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終章 もう少し夢は続いていく

呪いを解くという告白

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 そのまま待合室へと向かうと、まだ数人の患者さんが椅子に座って残っていたり、次の診察時間になるまで待っていたりする。その中に見知った顔を発見した。

「フェリカさーん。受付にお越しください」

 診療所の受付さんに呼ばれたのは、俺の後輩にあたるフェリカだった。彼女はすぐに立ち上がって受付へと足を運んでいく。
 途中で俺の存在に気が付いたようだが、何も見なかったかのように視線を受付へと戻していた。

(……怒っている? それとも愛想を着かされてしまったか? どちらにしろ関係修復の道は長くなりそうだ)

 以前のフェリカは、衰弱者の一人だったが、もうすっかり身体の調子も良くなって、普通に動き回ることが出来ていた。彼女がここを訪れたのは、栄養剤の購入の為だろう。数本の瓶を受付さんから渡されて、肩に提げていたバックにしまい込んでいた。
 俺は、待合室の出入り口である――ガラス張りの扉を開いて、診療所の外へと足を踏みだして行った。そして街の風景へと溶け込んでいく。

(……どう声を掛けるべきなんだろう。告白の話題を引きずるのも良くないよなぁ……いつも通りに接してしまってもいいのだろうか。それとも、こういうのには、時間が必要なんだろうか……わからないなぁ、どうすればいいんだ?)

 俺が考え事をしながら道をトボトボと歩いていると、

「――せ、先輩、待ってください」
「――――!?」

 その呼び声に対して俺は振り向いてみると、フェリカが後ろに立っていた。どうやら俺を追いかけて来ていたようだ。

「……どうして、先に行ってしまうんですか……?」
「えっ、どうしてって……言われても……」
「私のこと、嫌いになりましたか? 先輩の恋が気持ちの悪いものだと一蹴したから、私とはもう――お話をしたくないんですか?」

 弱々しく申し上げていた。

「……そんなつもりはないさ。むしろどうやって話しかけようかなって……え、俺の恋が気持ち悪い?」
「はい、壁画の人なんかに恋をするなんて気持ちが悪いです」
「……た、確かに俺もそう思うけど、もう少し言い方とか考えてほしいな……流石にそうハッキリと言われてしまうと……傷つく」
「それは、ごめんなさい。では――気持ちが良くないです――とかどうですか……」
「……もっと別の言い方を探そうか」
「か、考えておきます。いえ、そうではなくて、私が言いたいのはそうではなくて……」

 フェリカは胸に手を当てて、スーハースーハーと深呼吸を始めると、心に落ち着きを取り戻したように向き直り、バッグの肩紐をキュッと握りしめて宣言する。

「――わ、私は、先輩があの不吉な方に恋をするような人でもいいです。この好きな気持ちに変わりはありません……だから決めたんです。私が先輩に掛けられてしまったヴァラレイスの呪いを解いてあげようって……」
「――――!?」
「――先輩、いつか私が悪夢から目を覚まさせてあげますから……そのつもりで居てください」

 宣言を終えたフェリカはこちらに背中を向けると、一歩踏み出して、堂々と街道を歩いていく。

「…………悪夢か……(うん、その言い方が的を得ているかもしれないな)」

 俺も踵を返して歩き出し、街の雑踏に紛れていく。
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