

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 リセたちを連れて村に戻った俺たちは、1日休んだ後に再び集まった。今回の件についてどうするかという話だ。
 俺たちは魔王軍幹部だったアッシュを退職に追い込んで、敵の計画を阻止した。ついでに大量発生しているゴブリンたちを討伐もしている。
 これがタダ働きだったら俺泣くぞ。いくらかでいいんで金が欲しい。元は俺たちの生活費を稼ぐために始めたことなんだからな。

「お待たせ諸刃」

 飛鳥がお供を引き連れてやってくる。よく見ると、アッシュと戦った時にいたお供とは別人のようだ。何かあったのだろうか。

「ねえ諸刃、前に連れてきた人と違う人を連れているわよ」

「主様、気を付けてください。ああいう女は男をとっかえひっかえしているようです。主様の貞操は、つつつつ妻である私、イリーナが守りますっ!」

「それだったらお友達の私だって守るんだからっ」

 両腕をリセとイリーナに掴まれて、俺は身動きが取れなくなる。飛鳥はイリーナとリセの言葉に顔を引きつらせていた。

『のじゃ、修羅場と両手に花を同時に成立させる……諸刃よ、意外とやるのう。私もぴとっとした方がいいのじゃろうか?』

「話がややこしくなる以前に刀にそんなことされてもうれしくない。刀にすり寄られたら、俺が怪我するだろうが!」

『……っち。爆発すればいいのじゃ』

「てめぇ、後で覚えてろよ……」

 『ひょほほほほほ』と笑うのじゃロリを無視して、飛鳥達に視線を移す。いまだ引きつった笑みから復活できてない飛鳥は、ふらふらとした足取りで椅子の上に座った。

「も、諸刃、違うの。全然違うんだから」

「いや、言い訳しなくていいから」

「本当に違うんだからぁぁぁぁぁっぁぁぁ」

 話が進まないのでやめてほしいのだが。それに俺は誤解も何もしていない。どうせ変わったのってあれだろう。この前アッシュを殺そうとしちゃった奴。あいつ言うこと訊かないから首にしたんじゃないの? それに、他のメンバーも、あの時ギャンブルしてたからね。首になっても仕方がない。
 だからと言って、俺が飛鳥に何か言うつもりもない。俺に剣術をやれと言ってきた飛鳥の困っているところを見ると、こう、なんだか楽しい気分になってくる。
 ちょっとだけ自分がゲスいことをしているんだなという罪悪感と、飛鳥の困った顔の面白さがぶつかり合ってる気がした。
 当然、面白い方を取ったがな。

「うう、あんたたちのせいで諸刃に変な誤解を与えたじゃないっ」

「飛鳥が男をとっかえひっかえしてるのが悪い。捨てられるってね、辛いのよ。心が痛むのよ。捨てないであげてよっ」

 リセは今までの捨てられた経験を思い出したのか、ちょっと遠い目をしていた。少しばかし瞳が潤んでいる。相当辛かったんだろうなと言うことがひしひしと伝わってきた。
 飛鳥も憐みの目をリセに向ける。いや、お前が向けるなと言いたいところだが……。

「お前ら、落ち着けよ。新しいお供の人たちも困っているだろう。それより飛鳥、さっさと話し進めようぜ」

「ごほん、そうね。さっさと話し進めましょう。私、あのお供捨ててないんだけどっ!」

「その話蒸し返すなよっ」

『のじゃ、めんどくさい女なのじゃ』

 それをのじゃロリに言われてしまったらお終いだと思う。この刀ほどめんどくさい奴はいない。
 俺が残念な視線を飛鳥に向けていると、飛鳥はお供に何かを伝えた。後ろで控えていたお供が、大きな袋を持って俺の目の前に置いた。重たげな音が響き、机は重さに耐えるかのように少し揺れた。

「金よ、受け取りなさい」

「は? いや、ちょっと待て。全然分からないんだけど」

 いきなり金渡されてもなんのこっちゃと困惑してしまう。リセは目の前の金を見てもなんとも思っていない様子だった。そう言えば、運だけは良いからな。賭け事で生活費稼げる類の人間だし。でも、イリーナの反応はちょっと違った。

「金で主様を買収しようなんて最低です。帰れっ!」

「なぁイリーナ。なんかお前、飛鳥のこと嫌ってないか?」

「そ、そうですね。昨日まではまだなんとか耐えられたんですけど、お供を捨てた様子を見るにあの人は良い上司じゃないと思うんですよ。それに、いつか主様も捨てる可能性も捨てきれないです。そうなったら主様が可哀そうで……」

「ちょ、ちょっとまって、私が変えたんじゃないんだけどっ」

 慌てて飛鳥が反論する。話進まないからやめてほしい。

「それより話を先に進めてくれ。この金はいったい……」

 飛鳥は「ごほん」と咳払いをした後、なんか真面目な表情になって説明を始める。

「あなたのおかげでアッシュが魔王軍を抜けたわ。一応魔王軍のアッシュは討伐されたということで、国から報奨金が出たのよ、私に」

 飛鳥は気まずそうに視線を逸らす。確かに、倒したのは俺であって飛鳥じゃない。まあそこは別にどうだっていいんだけどな。飛鳥がいなければ俺もやばかっただろうし、アッシュをどうにかできたのは皆の協力があってこそ。
 だけど目の前にある大金を見て、俺は思わず喉を鳴らした。
 もし、こんな大金があれば自分の店を立てられるんじゃないかと、本気で思った。

「というより、アッシュをどうにかしてからそんなに日にち経ってないんだけど。俺達まだ王都に戻ってないよね」

「まあそれはあれよ、物語的な補正がかかったのよ」

「いやちょっと意味が分からない」

「まあ、ちょっと言ってみたかっただけだから。本当はね」

 そう言って飛鳥が取り出したのは、俺がこの前見た魔王軍幹部の目撃情報を取り上げた新聞だった。
 そういえば、俺はこれを見て飛鳥の元に駆け付けたんだよな。

「この情報が出回る前から、国の特別な組織っていうのかな? 偵察部隊? よく分からないけど、そんな人たちがアッシュの動向を探っていたりなんなりしてたから、たまたま私たちとアッシュの戦いを見ていたんだって。それですぐに王様に連絡がいってたらしく…………今日、報奨金ということで金が届いたわ」

 それでこのお金か、と俺は一人納得したが、イリーナとリセは首を傾げていた。

「こういうのって、普通は王宮とかに呼ばれてもらうんじゃないの?」

「私もリセと同意見です。魔王軍を追っ払った英雄ですよ。政治的に活用することも考えて勲章を与えるなりすると思うのですが……。主様を利用しようとするやつらが現れたら、私が主様を護りますっ!」

「あ、ずるい、何諸刃を護ろうとしているのよ。それは私の役目よ! なんたって私は諸刃のおおおおお、お友達なんだから」

 チラチラと俺の様子を窺い、詰まりながらも俺を友達と呼んだ。リセの表情から「私、お友達ってことでいいんだよね」という不安がひしひしと伝わってくる。

「あー、そうだ、俺たちは仲間で友達な」

「私は妻がいいです」

「イリーナはぶれないな……。まあいいや。とりあえずそれは俺がもらっていいってことか」

「そうよ、だから勇者である私がわざわざ持ってきてあげたんじゃない。べ、別に諸刃に合いたくて私に来たんじゃないんだからね」

 なんか急にツンデレっぽくなる飛鳥を放っておいて、俺は渡された金を見る。飛鳥はなんかショボンとしているが、まあ放っておいていいだろう。
 渡されたお金が入っている袋に手をかけるとずっしりとした重量感が伝わってくる。
 じゃりじゃりとお金がこすれる音が聞こえてきて、突然どうしようもない不安が込み上げてきた。
 コレ、一体いくら入っているんだろう。

 鬼狩りとして仕事をしても、俺の手元に対してお金は入ってこなかった。バイトもちょっとしたけど長くは続かなく……。
 俺の収入源はじっちゃんが毎月くれるおこづかいだけ……。
 よくよく考えたら、鬼狩りとしての仕事をしていたけど、まっとうにお金を稼いだことがない!
 今になってとんでもない事実に気が付いてしまった俺は、急に目の前の大金がはいっているだろう袋が怖くなった。
 俺はこんな大金を持ってしまって大丈夫なのだろうか。悪い奴に襲われない?
 普段なら、悪い奴は鬼と一緒に切ってしまえと言えるのだが、この時はちょっと動揺していてそこまで頭が回らなかった。

 俺はーー莫大な報奨金を手に入れてお金持ちになった。
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