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悪役師匠は手がかかる!魔王城は今日もワチャワチャです
第八章 夜のお散歩
しおりを挟む「ふにゃ、ふにゃぁああ」
「おーよしよし、どうしたのポンちゃん」
その日の夜。みんなお風呂も済ませそろそろ寝ようかという頃、ポンちゃんがやけにグズりだした。オムツは綺麗だし、ミルクと離乳食もさっきお腹いっぱい食べたのに。どこか具合が悪いというよりは、なんだかモゾモゾとむずがっているみたいだ。
「眠いのに眠れないのかな。それとも少し暑いのかな」
ベランダにでも出てみようかなと思って廊下をウロウロしていると、お風呂から出た師匠が僕を見つけてやって来た。
「……どうかしたか……?」
「ポンちゃんが少しグズってて。ベランダで涼んでみようと思ったところです」
すると師匠は窓のほうに目を向け少し考えてから、僕の肩に手を添えた。
「……森へ……散歩に行くか……。まだ時間もそんなに遅くない……し、今夜は月が綺麗だ……」
思わぬお誘いに僕は嬉しくなってコクコクと頷いた。だってこの城に来てから夜は外に出たことちっともないんだもん。まだ子供だし、夜の森は危ないから仕方ないんだけどさ。
だから夜の散歩なんてワクワクするお誘い、行かないわけがない!
僕が自分と師匠の外套を取ってきている間、師匠はびしょ濡れの髪を魔法で乾かしていた。弟たちに見つかると一緒に来たがっちゃうから、こっそり静かに出ていく。夜に外に出ていいのは大人だけだからね、これは一番年上の僕の特権。
「わあ、なんか昼間とは違う匂いがする」
門を出て大きく息を吸い込むと、しっとりとした緑の香りがした。虫の声や鳥の声が聞こえて、夜の森は案外賑やかだ。木はどれも真っ黒で見分けがつかなくて怖いけど、空を見上げると枝の隙間から大きくて明るい満月が浮かんでいた。
「……足もとに気をつけなさい……」
師匠は魔法で足もとを明るく照らしてくれた。よく果実摘みに通る道が、今は全然違う道に見える。
「お日様が出てないだけで、いつもと違う場所に見えますね」
転ばないようにゆっくりとした足取りで進むと、師匠もそれに合わせて歩いてくれた。
「……古代、人は昼と夜でふたつの世界が存在すると考えていたほどだ。実際、野生生物は昼夜で活動する生態がガラリと変わるし、妖精界や魔界と現世との境目が夜は薄くなる。夜は違う世界であるというのは、あながち間違っていない……」
「そう考えるとなんだか不思議ですね。お城の中はあんまり変わらないのに、今この夜の世界には僕と師匠とポンちゃんしかいないような錯覚に陥ります」
暗闇に目が慣れてきたからか、森の中をチラチラと小さな光が舞っているのが見える。あれは発光する植物? 虫? それとも精霊だろうか。幻想的な光景が、ますます世界を隔て僕らしかいないように感じさせる。
ちょっぴり怖くなってきた僕は隣の師匠にそっと身を寄せた。察してくれたのか師匠は僕の肩に手を回し、抱き寄せてくれる。
「……大きくなったな……」
「え?」
師匠はこちらに視線を向け、しみじみした口調で言った。
「……初めて会った頃はピッケが小さすぎて、肩に手が回せなかった……」
そういえば、師匠は背が高いから昔は視線を合わせるのも大変だったことを思いだす。あの頃はよく師匠は屈んで目線を合わせて話をしてくれてたっけ。師匠の身長は百九十二センチもあるから、僕が子供の頃は七十センチも差があったんだ。
でも今はそれが二十七センチ差にまで縮まった。もう屈まなくても視線は合わせられるし、歩きながら肩も抱き寄せられる。少しずつ大人になって、師匠に近くなっていってる気がして嬉しい。
「師匠のおかげです。師匠が僕をここまで育ててくれたんですよ。ありがとうございます」
しみじとした気持ちになり感謝を告げれば、師匠は「……ん」と言ったまま黙ってしまった。その直後、グスグスと洟をすする音が聞こえて僕はビックリして彼を振り返る。
「えっ泣いてるんですか? な、なんで?」
「……ピッケが立派に成長して……感動している……。あのとき……あの冬の日……きみを買って本当によかった……」
師匠ってじつは涙もろいのかな。でも僕も弟の成長に感動することがよくあるから、気持ちはわかるよ。それに僕も、あの日師匠と出会えたことを心からよかったって思うから。
「師匠、僕を買ってくれてありがとうございます。僕ね、師匠のことが一番大好き。今までも、きっとこの先もずっと」
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