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【ヤンデレメーカー#21】泣いても助けてくれない

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テディは執拗な男だった。一度一線を越えてしまえば、あとは何百回抱こうが同じだとでも言わんばかりに。

「藍。ちゃんと立てよ。そこに手ついて、脚開いて。こうだよ、ほら!」

グイとあられもない格好させられて、僕は何も言い返せない。

「…はい…」

僕を冷たくも熱い視線で見下ろすテディに、僕は逆らえなかった。

「藍、素直な子って大好きだよ。…素直なうちはね」

ばしん!と僕を太腿あたりを強く叩いた。したたかな痛みに顔をしかめる。
可愛かった歳下くんはもういない。いや最初からどこにもいなかったのかもしれない。

 
■■■

寒気がする。行為が終わってもテディは服着せてくれないから。
大きい大きいテディ用のバスタオルで雑に包まれて、それだけ。いつでもヤれるから良いじゃんとテディは言うけれど。

「…テディ。さむいよお…」
「んー?俺が看病してあげるよ」

信じられないけど、バスタブに強引に敷いた布団でずっと寝泊まりしている僕。

「風邪でごほごほしたらねえ、俺が面倒見てあげる…お粥、りんご、ゼリー。何でもあーんしてあげる。熱だって測ってあげるし、そばにずっと一緒にいてあげる…」

それは自分がかつてして欲しかったことだろう?テディ…。

褐色肌の大きな両手が、僕の頬を嬉しそうに包んだ。あったかさは感じない。感じることのできない体温。
僕はまっすぐテディに見つめられるのが居た堪れなくて瞳を閉じた。
 

 
風邪をひきそうだという懸念は当たった。僕はじきに風邪を引いた。寒い、悪寒がする。ぶるぶる震える身体を持て余していると、テディは僕に彼のジャンパーを渡してきた。

裏がボアになってて確かにあったかいけれど、それを着ているとテディにそっといつまでも抱きしめられている感じがして、僕はこわかった。

「藍。藍。お熱が出たねえ。風邪薬置いておくよ。今日

だけお布団あったかいのだしといてあげる。俺今日は遅いけど、なるべく早く帰ってくるから。良いこで待っててねえ」
優しくやさしく僕を撫でて出ていった…。
 
 
ひとりぼっちのバスルーム。まただ。
具合の悪さと孤独が相待って、僕は泣いた。泣けてきた。

「…誰か…誰かあ…!誰か来てよお…!!うっえ、え…」

何だか自分まで子供じみた泣き方をしているなと気づいて、大分テディに毒されてしまった自分にギクっとして、またこわくて僕は泣いた。
見下ろす僕の身体は噛み跡、あざ、ぶたれた痕だらけだ。僕をいじめるだけの存在だったらだいっ嫌いになれたのに、テディは快楽もまた与えてきたのだった。…大っ嫌いでただ怖い子だったら良かったのに…。
ここで飼われて死んでいくんだろうか?僕はどうなってしまうの?将来が不安過ぎてヒックひくとしゃくりあげた。

「…藍」
「!!」

その時いきなり聞こえた中性的な声。振り向いた。

「ら、雷さん…?」

コソッと壁に忍び寄る様にして、雷さんは眉根を寄せて僕を見つめていた。
もしかしたら助けてくれるかもしれないとひっそり期待を寄せていた、サミーさんでも亜蓮さんでもなく、1番可能性のなさそうな雷さんがそこにいた。
 

■■■

「ほら、とりあえず涙拭けよ…ちっしょうがねえ」
鼻水を垂らして涙でずるずると顔を雷さんはティッシュで拭いてくれた。

「雷さん…よかっ…うっ」

雷さんの色白の細身の手に安心感を覚えた。見慣れたテディのそれとは随分違っていたから。

「もう何も言うな。大体分かるから。…クマ公がすまねえな」

僕の色々ひどい身体を見てそういった雷さん。僕とテディの間に何があったかなんて予想ついてるんだと思うと色々辛いし恥ずかしかった。

「ヒック、う…」
「まあテディのやつは今日撮影がスゲー長くてずっと帰ってこないからとりあえず安心しろ」

そうなんだ。それにしても久しぶりにテディ以外の人と話して安堵がすごい。

「ど、どうして僕はここにいるって分かったんですか?」
「それはなあ、テディの役作りが甘いからだ」
「…?」

「随分懐いていたはずの相手が突然いなくなったのに、テディはただメンバーに対して落ち込んで見せるだけ。実家まで捕まえに行ってやる!とかアイツならしそうだろ。
その辺の役作りが甘いんだよ。まあ辛そうな表情を作るだけならアイツもまあまあ上手かったが」
「あ…そっか、雷さんて子役だったんですもんね…」

腑に落ちた。

「まあね」
「この部屋の鍵はど、どうやって…?」
「適当に盗んだ。テディのやつ、随分寝不足っぽかったし、スッと取ってもバレなかった。俺はあとあと撮影で合流するからその時カバンに戻しとく。まずは状況把握だけでもしておきたかった」
「さ、さっすがあ…雷さんて頭良いんですね…」

ありがたくてついそう溢した僕だった。

「別に…」

視線をスッと逸らした雷さん。

「雷さんが来てくれて助かりました、本当雷さんは僕の救世主です。あ、ありがとうございます…」

雷さんはアッシュの髪色の頭後ろをガリガリと掻いた。

「まあ、ここから出してやると言いてーところだが。出したらあのクマがどう出るか分からん。次は地下牢獄かもな。次は俺も見つけられないかもしれない」
「うっ…!」

テディならあり得る。

「とりあえずこの部屋のスペアキーを手配しておく。俺とこうして繋がっておけば良い。…また来てやっても良いし」
「えっまた来てください、絶対来てください、雷さんがいないとダメです僕!!!」

縋り付いた僕、ちょっと目を丸くした雷さん。
ウザかった?でも遠慮してる場合じゃなかった!!!
 

 
それから僕は忙しい雷さんを引き留めて、僕はとめどなく話をした。誰かと話していたかったのだ。

「そ、それで他の皆さんはどうしてるんですか?!」
「…いや別に。亜蓮はいつも通りで、サミーは何かふさぎ込んでるけど、それだけ」
「そ、そうなんですね…」

亜蓮さん。僕のことやっぱりどうでも良くなっちゃったのかな。うう…胸が苦しかった。

「藍?」
「あっえ、何でもないです。そ、そういえば雷さんはここのところどう過ごしてました?」
「ああ?俺はなあ…藍に習った料理を全部覚えたぜ」

結構教えたけど、もう覚えちゃったの?

「え!?そうだったんですか。忙しいだろうに、さ、さすがあ…デキる人なんですね」
「……」
スン、と黙ってしまった雷さん。

「ど…どうしたんですか?雷さん」
「いや、俺の母さんも昔は良く褒めてくれたなと思い返してた。藍の褒め方がな、母さんにちょっと似てたってだけ…子役時代の話だけど…」

 
僕はまたもメンバーの変な地雷を踏んでしまったことに、この時まだ気づいていない。


 
 



続く
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