61 / 97
悪役師匠は手がかかる!魔王城は今日もワチャワチャです
第六章 生命の名前
しおりを挟む――トランプ大会は中止となった。
何故なら少年をこの城に迎えるにあたって重大な課題が発覚し、早期解決のため話し合いが行われたからだ。
「えーでは、第一回みんなで弟の名前を考えよう会議を始めます」
全員が集まった居間で僕が開会を宣言すると、ドゥガーリンが「よっ待ってました!」と合いの手を入れる。僕の隣の席に座っている少年は「なんで『第一回』なんだよ、二回目はないだろうが、クソが」と呆れたように呟いていた。この子ツッコミ適正あるな。
というわけで、僕らは至急少年の名前を考えなくてはいけない。何故なら彼には名前がなかったからだ。研究所では『実験体』とか『アレ』とか呼ばれてたんだって。ひど。
名前がないのは非常に不便なので早々に決めたいところだけど、これがなかなか簡単ではないのだ。
「いい案のある人は手を上げて発表してください」
早速案を募ると、すぐに手を上げたのはストックとフェッチだった。
「パンプキンパイ!」
「ミンスパイ!」
「それはきみたちの好物でしょ。ペットじゃないんだから食べ物の名前はどうかと思うよ」
「え~可愛くていいじゃん~」
「え~愛情持てそうなのに~」
いきなり先行き不安な提案に、たちまち少年の顔が曇る。
「ジャスミンはどうかな……。今、森でウィンタージャスミンが満開で綺麗なんだ」
次に手を上げたのはエルダールだった。花の名前とは彼らしい優美な提案だけど、人にはイメージってものがあるんだ。『殺す』が口癖で牛を丸齧りできる少年が、そんなプリンセスみたいな名前は如何なものか。
「そんな女みてえな名前ふざけんな」
ご本人から却下され、エルダールは「そっか……」としょんぼり肩を落とす。
「せやったらニャンニャンヘソノゴマはどうや? 竜の里に伝わる偉人の名前や、将来大物になるでえ」
ドゥガーリンの提案は真面目に言ってるのだろうか。いや、そんなことを思ったらニャンニャンヘソノゴマさんに失礼だな。けど。
「死んでも嫌だ。てめえふざけてんのか? 殺すぞ」
はい、物騒な口癖いただきましたー。全力で拒否されて、自信満々だったドゥガーリンはちょっとヘコんでいる。
「やっぱさあ、僕が最初に提案した六助がいいと思うんだよね。六人目の弟子だから六助」
晩ご飯時に僕が提案して速攻で却下された名前はやっぱり駄目だろうか? すごくいい名前だと思うんだけど。これが却下されたせいで揉めに揉めて会議を開く羽目になったんだよね。
けれど少年は和風テイストな名前は気に入らないようで、苦々しい顔で「だからそれは嫌だっつってんだろ」と訴える。うーん駄目かあ、六助。
名付けって難しい。飛雄や寒天たちのときはあっさり決まったんだけどな。魔物は和風ネームでも気に入ってくれるからありがたいよ。
するとずっと置物のようにスンとしていた師匠が、控えめに手を上げてボソボソと発言した。
「……アルケウス……」
「え?」
みんなが一斉に注目すると、師匠はコホンと咳払いをしてから小さく身ぶり手ぶりをして説明した。
「魔法学でいうところの……高次の非物質世界の側面であり物質世界のある特殊な、例えば火、金属などのエネルギーの生成にも起因されるが、西方の学者が八百年前に打ち立てた仮説によると」
「師匠、ひと言で」
「……肉体を動かす原動力、生命のことだ」
居間にいる全員から「へーっ」という感嘆の声が上がった。アルケウス、生命。……うん、素敵な名前だと思う。
師匠はチラリと少年を見やると、さっきより少しきっぱりとした口調で言った。
「……きみは自分の生い立ちに、喜びばかりではない感情もあるだろう。だが……造られた器に生命を宿したきみの存在は奇跡だ……誇りを持ってその命を大切にしてほしい……」
贈られた真摯な言葉に、少年はグッと唇を噛みしめた。赤い瞳に光が生まれたように見えたのは、きっと気のせいじゃない。
「どう? アルケウスだって。僕は素敵だと思うけど」
「ワイもナイスやと思うわ。師匠にしてはええセンスや」
「ぼくも賛成かな。きみに合ってると思うよ」
「いいじゃん、アルケウス!」
「カッコいいじゃん!」
果たしてこの名前がお眼鏡にかなうのか、皆が少年に注目する。彼はどこか気恥ずかしそうに口をモゴモゴさせると、プイとそっぽを向いて呟いた。
「……てめえらがいいと思うなら勝手に呼べばいいだろ。好きにしろ」
なんというツンデレな回答。要は気に入ったんだね。
僕らはみんな満面の笑みになると一斉に拍手をした。今日はなんておめでたい日だろう、新しい家族が加わったうえ新しい名前まで決まるなんて!
「おめでとう、アルケウス。改めてこれからよろしくね」
アルケウスに向かって手を差し出すと、彼は再びそっぽを向いてしまった。さすがに握手はしてくれないか。まあ、手を叩かれなかっただけいいかな。……と思っていたら。
「言っとくが俺はてめえを『兄ちゃん』なんて反吐が出る呼び方はしねえからな、ピッケ」
吐き捨てるようにそう告げて、アルケウスは僕の指先を一瞬だけ握った。もしかしてこれってツンデレのデレの部分じゃない? デレあった!
兄ちゃんって呼ばれなくても、口癖が物騒でも、僕はこの新しい弟のことをとっても可愛いなって思ったんだ。
66
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。
[名家の騎士×魔術師の卵 / BL]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる