7 / 97
悪役師匠は手がかかる!魔王城は今日もワチャワチャです
第一章 転生後の奴隷人生
しおりを挟む長かったような刹那だったような眠りから目が覚めたとき、僕の新しい人生が始まっていた。
名前はピッケ。姓はアンダーソン。そこは日本でも地球でもない、不思議な異世界だった。
中世ヨーロッパに似ているといえば似ているのだけど、魔法があって魔物やドラゴンやエルフがいるこの世界はまるっきりファンタジーだ。前世の記憶を持ったまま生まれてきた僕はまるで物語のような世界観にとても感激したけれど、やがてそんな呑気なことに心動かされている場合ではなくなった。
どうやら僕の魂は転生しても家族運というものに無縁らしい。いや、親運? 前世では早々に両親を亡くした僕は、今世では我が子を虐待するというとんでもないロクデナシ両親のもとに生まれてしまったのだ。
貧しい家なのに両親は揃って飲んだくれで、酔っ払っては僕に暴力をふるった。兄弟がいなかったのは幸か不幸か、こんなクズ親のもとに生まれるのは僕ひとりで十分だけど。
クズとしか言いようのない両親は僕が八歳のときにクズ度を加速させた。なんと、わずかな酒代のために僕を奴隷商人に売り飛ばしたのだ。クズオブクズすぎる!
泣いて嫌がる僕を奴隷商人は鞭で容赦なく叩き、鎖をつけて馬車に載せ、あちこちの街へ連れ回した。そうして二ヶ月くらい経った冬の日だっただろうか。王都から遠く離れたとある街で、あの人に出会ったのは――
「さあさあ奴隷はいらんかね。健康な子供を揃えたよ。力仕事でも汚れ仕事でもさせるといい」
街の大通りの一角で、奴隷商人が大声で通行人に呼びかける。その脇に僕は他の子供たちと一緒に項垂れて立った。
この世界は地球の中世ヨーロッパ風だとは思っていたけど、人身売買が当然のように行われるらしい。僕らみたいな奴隷だけでなく、辺りでは獣人の傭兵や愛玩の妖精など多種多様な人身売買が行われていた。
「なんだ、人間かよ。エルフはないのか?」
「エルフはそうそう手には入らなくて……。けど人間が一番従順で扱いやすいですよ、鞭で叩けば反抗しません」
「うーん、やっぱりいいや。夜伽用が欲しかったんだが、こ汚いガキばっかじゃあな」
金持ちらしい身なりをしたおっさんが手を振って去っていくと、奴隷商人はチッと舌打ちして隣にいた僕を鞭で叩いた。
「クソ! ただでさえ人間は安値でしか売れないのに、お前らが汚いせいでますます売れないじゃないか!」
僕らを風呂に入れさせてくれないのも着替えさせてくれないのもコイツなのに、酷い八つ当たりだ。そんな不満がうっかり顔に出てしまったのだろう、奴隷商人は「なんだ、その目は!」とさらに大きく鞭を振りかぶる。思わず身を竦ませ手で頭を覆ったときだった。
「あいででででで!?」
鞭を振り上げた奴隷商人の腕を、誰かが強く掴み上げる。驚いて目を見開いた僕の瞳に映ったのは、黒い外套を纏ったやたら大きな人影だった。
「……さっきから尋ねているんだが、聞こえないのか。その耳は飾りか」
奴隷商人の悲鳴に掻き消されそうなほど小さな声は、低いけれど鋭く耳に届いた。僕は自分の背より遥か上にある彼の顔を見上げて、ゴクリと唾を呑む。
冬の鈍色の空に靡くのは、同じ色をした長い髪。氷のように冷たい目は伏し目がちで、長い睫毛の奥に月色の瞳が隠されている。細面の顔は雪のように色白で、まるで氷の彫刻のように美しかった。
110
お気に入りに追加
244
あなたにおすすめの小説

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする
拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。
前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち…
でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ…
優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】



幸福からくる世界
林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。
元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。
共に暮らし、時に子供たちを養う。
二人の長い人生の一時。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる