33 / 67
【浮気な彼氏#12-1】暁都さんの癒えない傷と言えない話
しおりを挟む
元彼と会うのを明日に控えた今日。ついあれこれ考えてしまいモンモンとするけれど、気晴らしに出かけたくても生憎の雨。
だから僕らは1日家にいることにした。
仕事部屋で籠って作業するという暁都さんに、コーヒーでも差し入れしようかと思って部屋の前まで来たのだが。
『・・らもう電・・るなっ・・だろ!』
珍しく声を荒げている声が漏れ聞こえてきた。
誰かと電話でもしてるんだろうか。
何だろう仕事で揉めてるとか?出来心で僕はドアに耳をそば立てた。
『だから・・絡は・・を通して・・っただろ。無理むり。離・・んだから俺・・るな。そんじゃ』
こんな暁都さんは初めてだった。
でもどうしたんだろう。仕事関連じゃないと思う。感じたことのない違和感に覆われていた。
昼。仕事部屋から出てきた暁都さんに僕は思い切って聞いてみた。
「すみません、さっき電話してる声がちょっと聞こえちゃったんですけど・・何かあったんですか?」
変な遠慮はしないってお互い決めたんだ。元彼の時みたいに、浮気してると半ば確信しつつ何も聞かないなんて、もうしない。
「ああ、あれ。聞かれちゃったかあ・・」
困ったように眉を下げ、頭を掻いた。チラリと赦しを乞う様にこちらを見ている。珍しかった。
でも暁都さんは結局折れて話し出した。
「その、ね。前付き合ってた子の話したでしょ。揉めて別れた子。今になって色々連絡してくんの。だからそう言うのもう辞めてねーって話してたんだよ」
「そうだったんですか」
つい目を見開いて驚いてしまった。暁都さんがそんなことに悩まされていたなんて知らなかった。
「そ。・・困るよな本当。あっでもやり直すつもりは一切ないからそこは安心して!
ただな、前一緒に住んでたもんでさ・・関係解消に当たって色んな手続きが・・ある訳よ、ホント、色々と・・」
珍しく物凄く歯切れが悪い。いつも立て板に水のごとくペラペラ喋るのに。
「あ、一緒に住んでたってのはこの家じゃないからね!それは昔の話でさ・・」
こんな悲しそうな顔、初めてだった。
「前はね俺、東京に住んでたんだよ。東京タワー見える部屋でさ。家賃くそ高いのに狭かったよなあ、あのマンション。誰かと住むにはなあ」
あははと乾いた笑い。それは心底悲しい思いをしないと、出ない笑いで・・。
「・・近くに花屋とケーキ屋があってさあ。よく買ってたよな俺も。あの子喜ぶかなとか思って・・」
僕はただ頷いた。
いま僕にしてくれてるみたいに、他の誰かを喜ばせようとしてた時があったんだなあと少し寂しかった。僕だけの暁都さんじゃないんだ、当たり前だけど。
彼はぽつぽつと続けた。
「・・あれは寒い冬の日のことだったなあ。いつもは仕事終わったら喫茶店でコーヒー飲んで帰るんだけど、あの日は何か気まぐれでまっすぐ帰って・・」
宙を見つめる彼の瞳が、脳裏の記憶を辿っている。僕の知らない『あの日』を思い返している暁都さんは、やがてギュッと瞳を閉じた。
「・・・。
・・・・・・。
・・ごめん、隠すつもりは、ないんだけど。でも俺もう前のことは何も思い出したくないんだ、ごめん・・でもいずれちゃんと、話すから」
暁都さんは苦しそうに顔を手で覆ってしまった。よっぽど嫌な記憶だったんだろう。その様子を見て僕は胸がギュウっとなった。
僕自身、元彼の浮気現場に遭遇した日のことを思い出していた。・・暁都さんにも、まさか同じことが?
「・・僕がそばに居ます」
その言葉は自然に出た。でもそれは単なる同情心じゃなかった。
暁都さんはそっと僕を見上げた。
未だ苦悩に満ちた顔。彼をこんな風にした誰かが、許せなかった。
暁都さんを守りたいと、初めて思った。
続く
だから僕らは1日家にいることにした。
仕事部屋で籠って作業するという暁都さんに、コーヒーでも差し入れしようかと思って部屋の前まで来たのだが。
『・・らもう電・・るなっ・・だろ!』
珍しく声を荒げている声が漏れ聞こえてきた。
誰かと電話でもしてるんだろうか。
何だろう仕事で揉めてるとか?出来心で僕はドアに耳をそば立てた。
『だから・・絡は・・を通して・・っただろ。無理むり。離・・んだから俺・・るな。そんじゃ』
こんな暁都さんは初めてだった。
でもどうしたんだろう。仕事関連じゃないと思う。感じたことのない違和感に覆われていた。
昼。仕事部屋から出てきた暁都さんに僕は思い切って聞いてみた。
「すみません、さっき電話してる声がちょっと聞こえちゃったんですけど・・何かあったんですか?」
変な遠慮はしないってお互い決めたんだ。元彼の時みたいに、浮気してると半ば確信しつつ何も聞かないなんて、もうしない。
「ああ、あれ。聞かれちゃったかあ・・」
困ったように眉を下げ、頭を掻いた。チラリと赦しを乞う様にこちらを見ている。珍しかった。
でも暁都さんは結局折れて話し出した。
「その、ね。前付き合ってた子の話したでしょ。揉めて別れた子。今になって色々連絡してくんの。だからそう言うのもう辞めてねーって話してたんだよ」
「そうだったんですか」
つい目を見開いて驚いてしまった。暁都さんがそんなことに悩まされていたなんて知らなかった。
「そ。・・困るよな本当。あっでもやり直すつもりは一切ないからそこは安心して!
ただな、前一緒に住んでたもんでさ・・関係解消に当たって色んな手続きが・・ある訳よ、ホント、色々と・・」
珍しく物凄く歯切れが悪い。いつも立て板に水のごとくペラペラ喋るのに。
「あ、一緒に住んでたってのはこの家じゃないからね!それは昔の話でさ・・」
こんな悲しそうな顔、初めてだった。
「前はね俺、東京に住んでたんだよ。東京タワー見える部屋でさ。家賃くそ高いのに狭かったよなあ、あのマンション。誰かと住むにはなあ」
あははと乾いた笑い。それは心底悲しい思いをしないと、出ない笑いで・・。
「・・近くに花屋とケーキ屋があってさあ。よく買ってたよな俺も。あの子喜ぶかなとか思って・・」
僕はただ頷いた。
いま僕にしてくれてるみたいに、他の誰かを喜ばせようとしてた時があったんだなあと少し寂しかった。僕だけの暁都さんじゃないんだ、当たり前だけど。
彼はぽつぽつと続けた。
「・・あれは寒い冬の日のことだったなあ。いつもは仕事終わったら喫茶店でコーヒー飲んで帰るんだけど、あの日は何か気まぐれでまっすぐ帰って・・」
宙を見つめる彼の瞳が、脳裏の記憶を辿っている。僕の知らない『あの日』を思い返している暁都さんは、やがてギュッと瞳を閉じた。
「・・・。
・・・・・・。
・・ごめん、隠すつもりは、ないんだけど。でも俺もう前のことは何も思い出したくないんだ、ごめん・・でもいずれちゃんと、話すから」
暁都さんは苦しそうに顔を手で覆ってしまった。よっぽど嫌な記憶だったんだろう。その様子を見て僕は胸がギュウっとなった。
僕自身、元彼の浮気現場に遭遇した日のことを思い出していた。・・暁都さんにも、まさか同じことが?
「・・僕がそばに居ます」
その言葉は自然に出た。でもそれは単なる同情心じゃなかった。
暁都さんはそっと僕を見上げた。
未だ苦悩に満ちた顔。彼をこんな風にした誰かが、許せなかった。
暁都さんを守りたいと、初めて思った。
続く
64
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶のみ失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
アルファとアルファの結婚準備
金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。 😏ユルユル設定のオメガバースです。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる