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第四章 希望華
ヴァラレイが用意したご馳走
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フォレンリース国の中央区域では、白葉の木が至るところで生えている。
夜空の下でも白葉の木が輝きを放っているのは、照明具が巻き付かれているからだ。季節によっては白葉の木を背景に、祭りごとを催すこともある。それを目当てに多くの人が集まってくる場所でもあり、常に道は綺麗に整備されている。
俺とヴァラレイスは中央区域を闊歩していた。ただひたすら目的地めがけて道を歩き続けている。向かう場所は絶望華が保管されている可能性が高いフォレンリース国会樹治塔だ。
「……どうした? 遅いぞホロム」
「……はぁ、はぁ、ご、ごめん。け、けど、疲れているんだ。最近何かと気が休まる暇もなかったし……少し多めに見てくれないか」
「…………確かに私も働かせすぎたところはあるな。わかった少しだけ休みを取ろう」
「――う、うわっ!!」
俺の身体がヴァラレイスの不思議な力で浮き上がった。彼女は手を上に動かしただけなのだが、この現象に理屈が働いていない。
「――そうだ。こ、この力を使って、俺を運んでくれればいいよ。い、急いでいるんだろ」
「私は別に焦っている訳じゃない。日が昇るのもまだ先だし、時間ならある。だが、いざという時、お前が使い物にならないと意味がないんだ……だから、ここで少し休んでいろ」
ヴァラレイスの念力? で移動させらた俺は、白葉の木の下に安置されていた木製のベンチに座らされた。
「そうは、言っても……って、どこに行くんだ」
「いいから待っていろ、期待させたくないから何も教えないが、すぐに戻ってくる」
そう言ってヴァラレイスは宙に浮かび上がってどこかに行ってしまった。
しかし数十分後、彼女は両手に色んな果実を抱えて戻ってきた。
「……これどうしたんだ?」
「どうしたって、お腹を空かしては、力も出て来ないだろうと思って、持って来たんだ」
「いや、だからどこから持って来たんだ? お店か? まさか人様の育てている果実畑から無断で取ってきたりしていないよな」
「誰がそんなおサルみたいなことをするものか! もっとマシな入手の仕方をしてきた。いいから食べろって」
「……じゃぁ、いただきます」
果実を一つ手に取って、かじりつきムシャムシャと食していく。みずみずしく甘みのある果実は疲れた身体を癒してくれた。
「……お、おいしいか? 食べられるものになっているか?」
カブリッ――「……どおいう、意味へ言っへいるんは?」――ゴクン。
「……知らない方が幸せだと思う」
なにか含みのあるセリフに聞こえた。
(……? まさかこの果実には何か秘密があるのか? 彼女はああいう口ぶりだけど、本当は世界の全ての不幸を肩代わりした女の子なんだ。本音はいつも隠しているんじゃないのか? なら、この果実には何かしらの彼女が込めた思いがあるんじゃないのか? 例えば……遠回しに俺への告白をしているとか)
「――腐っていた果実の負と敗を肩代わりし、熟して間もない状態に返してやったんだ」
呪詛のようなセリフが飛んできた。
「――――ゴ、ゴフゴッフ!! ――な、なんだって!?」
「口にしても問題なかったろ? なら気にするなよ。どうだ感想は? おいしかろう……?」
無感情の皮肉が来た。
(――彼女は腐った果実にさえ、そんな優しさを見せるのか。なんて素敵な女性なんだ)
「はぁ~~、ほんとに気色悪いなぁ……」
俺の心の声を聞いてしまった彼女は、もの凄く呆れ果てた溜息を吐き出していた。
それからしばらく俺たちはベンチで身体を休ませて、白葉の並木道を眺めていた。その間、ヴァラレイスは髪切り小鎌で自らの手首を切り裂いて、漏れ出た純黒苦血を綿状にして、フヨフヨと飛ばしていた。その時、祈るような慈しむような表情に俺は見とれていた。
「……さて、そろそろ行こうか?」
俺が先に提案して立ち上がると、ヴァラレイスも腰を上げて歩き出す。白葉の並木道を二人で行く。目的地である大きな塔は、既に視界に入ってきていた。
(街はやけに静かだな……ここの人たちも、避難していなくなったのだろうか)
「絶望華の花粉が風で流されてしまっているとはいえ、悪夢種の発現にも個人差はあるさ…………例えば日頃、なにに不自由することもなく暮らしている者とかな……夢すらないなら種も表れようがない」
「そうか、確かに白葉の区域の人たちはフォレンリースでは上流層の人たちが多い。叶いそうにない夢を見たりすることとは、縁遠いのかもしれない」
「……まぁ、ただ眠っているだけだろう。それにあの花粉には、夜中になると強い睡眠効果が作用する。ちょっとやそっとで起きることはないから、多少の騒ぎが身近で起きていても目覚めないだろうな」
「そこまでの効果があるのか…………ん?」
話しているうちに、白葉の並木道から大きなかけ橋に足を踏み込んだのだが、橋の中央部分に大柄な人影があった。
夜空の下でも白葉の木が輝きを放っているのは、照明具が巻き付かれているからだ。季節によっては白葉の木を背景に、祭りごとを催すこともある。それを目当てに多くの人が集まってくる場所でもあり、常に道は綺麗に整備されている。
俺とヴァラレイスは中央区域を闊歩していた。ただひたすら目的地めがけて道を歩き続けている。向かう場所は絶望華が保管されている可能性が高いフォレンリース国会樹治塔だ。
「……どうした? 遅いぞホロム」
「……はぁ、はぁ、ご、ごめん。け、けど、疲れているんだ。最近何かと気が休まる暇もなかったし……少し多めに見てくれないか」
「…………確かに私も働かせすぎたところはあるな。わかった少しだけ休みを取ろう」
「――う、うわっ!!」
俺の身体がヴァラレイスの不思議な力で浮き上がった。彼女は手を上に動かしただけなのだが、この現象に理屈が働いていない。
「――そうだ。こ、この力を使って、俺を運んでくれればいいよ。い、急いでいるんだろ」
「私は別に焦っている訳じゃない。日が昇るのもまだ先だし、時間ならある。だが、いざという時、お前が使い物にならないと意味がないんだ……だから、ここで少し休んでいろ」
ヴァラレイスの念力? で移動させらた俺は、白葉の木の下に安置されていた木製のベンチに座らされた。
「そうは、言っても……って、どこに行くんだ」
「いいから待っていろ、期待させたくないから何も教えないが、すぐに戻ってくる」
そう言ってヴァラレイスは宙に浮かび上がってどこかに行ってしまった。
しかし数十分後、彼女は両手に色んな果実を抱えて戻ってきた。
「……これどうしたんだ?」
「どうしたって、お腹を空かしては、力も出て来ないだろうと思って、持って来たんだ」
「いや、だからどこから持って来たんだ? お店か? まさか人様の育てている果実畑から無断で取ってきたりしていないよな」
「誰がそんなおサルみたいなことをするものか! もっとマシな入手の仕方をしてきた。いいから食べろって」
「……じゃぁ、いただきます」
果実を一つ手に取って、かじりつきムシャムシャと食していく。みずみずしく甘みのある果実は疲れた身体を癒してくれた。
「……お、おいしいか? 食べられるものになっているか?」
カブリッ――「……どおいう、意味へ言っへいるんは?」――ゴクン。
「……知らない方が幸せだと思う」
なにか含みのあるセリフに聞こえた。
(……? まさかこの果実には何か秘密があるのか? 彼女はああいう口ぶりだけど、本当は世界の全ての不幸を肩代わりした女の子なんだ。本音はいつも隠しているんじゃないのか? なら、この果実には何かしらの彼女が込めた思いがあるんじゃないのか? 例えば……遠回しに俺への告白をしているとか)
「――腐っていた果実の負と敗を肩代わりし、熟して間もない状態に返してやったんだ」
呪詛のようなセリフが飛んできた。
「――――ゴ、ゴフゴッフ!! ――な、なんだって!?」
「口にしても問題なかったろ? なら気にするなよ。どうだ感想は? おいしかろう……?」
無感情の皮肉が来た。
(――彼女は腐った果実にさえ、そんな優しさを見せるのか。なんて素敵な女性なんだ)
「はぁ~~、ほんとに気色悪いなぁ……」
俺の心の声を聞いてしまった彼女は、もの凄く呆れ果てた溜息を吐き出していた。
それからしばらく俺たちはベンチで身体を休ませて、白葉の並木道を眺めていた。その間、ヴァラレイスは髪切り小鎌で自らの手首を切り裂いて、漏れ出た純黒苦血を綿状にして、フヨフヨと飛ばしていた。その時、祈るような慈しむような表情に俺は見とれていた。
「……さて、そろそろ行こうか?」
俺が先に提案して立ち上がると、ヴァラレイスも腰を上げて歩き出す。白葉の並木道を二人で行く。目的地である大きな塔は、既に視界に入ってきていた。
(街はやけに静かだな……ここの人たちも、避難していなくなったのだろうか)
「絶望華の花粉が風で流されてしまっているとはいえ、悪夢種の発現にも個人差はあるさ…………例えば日頃、なにに不自由することもなく暮らしている者とかな……夢すらないなら種も表れようがない」
「そうか、確かに白葉の区域の人たちはフォレンリースでは上流層の人たちが多い。叶いそうにない夢を見たりすることとは、縁遠いのかもしれない」
「……まぁ、ただ眠っているだけだろう。それにあの花粉には、夜中になると強い睡眠効果が作用する。ちょっとやそっとで起きることはないから、多少の騒ぎが身近で起きていても目覚めないだろうな」
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