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第三章 廃墟の遊園地

30話 ザ・キャプテン・バーサーカー

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私たちはバイキングのあるアトラクション前まで来て、とんでもない者に遭遇していた。

「来た来た来たーーーー! お客だーーーー! イエーーイ! ヒャッハー!」

それは船長服とその手の帽子を身に付けたガイコツであった。

(あははははは……もう隠れる気もないのかしら……さっきの馬はまだいいとして、貴方は昼間から全力全開で出てきてはダメでしょうが……)

そう夜中ならともかく、こんな昼間から動き喋るガイコツは違和感しか読んではくれない。ましてや相手はお化けとしての自覚がないのか、大喜びで握手を求めてくる始末。

「ありがとーー! 本当にありがとーー! さまよい続けて数百年やっと、自慢の船を手に入れたのだが、誰にも自慢できなくて本当に困ってたんだぞ」

クレヴァナルのメンバーと次々に握手をする。その手は本物の骨であり、コツコツとしていて妙に冷たく、中身のないスカスカな手のひらだった。

「古い遊園地なのにこの着ぐるみはよくできてる……本当にスケルトンみたいにスカスカのボディ……」

(いやこれは本物のガイコツですよ~~ビーブリオテーカ様 ってツッコんでも現実主義者のこのお方にはつうじないのでしょうね~~)

「これホントに着ぐるみ何ですか? っていうか無人のはずの遊園地に係の人がいるんですか?」

(ソリトゥス様、正論です)

「フーハッハッハッハッ! よろしく頼むぞ! 見知らぬガイコツよ! そして聞くがいい! 我々はクレヴァナル! 世界征服をもくろむ闇と混沌の大邪神組織である! そのリーダーを務めるのが私! 名をダークネス・カイザーとい!」

(さすがダークネス・カイザー様、臨機応変に対応なさるわね、とても絵になるわ~~)

「そうか! よくわからんがよろしくな! 俺の名はキャプテン・バーサーカー! この世のありとあらゆる物を貪りつくし、女を知り、酒の味も覚えた、正真正銘の海賊団の船長様だぜ!」

「な、何だと、お前が、正真正銘の海賊だと! 数百年も自分の船を探していたというのは本当か!?」

「ああぁ、本当だぜ! こちとら伊達に船長はやってない。まぁ、たまたま昼寝をしていたら、船員たちに反逆されて、海賊船から小舟で島流しをくらって、餓死し、こうして骨と服だけの姿になっちまったが、そのおかげでこいつと、スピリットナービズと出会えたんだからなぁ」

奥のバイキング船にグッジョブの形で親指を向けながら、意気揚々と話すキャプテン・バーサーカーだった。

(この二人相性がいい……少し嫉妬してしまうわ)

「主様、あのガイコツと黒条氏の波調は、かなり合うのではありませんか……?」

「(そうね~~って、言ってる場合? このガイコツも除霊しなくちゃいけないのよ!)」

「――おいおい! こいつとんでもないぞ! 魔力値数がハンパじゃねぇ! こいつはそっとやちょっとじゃ払いきれないぞ! それこそ除霊の専門家を野党ぐらいしないと消えてはくれないぜ!」

右肩に乗るデビルンがおおはしゃぎでガイコツのステータスを伝えてきた。

「(えぇ~~じゃあどうすればいいのよ)」

「なんだぁ? さっきっから俺のことじっと見て、この俺のナイスガイな姿に惚れこんじまったのか? 構わん許そう」

「(なんでそうなるの……とりあえず、まずは握手からね)ゴホン――クリスチャンクリスチャン! カメラ回して!」

「あっはいは~~い!」

動画投稿用の撮影カメラを持っていたクリスチャンを呼びつけた。

「握手、してもらえるかしら。キャプテン・バーサーカーさん」

「おう! いいぜ!」

私とキャプテン・バーサーカーさんの握手姿が、見事カメラに収められた。

(どうしよう……この場合、危険がないなら除霊しなくてもいいのかしら……?)

「――さて、景気のいい挨拶はここまでだ! いいか全員よく聞け! この俺にお前たちの荷物を全部そのまま服も残らず渡してもらおうか! そしたら命までは取りゃしねーぞ!」

腰に装備された湾曲刀、ザ・パイレーツソードを抜刀しながらそう言った。刃がギラリと光を反射するのが、眩しくって仕方がない。

(これは、除霊しなきゃダメなお化けねぇ~~)

「そういうキャラ付け……?」

ビーブリオテーカ様がささやかにツッコミを入れた。

「あっ、バ、バイキングに乗るには荷物を降ろさないと……と、というか起動できるんですか?」

ソリトゥス様は全ての荷物を足元に降ろした。

「荷物はそこではない! ザ・スピリットナービズに乗せろ!」

「まぁまぁ、落ち着きたまえ、キャプテン・バーサーカーよ! 何の代償もなくザ・スピリットナービズに乗り込もうとは誰も考えていない! こちらへ来たまえ!」

言われるがまま、キャプテン・バーサーカーはダークネス・カイザー様の元へと向かってある物を受けっとた。

「こ、こいつは金塊か!? しかもこんなに!?」

「これを貴君に献上するから今回は見逃してくれ!」

近寄って、見てみると、小袋を手渡すダークネス・カイザー様、その中には金塊というより、数百枚の五円玉が敷き詰められていた。

「――こ、こんなに金塊が…………いいだろう! 取引成立だ!」

固い固い握手を両者は結んだ。

(正確には、金塊とはかすりもしないのに、取り引きが成立している……さすがダークネス・カイザー様)

キャプテン・バーサーカーはようやくザ・パイレーツソードを納刀し、私たちはザ・スピリットナービズの乗船に成功する。
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