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悪役師匠は手がかかる!魔王城は今日もワチャワチャです
第七章 我が家のお風呂事情
しおりを挟む「はひ~のぼせた……」
いつまでも体の火照りが冷めない僕は、シャツのボタンをみっつ開け胸もとをパタパタと扇ぎながら廊下を歩いた。厨房で冷たい水を二杯も飲んでから、居間へと向かう。
「お風呂開いたよ。まだ入ってない人いる?」
晩ご飯のあとは大体みんな居間で過ごしている。お風呂の順番は決まっているわけではないので、入りたいときに入ったもん勝ちだ。
「ワイは一番風呂もろたで」
「ぼくももう済ませたよ」
「オレたちも入ったー」
「入ったー」
「俺は最後でいい」
次々に答えが返ってきたけど、僕は眉根を寄せて年下三人がトランプをやっている暖炉の前に向かった。
「ストック、フェッチ。まだ入ってないよね? 騙されないからな。きみたち走り回って埃っぽいんだからちゃんと毎日入って! アルケウス、この前もそう言ってサボったよね。きみも毎日入りなさい!」
男子あるある、お風呂サボりたがる。遊びに夢中で面倒くさいのはわかるけど、新陳代謝が活発な年頃なんだからちゃんと入ってほしい。
僕に見抜かれたストックとフェッチは「ちぇ~」とものすごく渋い顔をする。ところが。
「風呂かったるいんだよ。ピッケ、お前一緒に入れ。お前が俺を洗うってんなら入ってやらないこともない」
「は?」
アルケウスは開き直ってなんとも傲慢な命令をしてきた。僕を召使いかなんかだと思ってらっしゃる?
「お風呂くらいひとりで入りなさい、赤ちゃんじゃないんだから」
とことん呆れてお断りした僕だったけど、なんとストックとフェッチがキラキラした目をしてこちらを見つめていた。
「いいな、それ!」
「オレも兄ちゃんと入りたい!」
「ええ~、やだよ。大体僕もう入っちゃったし」
「じゃあ明日から!」
「一緒に入ってくれるならサボらない!」
僕はほとほと困ってしまった。
ストックとフェッチに限らず、弟たちはみんな甘えん坊だ。長兄としてはそれを受けとめてあげたいし可愛いとも思っている。……けど、最近思うんだ。みんなちょっと僕に甘えすぎじゃない?って。
「あかん、あかんって。兄やんはもう大人の男や。大人はひとりで風呂に入るもんや。なあ、兄やん」
そう言ってストックたちを窘めてくれたのはドゥガーリンだ。頼もしいし有難いと思うけど、彼は弟たちを嗜めつつ後ろから僕に抱きついてくる。説得力ないぞ。
ドゥガーリンはスキンシップが好きだ。それは昔から変わっていない。けど師匠や弟たちにはそれほどでもないんだよね。抱きついたり膝枕したり肩を組んだりするのは僕にだけだ。きっとこれって彼なりの僕に対する甘えなんだと思う。
「お兄ちゃんだってひとりの時間が必要だよね。お風呂くらいゆっくり入らなくっちゃ」
エルダールはじつに気の利くことを言ってくれながらも、僕の近くの椅子に移動してきた。
彼はベタベタくっついてきたりしないし、わがままを言ったりもしない。けれども気がつくとそばにいる。居間で、厨房で、庭で。香草の採取や買い物へも僕と行きたがるし、とにかく離れたくないみたい。『ひとりの時間が必要』と言うけれど、僕をひとりにさせないのは圧倒的にエルダールなんだよね……。
少し臆病な性格がそうさせているのかもしれないと思ってたけど、城の中にいるときは関係ないのでは?と最近気づいた。単に僕と一緒にいたいだけっぽい。これもやっぱり甘えの一種なんだろうな。
「じゃあ一緒にお風呂入るのはあきらめるから、明日オレたちと遊んで」
「かくれんぼしよう。あと馬乗りと魚獲りも」
ストックとフェッチはとにかく僕と遊んでもらいたがる。ふたりで遊んでても十分楽しそうなんだけど、僕の姿が見えるたび遊びに誘ってくるのだ。これも、他の兄弟にはそうでもない。
まあ子供らしい甘え方で微笑ましいとは思うけど、さすがに全部は付き合っていられないよ。
そんなふうにみんながワイワイ言うのを「チッ」と舌打ちで一蹴したのはアルケウスだ。
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