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第四章 希望華

父さんの最後の手紙

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「父さんの最後の手紙? そんなの身に覚えがない」
「当然だろう。事故の報せと共に送られてきた物だ。私しか内容を知らないし、他の誰にも触れさせていない」
「…………父さんが知った。ヴァラレイスの真実の姿……」

 俺の興味は自然と手紙に吸い込まれていく。

「古文伝では、ヴァラレイスは周囲の幸福を願って落ちたと、言い伝えられているな」
「はい」
「この手紙の内容は違う。グラム氏が提唱するヴァラレイスの真実の姿が書き連ねてあった。キミも読んでみたまえ……」

 ゴダルセッキさんがこちらに手紙をスッと放り投げる。すると、俺の足元まで届き、拾い上げる。

(ヴァラレイス……)

 一応、彼女に関することなので、読んでいいものかどうか確認を取るために目配せをする。

「……構わない」

 うづくまりながら呟いた。許可をくれたので手紙に目を通す。

(……間違いない、父さんの字だ)

 ここから手紙を読み込んで行く。

 私の名はグラル・ターケン。しがない歴史家だ。
 今回、私はヴァラレイス・アイタンに深い関りのある遺跡へと赴き、その地で気づいたことをまとめておく。
 古文伝では、彼女は全世界に望まれて、自らの意思でその身を地獄の底へと落としていった。と伝えられているが、今回新たに分かったことがある。
 遺跡にて、見落としてしまいそうな場所に、隠し部屋の存在を我々は知った。念入りの調べて、ある暗号を発見し解析した。それにはこう書かれていた。

 ――ヴァラレイス・アイタンは全世界に望まれたキノコ。

 このキノコという言葉は、当時は希望の子を意味する希の子と呼ばれてのものだ。
 この一文からわかることは以下の通りだ。
 実は数千年前の、あらゆる負と敗の現象は全てヴァラレイス本人が原因だった可能性が高い。とは言ったものの、彼女はごく普通の少女に変わりはなく、何かしらの力を使用して、自らの意思でそうしていたわけでもない。
 彼女は世界に望まれすぎていた。その一点に尽きるだろう。
 すなわち彼女こそが、その時代の全ての希望だったという説だ。
 だからこそ数千年前、世界に絶望が満ちていたのではなく、彼女の誕生が世界の希望を持ち去ってしまったのではないかという新仮説が浮上した。
 絶望にまみれた世界の住人は、ただ一人だけ希望を手にしている彼女が許せなかったはずだろう。そうなれば、彼女は底へ自ら望んで落ちたのではなく、世界に押し付けられて落とされたことになる。
 そうして彼女の持っていた希望は、この世界へと循環され、逆にこれから世界で起こるはずだった絶望の数々が、全てが押し付けられたのだとしたら、その恨みと憎しみは相当深いものになるはずだろう。
 とりあえずここまでをまとめておく。

 こうして書いてみてわかったのだが、あまり彼女の真相に近づくべきではないのかもしれない。
 我々の追及が、彼女の癪に触ってしまえば、命すら危ういかもしれない。
 それでも知らなくてはならない。我々の日常が、彼女の犠牲で成り立っているのなら、世界中で感謝の意を示さなくてはならないのだ。
 だから私は明日も遺跡で調べようと思う。
 いつの日かヴァラレイス・アイタンが恨みや憎しみを持ってこの世界に舞い戻ってこないように。
 私は真相を追いかけて、せめて彼女の無念の声を代わりに広めようと思う。

(……親愛なるヴァラレイス・アイタンどうか、我々の行いを今しがた許して欲しい)

 そこで文字の列はなくなった。
 俺は手紙を最後まで読み切り折り畳んで、ポケットにしまっておく。
 そして――ちらりとヴァラレイスの方を見ると、顔を伏せたまま、浴びせられた光に耐えていた。そしてゴダルセッキさんと向き合う。
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