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【ヤンデレメーカー#33】悲鳴を聞く者

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※藍視点→雷視点にかわります。
 


「ま、それはさておきね?
あなたには僕に協力してもらわなきゃいけないんですよ」

記者の男は僕ににじり寄る。

「い、いや…辞めて…こっち来ないで…」

ドッスとベッドに上がり込まれる。少し酒の匂いを含ませたダークスーツの男が目の前に迫る。

「さあ吐いてもらいましょうか」
いきなり毛布を捲られて、太ももを撫で上げられる。悪
寒がした。

「あなたは誰?どうして彼らのところに来た?テディくんの何を知っている?テディ君とは今までどんなコスプレセックスをキメてきたんです?あんな可愛い顔してテディくんて結構変態なんですかね?あなたも」

「しっ知らない!!!」

ひっくり返った声。

「あらら突然の記憶喪失ですか?…そういう時は荒治療って相場は決まってますよねえ」

記者の男はダークスーツの上着を脱いだ。色気漂う綺麗な顔して、そのくせ性根は腐り切っている。
僕の顔の両脇に手をついて、僕を見下ろした。

「喋ってくれないと最悪のハメ撮りかますことになりますよ」
「い、いや!やだあああ!!!!」


■■■


ハッとして目が覚めた。
藍の悲鳴が聞こえた気がしたのだ。
起き上がって時間を確認すると、それは随分早い時間を示している。

…夢か…。

がりがりと頭を掻く。今日もライブ。リハーサルの前に自主練しにいかなきゃならない。
1人の部屋でコーヒーだけ飲んで、俺はジャケットを掴んで部屋を出た。

藍に習ったレシピは振る舞う機会はこないまま。
 


それにしても藍が助けてって俺に言ってくる夢みるなんて。俺は随分女々しい野郎だったらしい。

しかし何なのだろう、この言いようのないざわざわ感は。耳に残る藍の悲鳴は随分リアルだ。俺は聞いたことないはずなのに。
家を出て、見上げた空は重く曇っている…。


 
■■■


その日、リハーサルにテディは大幅に遅刻した。
事故にでも…と皆が心配し出した頃、奴はすみませんと息せき切って現れた。こんなに遅れるのは珍しかった。

テディは休憩時間の合間合間に携帯ばかりチェックして、心底狼狽えていて明らかに顔色が蒼かった。訳もなくウロウロと歩き回っては適当に座り込み、大きな手で顔を覆った。

あまりに様子がおかしいんで俺は休憩時間に声を掛けた。

「おい、どうしたんだよ」

ひどく落ち着かない様子で、頭を軽く振ってテディは答えた。

「藍。藍がいないんだ…」
「…そりゃ前からだろ」

テディはグッとなにか辛いものを飲み込むみたいな顔をして、俺を見上げた。

「……そうだったね…」

おかしい。俺はピンと来た。今までの白々しい演技なんかじゃない。これが演技ならコイツは主演男優賞モノだ。

だけど違う。これは本物の喪失を体験した顔だ。
藍はテディに軟禁状態のまま、コッソリ一緒に出ていったモンだと思っていた。

俺を置いて。

俺のものになってくれないかと不器用ながら気持ちを伝えた日のことを苦い思いで振り返る。

断られて随分激昂してしまったあの日…。
結局藍はテディを選び、まあ何だかんだとよろしくやってるのだろうと思っていたけれど。
何かが変わってしまったというのか?

「テディ。もう本番始まるぞ。気持ち入れ替えろよ」
「…ああ、うん。…今行くよ…」

よろよろ立ち上がる。あのテディが俺が手引っ張ってやらないと立ち上がれない、みたいな寄るべなさで…。
俺は本格的に違和感を感じていた。
おかしい。これはちょっとした喧嘩で出てったとかそういう感じじゃない。

俺の前をどうにかよろよろ歩いていくテディ。廊下でデカい背中がやけに小さく見える。
藍…?なにか事件にでも…?

 
…いつもみたいに頭の中で声がする。

『藍なんか放っておけよ』『どうせお前を選ばない』『心開いたってどうせ捨てられるだけ』『お前にそんな価値ない』『母親からも見捨てられたお前』『誰にも期待するなよ』

俺に話しかける、もう1人の俺…。
 

でももしも今朝方の夢が何かの予兆なら。
ギュッと手のひらを握った。雑念を振り払った。

「待てよテディ」
「!」

その胸ぐらを掴んで言った。

「お前、藍のことで何か隠してるんだろ、言えよ!!」
「何言って…」
「お前が藍を閉じ込めてたことくらい、俺は知ってんだよ!!!そんで逃げられたっきりなら、俺は承知しないからな!!」

ギクとその瞳を見開いたテディ。


 
誰かのために激昂するなんて俺らしくない。
誰かに関心を持つのも。
誰かに心乱されるのも。
だけど無機質な自分を今度こそ辞めれるかもしれない。藍にまた会えたら。
 




 
続く
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