上 下
57 / 69
第四章 希望華

仕組まれた真実

しおりを挟む
「――――と、扉?」
「……十日前、君と私が歴史会館の大壁画の間であった時には、もう既に始まっていたのだぞ」

(…………十日前)

 思い起こす。その日は確か……フェリカの告白があり……その後――歴史会館に立ち寄って、ヴァラレイスの壁画の前で、思いを告げた後、ゴダルセッキと会って……

(――っ!? ま、まさか!?)

 あの日、ゴダルセッキが咳き込んでいたのを思い出した。

「そう、あの日――私はあの場に絶望華を持ち込んでいたのだ。君の体内に花粉を取り込ませ、悪夢種を生み出すためにな……時間を調整するのには苦労したがね」
「――時間の調整?」
「言ってしまえば、君はずっと監視されていたんだ。フォレンリース学庭園には私の知り合いが他にもいるんだ。彼らに君の学園生活を教えてもらっていた。だから、まず少女に夢を見せることにしたんだ」
「――待ってくれ、少女って、フェリカの事?」
「そうだとも、他に君を動かせるほどの夢を見ている者はいないはずだ」
「彼女の恋心を利用したのか? 俺をあの大壁画の間に足を運ばせるために……」
「――それだけではない、アレは花粉を吸いこませた後、種の発現は――どの程度の期間が必要かという実験でもあった」
(フェリカで実験だって?)
「とにかく思い悩むだろうキミは、必ずあの壁画まで足を運ぶ、私はその時間に絶望華を持ってあの場に現れたのだ」
「――あの時そんなことを……まさか、禁止区域の扉が破られていたのは……」
「キミが入り込むには、あの門は邪魔だろう。だから警備員の男に悪夢を見せて、破らせておいた。上手く彼は働いてくれたようだ。今はどこで何をしているのか……まぁ、私には関係ないことだな」
「――じゃあ、俺が見たあの悪夢は、全部あなたが仕組んだことだったのか?」
「君がどんな悪夢を見ていたか知らないが、見せるように仕向けたのは私だ」

「――私も、聞いていいか? 何故、ホロムを使った」

 ヴァラレイスが口を挟んだ。

「ホロムのヴァラレイスに対する感情は本物だった。地獄の底に落ちてでも、会いに行きたいという強い願望があった。――しかし、決して叶うことのない願いを持つということは、決して苦しみから逃れられないことを意味している。ホロムはキミを知った瞬間、心のどこかで絶望したはずだ。この思いは絶対に届かないのだと、今は大丈夫でも、後々この苦しみは大きくなる。そうなればその生涯は失望で終わっていくのだ。そんな自分のせいで絶望する彼を、この世界を怨望してしまう彼を、君は放ってはおけまいだろう」

「……………………」

 ヴァラレイスが黙り込む。

「――お、俺のこの思いを使って、ヴァラレイスを誘き出したって言うのか? そのためにフェリカを、この国の人達全てを巻き込んだのか……?」
「代わりに君は悪夢を叶えることができた。君と私に違いはないぞ。周りは悪夢を叶えようと暴走する中、一人だけ夢を先に叶えて、他者の夢を否定するのは虫のいい話でしかないのだ……彼女に会えて喜んだのだろう? 悪夢が実現して嬉しかっただろう? 次は私が叶える番だというだけの話だ」
「――――――」

 俺はゴダルセッキという男が怖くなった。

「……ヴァラレイスそろそろ希望を返そう。その絶望は我々の物だ」
「――――くっ!?」

 ゴダルセッキは鏡の裏側に、円錐状の花を一輪だけ回り込ませ、確実に彼女に光を浴びせられる位置で止まらせる。それに対処するべくヴァラレイスは瀕死の身体を動かして、逃れるように鏡を回すのだが、間に合わない――希望の光線が――カァっと輝いて放たれる。

 ――だが光が放たれる瞬間、一輪の花は――パァン――と破裂する。

「「――――!?」」

 ゴダルセッキとヴァラレイスがそれぞれ、目を見開き驚ていた。

「……わかった、悪夢から覚めればいいんだろ……それなら文句はないはずだ。ゴダルセッキさん」

「どういう意味だ?」
「この事件が終わったら、俺は彼女を元の場所へ送り届けるよ」
「せっかく叶えてやった夢を棒に振るつもりか? ここで手放してしまったら永遠に失うのだぞ。彼女に希望を返せば、ヴァラレイスはもう底へ戻ることもない。ずっと一緒にいられるんだぞ。何が不服なんだ? 他人が気になるか? よもや、君までヴァラレイスのように絶望に耐える人生を歩むつもりではないだろうな?」
「――あなたが夢を叶えてくれたんじゃない。ヴァラレイスが俺の呼びかけに答えてくれただけだ」

「――もうそれでいいさ、だから、床で寝ていてくれたまえ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ボッチの高校生が異世界の少女にスカウトされて悪夢を救う魔道士に転職 -ナイトメア・ハンター-

nusuto
ファンタジー
ボッチの東条郁人は魔道士の少女によって異世界に招待される。異世界では黒魔術師や悪夢によって支配され、国民が安心して眠れない世界だった。主人公は転移したときに妖精から貰った魔法を駆使して、国を脅かす黒魔術師を倒す。そしてメイドや魔道士の仲間、女王様と一緒に世界を救うために戦い続ける。ハーレムや主人公最強、異世界ファンタジーが好きな方にオススメです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...