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第四章 希望華

水の腕vs光の三輪花

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 俺はもう一度、水の腕を現実に思い描いていく。そして壁際に掛けられている真っ黒いカーテンを、強引に引き千切って巻き付かせた。
 四輪から光線が放たれる。鏡を有効活用するために、わざとその場から移動したのだが――狙いは俺だったようだ。
 俺は光線にも構わず走り出し、真っ黒いカーテンを巻き付けた水の腕を早速盾に使うことにした。四本の光線を受けた水の腕は、しかし黒いカーテンを突破することなく防ぎきってくれる。

(――ここにある照明具は、日の光が差し込みそうにない室内なのに、これ程の輝きだ。本来――吸明液は日中に光を蓄えて――夜間に放出するもので――ずっと光を保持させておくことは出来ない。つまり、ここのカーテンがそれをさせない特別な物だからだ。例えば、光を長期間――保持させておける繊維で作られているとか)

 その考えは当たっていたようで、光を浴びたカーテンは何一つ影響が出ることはなかった。光を無力化して走り続ける俺は、ゴダルセッキへと接近――しかし、察知されて離れられてしまう。だが――水の腕を伸ばして一輪の花を掴み取り、潰して散らせた。

「――考えたな。ホロム……しかし、これならどうかな」

 膨大な光が、三輪の花のそれぞれに集中され、天井の一点に向けて放たれていくと、材質をぶち抜いて夜空の彼方へと希望の線が伸びていく。

(――破られた天井の瓦礫が!?)

 俺に向かって降りかかり――ドドドドドドドドドっと、フロア全体で轟音を響かせた。

「――ホロム!!」
(――い、生きているよ!!)

 ヴァラレイスの呼びかけに、俺は何とか応えて無事を報せた。しかし降りかかってきた瓦礫に真っ黒いカーテンはズタズタにされる。水の腕も集中を切らせてか、物理的に壊されてしまったのか、とにかく無くなっていた。何とか瓦礫を潜り抜け、視界を確保し、ゴダルセッキの姿を探していたが――いつの間にか、俺の真上に――三輪の円錐状の花が設置されているのに気が付いた。

「――――平等なる散光波」

 その一言で膨大な光が上から拡散し、

「――ぐがあああああああああああああ!!」

 俺は押し付けられるように希望の輝きを浴びせられた。それから逃れるためにがむしゃらに走り回って抜け出した。

「はぁ、はぁ……げっほ、ええっほ」

 俺は酷い灼熱感を味わった。

「――や、やりすぎだお前! 彼の精神を蒸発させる気か! 今の一撃、命を落としかねなかったぞ!」

 ヴァラレイスが珍しく声を張り上げた。し、しかも俺の為にだ。

「――案ずるな、そうならないように配慮はした。ホロムには今回の事で世話になったからな、止まってくれさえくれればそれでいい……」

「――っ!? せ、世話になった? どういう、ことだ……」

 身体の異常に耐えながら、声を振り絞って聞いてみた。

「なんだ? まだ気づいていないのか? 君は私のために働いてくれたというのに…………いや、自分の望みを叶えたつもりになっているのだから、勘違いするのも仕方がないか。ホロム、君はヴァラレイス・アイタンを呼び出す為の扉にだったんだ」
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