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悪役師匠は手がかかる!魔王城は今日もワチャワチャです

第五章 ふたりの魔法

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「入り方はわかる? 湯船のお湯と石鹸で体と頭を洗って……」

 うちのバスルームはそんなに広くない。せいぜい子供がふたり入れるくらいの銅製のバスタブと小さな洗い場だけ。ただしこの世界では珍しくバスタブで直接お湯を沸かす形式だ。

 中世ヨーロッパに近いこの世界では別の場所で湯を沸かしバスタブに注ぐのが一般的なんだけど、それじゃあ大変だからって師匠が改良してくれたんだ。いわゆる五右衛門風呂方式。師匠が魔法で水を注いでくれたら、あとは薪をくべて火を着けるだけ。追い炊きもできて便利。

 エルダールが調合してくれた石鹸や入浴剤もあるし、この世界にしてはかなり清潔で文化的なお風呂だと思う。ただし。

「あれ。まだ水張ってなかったや」

 準備が必要なのは仕方ない。前世みたいに蛇口をひねればシャワーが出るほど便利なわけじゃないからね。

 師匠もさっきまで森に行ってたし僕もご飯の準備中だったから、まだお風呂の準備をしてなかった。水浴びで体を洗うには寒いし、急いでお湯を沸かさなきゃ。

「ちょっと待ってね。今急いでお湯の用意するから」

 そう言って師匠を呼んで来ようとしたときだった。

「ここにお湯を入れればいいの?」
「オレたちがやってあげよっか?」

 思わぬことを言いだしたふたりに、僕はキョトンとする。

 するとストックとフェッチはニッと笑って頷き合い、向き合って手を繋いだ。

「滴れ水、溢れるほどに!」
「灯せ火、燃え上がるほどに!」

 声高らかにふたりが唱えると、たちまちバスタブには波打つほどの水が満ち、薪が轟轟とすごい勢いで燃え出した。

「魔法……!?」

 僕はビックリしてそのさまを見つめる。僕ら以外で子供が魔法を使っているの、初めて見た。しかもこんな小さいのに。

 バスタブからはあっという間にホカホカの湯気が立ちのぼり、薪の火は勝手に鎮火した。すごい、これだけの魔法の使い手ならふたりだけで森を生き延びたのも納得だ。

「きみたち、すごいね! 魔法誰に教わ……」

 興奮気味に振り返った僕の目に映ったのは、一瞬で服を脱ぎ捨て浴槽に向かってジャンプするふたりの姿だった。

「「ひゃっほーい!!」」

「ぅわっぷ!」

 バッシャーンという派手な音と共に水柱を上げて浴槽に飛び込んだストックとフェッチは、大はしゃぎでお湯をかけあって遊ぶ。近くにいた僕は全身ずぶ濡れになり、力なく笑うしかなかった。

「い……今、誰か魔法を使わなかったか……?」

 すると、師匠が珍しく走ってやって来た。ストックとフェッチの魔力を感知したのだろう。運動が苦手で滅多に走らないのに、こういうときは迅速に駆けてくるのいかにも師匠らしい。

「このふたりが水魔法と火魔法を使ってお風呂を沸かしたんです」

 僕がそう説明すると師匠は好奇心に瞳を輝かせ、水飛沫がかかるのもものともせずバスタブに近づいていった。

「きみたちは……元素魔法が使えるのか?」

「使えるよ!」
「オレたち半分妖精だから!」

 ストックとフェッチは答えながら指先で水を小さく操り、それを師匠の顔にぶつけてゲラゲラ笑っている。怖いもの知らずだなあ。

 しかし師匠も師匠でそんなことには動じず、はしゃぐふたりの手を掴まえて眺めては「……なるほど、ほぼ同じ魔力だ……」と勝手に解析していた。

 お風呂に入りながらストックとフェッチが話してくれたのは、赤ん坊のときにチェンジリングされたふたりの奇妙な顛末だった。
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