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悪役師匠は手がかかる!魔王城は今日もワチャワチャです

第六章 生命の名前

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 ――トランプ大会は中止となった。

 何故なら少年をこの城に迎えるにあたって重大な課題が発覚し、早期解決のため話し合いが行われたからだ。

「えーでは、第一回みんなで弟の名前を考えよう会議を始めます」

 全員が集まった居間で僕が開会を宣言すると、ドゥガーリンが「よっ待ってました!」と合いの手を入れる。僕の隣の席に座っている少年は「なんで『第一回』なんだよ、二回目はないだろうが、クソが」と呆れたように呟いていた。この子ツッコミ適正あるな。

 というわけで、僕らは至急少年の名前を考えなくてはいけない。何故なら彼には名前がなかったからだ。研究所では『実験体』とか『アレ』とか呼ばれてたんだって。ひど。

 名前がないのは非常に不便なので早々に決めたいところだけど、これがなかなか簡単ではないのだ。

「いい案のある人は手を上げて発表してください」

 早速案を募ると、すぐに手を上げたのはストックとフェッチだった。

「パンプキンパイ!」
「ミンスパイ!」

「それはきみたちの好物でしょ。ペットじゃないんだから食べ物の名前はどうかと思うよ」

「え~可愛くていいじゃん~」
「え~愛情持てそうなのに~」

 いきなり先行き不安な提案に、たちまち少年の顔が曇る。

「ジャスミンはどうかな……。今、森でウィンタージャスミンが満開で綺麗なんだ」

 次に手を上げたのはエルダールだった。花の名前とは彼らしい優美な提案だけど、人にはイメージってものがあるんだ。『殺す』が口癖で牛を丸齧りできる少年が、そんなプリンセスみたいな名前は如何なものか。

「そんな女みてえな名前ふざけんな」

 ご本人から却下され、エルダールは「そっか……」としょんぼり肩を落とす。

「せやったらニャンニャンヘソノゴマはどうや? 竜の里に伝わる偉人の名前や、将来大物になるでえ」

 ドゥガーリンの提案は真面目に言ってるのだろうか。いや、そんなことを思ったらニャンニャンヘソノゴマさんに失礼だな。けど。

「死んでも嫌だ。てめえふざけてんのか? 殺すぞ」

 はい、物騒な口癖いただきましたー。全力で拒否されて、自信満々だったドゥガーリンはちょっとヘコんでいる。

「やっぱさあ、僕が最初に提案した六助ろくすけがいいと思うんだよね。六人目の弟子だから六助」

 晩ご飯時に僕が提案して速攻で却下された名前はやっぱり駄目だろうか? すごくいい名前だと思うんだけど。これが却下されたせいで揉めに揉めて会議を開く羽目になったんだよね。

 けれど少年は和風テイストな名前は気に入らないようで、苦々しい顔で「だからそれは嫌だっつってんだろ」と訴える。うーん駄目かあ、六助。

 名付けって難しい。飛雄や寒天たちのときはあっさり決まったんだけどな。魔物は和風ネームでも気に入ってくれるからありがたいよ。

 するとずっと置物のようにスンとしていた師匠が、控えめに手を上げてボソボソと発言した。

「……アルケウス……」

「え?」

 みんなが一斉に注目すると、師匠はコホンと咳払いをしてから小さく身ぶり手ぶりをして説明した。

「魔法学でいうところの……高次の非物質世界の側面であり物質世界のある特殊な、例えば火、金属などのエネルギーの生成にも起因されるが、西方の学者が八百年前に打ち立てた仮説によると」

「師匠、ひと言で」

「……肉体を動かす原動力、生命のことだ」

 居間にいる全員から「へーっ」という感嘆の声が上がった。アルケウス、生命。……うん、素敵な名前だと思う。

 師匠はチラリと少年を見やると、さっきより少しきっぱりとした口調で言った。

「……きみは自分の生い立ちに、喜びばかりではない感情もあるだろう。だが……造られた器に生命を宿したきみの存在は奇跡だ……誇りを持ってその命を大切にしてほしい……」

 贈られた真摯な言葉に、少年はグッと唇を噛みしめた。赤い瞳に光が生まれたように見えたのは、きっと気のせいじゃない。

「どう? アルケウスだって。僕は素敵だと思うけど」

「ワイもナイスやと思うわ。師匠にしてはええセンスや」

「ぼくも賛成かな。きみに合ってると思うよ」

「いいじゃん、アルケウス!」
「カッコいいじゃん!」

 果たしてこの名前がお眼鏡にかなうのか、皆が少年に注目する。彼はどこか気恥ずかしそうに口をモゴモゴさせると、プイとそっぽを向いて呟いた。

「……てめえらがいいと思うなら勝手に呼べばいいだろ。好きにしろ」

 なんというツンデレな回答。要は気に入ったんだね。

 僕らはみんな満面の笑みになると一斉に拍手をした。今日はなんておめでたい日だろう、新しい家族が加わったうえ新しい名前まで決まるなんて!

「おめでとう、アルケウス。改めてこれからよろしくね」

 アルケウスに向かって手を差し出すと、彼は再びそっぽを向いてしまった。さすがに握手はしてくれないか。まあ、手を叩かれなかっただけいいかな。……と思っていたら。

「言っとくが俺はてめえを『兄ちゃん』なんて反吐が出る呼び方はしねえからな、ピッケ」

 吐き捨てるようにそう告げて、アルケウスは僕の指先を一瞬だけ握った。もしかしてこれってツンデレのデレの部分じゃない? デレあった!

 兄ちゃんって呼ばれなくても、口癖が物騒でも、僕はこの新しい弟のことをとっても可愛いなって思ったんだ。
 
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