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第四章 希望華
橋を渡るのは簡単だった
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「あれ? あの人は確か禁止区域の警備員の人……」
以前、親切にも俺の質問に答えてくれた警備員さんがそこにいた。
「ふん、どうやら植樹肉者に成り果ててしまったみたいだな……」
真夜中の橋で佇む警備員の表情は、やはり以前とは違い、歯をむき出しにして怒りの形相を表していた。
「うぅ~~うぅ~~――ううっ!?」
警備員はこちらに気が付いて怒りの顔を向けてくる。
(この橋を渡れば国会樹治塔はすぐそこなのに、また喧嘩をしなくちゃいけないのか……向こうへ行くために遠回りなんてしても、あの人は悪夢を見たままだから、放っておくわけにもいかない)
いつ警備員がこちらに向かってきてもおかしくない、俺の警戒心は強まっていく。
「――俺はもう突っ立て居るだけなんて我慢がならないんだああああああああああ!! だから、好き勝手に暴れてやるんだああああああああああ!!」
突然――警備員が好き勝手に叫びだすと、両腕に丸太のような物が装着されてしまった
「(アレがあの人の、悪夢の形か)――ヴァラレイス下がっていてくれ。今度も何とかしてみるよ」
俺は彼女の前に一歩踏み出して格好をつけてみた。そして瞳を閉じて、脳内の意識を傾ける。
(とりあえず、まだ夢幻力の使い方に慣れていないから、ここは水の腕で対処してみよう。えっとまずは……夢を思い描くように――)
――そのとき、俺の思考を途切れさせる事態が発生した。
「お、おおおおああああああああああああああああ!!」
「――――なんだ!?」
突然――警備員の絶叫が耳の奥にまで響いてきて思考は中断された。俺は瞳を開いて状況を確認する。
警備員が倒れて藻掻きながら苦しんでいた。その傍らにはいつの間に移動したのか、ヴァラレイスが立っている。警備員の苦しむさまを、無表情ではあるが心苦しそうに見つめていた。
「――ヴァ、ヴァラレイス! いったい何があったんだ!? どうして警備員さんが苦しんでいるんだ!?」
「何がって、お前も見てただろ。純黒苦血を輸血して悪夢の苦しみを、さらなる苦しみで上乗せし慣れさせると……って、何度説明させる気だ……?」
「――そうじゃない。それは悪夢力を弱らせてからだったはずだろ? その為にはまず喧嘩をしないといけないって話じゃなかったか?」
「そうだとも、だから悪夢力を弱らせて、純黒苦血を輸血したんだ」
「……えっ、けど……俺はまだ喧嘩の準備すらしていなかったぞ?」
「なんだ……目を閉じていたのか? やったのは私だよ」
「――やったって……君が弱らせたのか?」
「時間もそろそろ余裕がなくなって来るだろう? だから、さっさと済ませた。回復したばかりのお前を使うのも、勿体ないしな」
(……俺が目を閉じていた一瞬で? 全部一人でやってしまったのか……)
橋の上で苦しんでいた警備員の叫びはやがて落ち着き、いびきを掻き始め熟睡していた。
「さぁ……行こう」
(……なぁ、ヴァラレイス。キミは一人で全てを片付けてしまえるのに、どうして俺に喧嘩をさせているんだ?)
「……………………」
俺の心の声を聞かないようにしていたのだろうか、彼女は問いに答えることもなく、ただ国会樹治塔を目指して歩いていくだけだった。
以前、親切にも俺の質問に答えてくれた警備員さんがそこにいた。
「ふん、どうやら植樹肉者に成り果ててしまったみたいだな……」
真夜中の橋で佇む警備員の表情は、やはり以前とは違い、歯をむき出しにして怒りの形相を表していた。
「うぅ~~うぅ~~――ううっ!?」
警備員はこちらに気が付いて怒りの顔を向けてくる。
(この橋を渡れば国会樹治塔はすぐそこなのに、また喧嘩をしなくちゃいけないのか……向こうへ行くために遠回りなんてしても、あの人は悪夢を見たままだから、放っておくわけにもいかない)
いつ警備員がこちらに向かってきてもおかしくない、俺の警戒心は強まっていく。
「――俺はもう突っ立て居るだけなんて我慢がならないんだああああああああああ!! だから、好き勝手に暴れてやるんだああああああああああ!!」
突然――警備員が好き勝手に叫びだすと、両腕に丸太のような物が装着されてしまった
「(アレがあの人の、悪夢の形か)――ヴァラレイス下がっていてくれ。今度も何とかしてみるよ」
俺は彼女の前に一歩踏み出して格好をつけてみた。そして瞳を閉じて、脳内の意識を傾ける。
(とりあえず、まだ夢幻力の使い方に慣れていないから、ここは水の腕で対処してみよう。えっとまずは……夢を思い描くように――)
――そのとき、俺の思考を途切れさせる事態が発生した。
「お、おおおおああああああああああああああああ!!」
「――――なんだ!?」
突然――警備員の絶叫が耳の奥にまで響いてきて思考は中断された。俺は瞳を開いて状況を確認する。
警備員が倒れて藻掻きながら苦しんでいた。その傍らにはいつの間に移動したのか、ヴァラレイスが立っている。警備員の苦しむさまを、無表情ではあるが心苦しそうに見つめていた。
「――ヴァ、ヴァラレイス! いったい何があったんだ!? どうして警備員さんが苦しんでいるんだ!?」
「何がって、お前も見てただろ。純黒苦血を輸血して悪夢の苦しみを、さらなる苦しみで上乗せし慣れさせると……って、何度説明させる気だ……?」
「――そうじゃない。それは悪夢力を弱らせてからだったはずだろ? その為にはまず喧嘩をしないといけないって話じゃなかったか?」
「そうだとも、だから悪夢力を弱らせて、純黒苦血を輸血したんだ」
「……えっ、けど……俺はまだ喧嘩の準備すらしていなかったぞ?」
「なんだ……目を閉じていたのか? やったのは私だよ」
「――やったって……君が弱らせたのか?」
「時間もそろそろ余裕がなくなって来るだろう? だから、さっさと済ませた。回復したばかりのお前を使うのも、勿体ないしな」
(……俺が目を閉じていた一瞬で? 全部一人でやってしまったのか……)
橋の上で苦しんでいた警備員の叫びはやがて落ち着き、いびきを掻き始め熟睡していた。
「さぁ……行こう」
(……なぁ、ヴァラレイス。キミは一人で全てを片付けてしまえるのに、どうして俺に喧嘩をさせているんだ?)
「……………………」
俺の心の声を聞かないようにしていたのだろうか、彼女は問いに答えることもなく、ただ国会樹治塔を目指して歩いていくだけだった。
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